実はオランダで「合法」ではない大麻の利用。その歴史と現状、とある「非違法」大麻製品ブランドのビジネス

「合法」ではなく「非犯罪化」のオランダの大麻利用。違いは?

現在筆者が暮らすオランダでは、18歳以上の成人は大麻を使用・栽培することができる。

しかしオランダで大麻の利用は「合法」ではない。現在でも国連条約・国内法ともに公式には「違法」だ。ただし国内法では「大麻の利用が二次的な問題を引き起こさない限り」という条件付きで、また利用に関するさまざまな制約のもとに、個人による栽培・所持・利用が「非犯罪化」「許容」されている。

数年前に主にアメリカ大陸で、大麻の娯楽利用が正式に「OK」になっていったことは記憶に新しい。もっともインパクトがあったのはカナダのトゥルドー首相が先進国で初めて「娯楽利用の合法化」をしたことだろうか。同時期にアメリカでも州ごとに大麻の利用が解禁されていったが、現在州法によって「合法化(legalized)」「非犯罪化(decriminalized)」「医療利用のみOK」「違法(illegal)」など入り組んで、ちょっと複雑なことになっている。

「合法(legalized)」と「非犯罪化(decriminalized)」の違いは、実際の現場ではかなり曖昧だ。

「合法化」は白日の下に何でもできるようなイメージがあるが、こと大麻に関しては「合法」のカナダでも所持が許されるのは個人あたり30グラムまで、若年層の興味を引く恐れの高いグミやクッキーなどの生産は禁止など、それなりに禁止事項がある。

一方「非犯罪化」は、法律辞典によれば「それまで犯罪として処罰されてきた行為を犯罪でなくして処罰をやめること」。日本では、1947年の刑法改正で犯罪から除外された姦通罪(既婚女性が夫以外の者と関係を持つこと)などが一番イメージが近いといわれる。

大麻利用に関してこちらにあたるオランダでは、個人あたり所持は5グラムまでと「合法」のカナダの6分の1。そして後述の大麻関連会社社員のJansen氏によれば、「警察が逮捕したければできるんでしょうね、されないけど」と、何ともグレーながら一応の「社会的うしろめたさ」を残す扱いとなるようだ。

国内の「大麻非犯罪化」の理由と国内利用の現状

そもそも、戦後は普通に違法だった大麻をオランダ政府が非犯罪化したのは、1960~70年代にかけてのヒッピーブームの中でハードドラッグ(ヘロイン、コカインなど)の利用が若者を中心に広がったため。

大麻系のソフトドラッグを政府が管理しつつ手が届きやすくすることで、より健康被害の大きい薬物の利用拡大に歯止めをかけるという1976年の「ハーム・リダクション」の決定は一定の成果を収め、1979年から許可証制で大麻を提供する「コーヒーショップ」の営業も非犯罪化された(ちなみにオランダで単にコーヒーを飲みたかったら、行くべきは『カフェ』である)。

大麻の入手場所はライセンスを持つコーヒーショップにおける対面販売のみ(ID提示)で、スーパーや自販機で買える日本のタバコやアルコールのような手軽さでは決してない。

アムステルダムのコーヒーショップ(Wikipediaより)

基本条件は「利用は18歳以上・栽培はひと家庭5株まで・所持は一人5gまで(ヨーロッパ流では一本のロールに利用する量は0.3gなので、5gは個人的な使用には十分すぎる量だとのこと)」。寛容政策とハードドラッグも含めた依存症治療プログラムへの投資の両輪で、大麻利用が「違法」のフランスなどよりも利用者・薬物依存症患者ともに低い割合で推移しており(国民の利用率は8%)、政府の大麻政策は概ね国民の支持を得ている。

国内に生活している感覚としても、街なかにコーヒーショップもあるし月に数度どこからか大麻の煙のにおいが漂ってくることはあるが、身の回りの成人に大麻利用について尋ねると「まあ吸いたい人は吸えばいいんじゃない、自分は吸わないけど」「ありゃ観光客のお楽しみだろ」とドライな人が圧倒的多数だ。

