ソーシャルメディア時代、企業はFacebookやInstagramへの投稿を通じて、容易に多くの人に発信を行えるようになった。しかし、一方的に発信された情報への消費者のリアクションの薄さに多くの企業が悩んでおり、プライベートな対話ができるより小規模なコミュニティの創出や、パーソナライズされたメッセージを送るためのプラットフォームの活用に注目が集まっている。
リテールのマーケティング戦略は、量より質に変化しているとの見方もある中、関心が高まっているのが「マイクロコミュニティ」だ。マイクロコミュニティとは、興味や趣味嗜好を共有する小規模なグループで、それ自体はそれほど新しい概念ではない。しかし、ソーシャルメディア上に情報が氾濫している昨今、より効率的な発信手段として、このマイクロコミュニティの活用が進んでいる。
Coach、Urban Outfittersなど海外の人気アパレルブランドも力を注ぐ、より小さい、プライベートで、質を重視したコミュニティ「マイクロコミュニティ」とはどのようなものか。その創出と活用はどのようにして行われているのだろうか。
注目を集めるマイクロコミュニティマーケティング
ソーシャルメディアのフォロワーは増えているのに、なぜか商品の購入につながっていない。つまり、フォロワーが顧客になりづらい、という悩みを抱える会社が増えているという。
その理由の一つは、オーガニックリーチの減少だ。オーガニックリーチとは、特に広告費をかけることなく、ソーシャルメディアの自社ページに投稿するだけで、フォロワーにその投稿が届けられることを指すが、これがどんどん困難になっているのだ。
これは、より多くの会社が、より頻繁に、ソーシャルメディアに投稿を行うようになったことが影響している。情報が氾濫していることで、フォロワーが特定の投稿を目にしづらくなっているのだ。
また、最近の投稿の表示アルゴリズムの変更も一因となっている。たとえば、Facebookのニュースフィードに表示されるコンテンツは、独自のアルゴリズムによってユーザーにあわせてパーソナライズされているが、Facebook社によると、1人の利用者がログインするたびに、平均1,500本の記事が表示枠を争い、結果表示されるのは約300本にすぎないという。
そのため、より多くのブランドが、リピート購入者や、SNSへの投稿に最も反応している人といった上位数%のファンを手始めに、より小規模の、より自社の製品に関心の高いグループを作り、そのコミュニティに対する発信へと注力するようになりつつある。
Instagramの非公開のプライベートアカウントといった、既存のツールの活用もその方法のひとつだ。
SNS映えするマカロンカラーのパッケージがかわいい、米国のミレニアル世代を中心に爆発的に売れている美容ブランド「Glossier」の場合、通常、ビジネスコミュニケーションツールとして使われるSlackを活用した。
美容ブロガーから10億ドルのコスメブランドの創設者となったCEOのエミリー・ウェスは、会社を設立した初期の頃、Slackで、最も熱心なファン約1,000人のための専用チャンネルを立ち上げ、さらにトップ100人の顧客は独自のコミュニティを通じて直接フィードバックをできるようにした。この緊密で双方向のコミュニケーションは、「顧客と一緒に創り上げるコスメ」を掲げるGlossierのサクセスストーリーの鍵のひとつとして語られている。
緊密で、双方向のコミュニケーションの重視は、インフルエンサーマーケティングにも波及している。マイクロインフルエンサーとよばれる、フォロワー数こそ数百人と多くないもののフォロワーに深く信頼されている人たちが企業に起用されるようになっているのだ。
芸能人のようなメガインフルエンサーへの依頼は、ブランドの認知度を高めるが、自社ブランドの忠実なファンを増やすという観点では、コストパフォーマンス的に疑問を覚える企業が増えている。
一方、マイクロインフルエンサーは、フォロワー数が多くないだけに、コメント欄やストーリー、チャットを通じて、フォロワーと双方向のやりとりをすることも多い。若い世代に特化したロンドンの広告エージェンシーZakが昨年実施した調査によると、若い消費者の多くはオープンフォーラムよりもプライベートチャットでの会話を好むことが判明している。特に若い世代へリーチするためには、マイクロインフルエンサー活用の有用性は高いのだろう。
インスタグラムで、フォロワー購入や自動BOTによる「いいね!」など数のごまかしが簡単にできる時代だからこそ、フォロワーの数よりもフォロワーとどれだけ緊密に関わり、信頼されているかという質の側面に、より関心が向けられるようになっているのかもしれない。
ブランドへの帰属意識、双方向の対話を望む若い世代
より密なコミュニケーションへのニーズの高まりによって、顧客へのメッセージ発信もパーソナライズすることが求められている。
メッセージ配信プラットフォームを開発する「Attentive」は、累計調達額1億2,400万ドルを達成し、昨年には顧客数が347%増加するなど、大躍進しているニューヨーク発のスタートアップだ。商品のキャンセル、初回購入といったタイミングで、消費者ごとにAIがカスタマイズしたメッセージを送信するサービスで、SMSメッセージを利用することでよりパーソナルな印象を顧客に与えることに成功し、開封率は99%にも達しているという。
このように、マイクロコミュニティやパーソナライズされたメッセージが求められるようになっている背景には、オンラインコミュニティへの帰属意識の高まりがあるとも言われる。
これまでのコミュニティといえば、学校や職場、趣味の集まり、近くに住む友人たち、といった居住地に紐づいたものだった。しかしミレニアル世代は、Facebookグループやオンラインフォーラム、グループチャットなど、オンライン上のコミュニティメンバーとのつながりを強く感じている割合が、上の世代と比較して多い。
先述のコスメブランド Glossierが発する「美は楽しむもの」、リアーナのブランド「FENTY」が掲げる「美の多様性の追求」など、最近大ヒットしたブランドにはメッセージ性を持つものが多いが、私たちが好きなブランドの商品を買うとき、デザインや機能だけでなく、そのブランドが発するメッセージやテーマなどへの共感がひとつのモチベーションになっている。
そんなテーマへの共感が、そのブランドの社員や他のファンとのオンライン上での一体感や帰属意識を生み出し、「マイクロコミュニティ」を企業の戦略としてだけでなく、顧客の側からも求められる存在にしているのだろう。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)