ただし主にキリスト教系の政党は常に違法化希望の立場をとっているし、国民の8割以上の意向を汲んで、大都市を中心とした自治体の多くは学校から徒歩圏内(半径250m以内)にあるコーヒーショップを全て閉店した。

なによりもここ数年オーバーツーリズムの問題が深刻化するにつれ、アムステルダムやロッテルダムといった観光都市でお行儀の悪い外国人観光客たちを惹きつけるコーヒーショップにも歓迎しないムードが高まっている(売春やビール自転車も同様の理由で圧力がかかっているが、薬物目的の観光はドラッグツーリズムと呼ばれてまた別種の警戒を受けている。調査によると英国からの観光客の半数以上が、大麻などが手に入らなくなればオランダ旅行の魅力が減ると答えている)。実際に従っている自治体はほぼないが、中央政府の法令によれば公式には外国人への大麻販売は禁止になった。

現時点では新しいコーヒーショップの経営許可証は発行されておらず、ビジネスに参入したい人は、今現在コーヒーショップを経営している誰かからライセンスを引き継ぐしかない。こうした流れを受けて1997年に国内に1179店営業されていたコーヒーショップは、2019年には570店まで減少している。 

有名大麻関連グッズ会社に潜入 

ではこのような状況の中で、実際に大麻関連グッズを扱うお店や会社は日々どのようにビジネスを行っているのだろうか。

今回、大麻関連グッズ開発・オンライン販売で国内トップシェアの大手「Zamnesia」に話を聞くべくコンタクトを取った。同社は2011年に起業されてから、当時業界では珍しかった「違法商品0・定価・公式サイトのみでの販売」が消費者の信頼を得て急成長した大麻界の優等生だ。

以下、バイヤー・在庫管理部チーフを務めるSimon Jansen氏による回答をまとめる。

Jansen氏デスク(筆者撮影)

ステレンフェルト(以下筆者):私は大麻利用に関する知識ゼロの日本人です。初歩的な質問で恐縮ですが、こちらの会社では具体的には何を売っていて、何を売っていないのですか。

Jansen氏(以下Jansen):もっとも端的に言えば、大麻の「種」を売っていますが、発芽以降の株の販売は違法なのでしません。また、購入者である個人が種を育てるのに必要な栽培用品や肥料などは売っていますが、あくまで5株までの栽培を想定しているので非常に少量のパッケージ商品しか扱いません。2014年の規制改定により、大規模な栽培を目的としていると知って大麻商品を売った販売者は、購入者と同様の処罰の対象になりました。

また、種を栽培した購入者が栽培・収穫した大麻草を楽しむためのパイプや、その後「しらふ」に戻ったか確認するための薬物テストキットなど幅広く大麻の利用をサポートするグッズをそろえています。同じ大麻草から採取される精神作用のない医療成分CBD配合の第二類医薬品も。それからマジックマッシュルームやマジックトリュフの栽培セット。主流商品はこんな感じです。

パッケージングされた種(筆者撮影)

筆者:マジックマッシュルームは2008年に禁止になったはずですが。 

Jansen:「キノコ」自体は販売しません。私たちが販売するのは「菌」と「菌床」であり、これは違法ではありません。

筆者:(ゆるい…)発送可能エリアは「EU加入国」とありますが、EUの中には大麻の栽培も利用も違法な国は多くあります。そういった国から注文が入った場合どう対応するのですか。

Jansen:もともとEU内の全ての国・地域の大麻に関する最新の法律や条例を、一企業が常に把握するのは不可能なので、法律的には購入者の判断に任せることになっています。注文手続きの中で、お住まいの国や地域の大麻に関する法律をご確認の上、注文をいただけるようにメッセージを表示します。

基本的に国際条例によりEU圏内においては「人とモノの移動の自由」が保証されていますので、発送自体は違法ではありません。注文が発覚しても購入者が逮捕されることもまずありません。ただ、配送の過程で差し押さえられてしまうことはあります。そういった場合の多くにおいては、注文者のもとに荷物の代わりに地元の警察から小包を差し押さえた旨と、不服を申し立てたい場合の連絡先が記された書面が届きます。が、書面も届かず、荷物も届かない場合は、差し押さえによるものか配送のミスによるものか分からないので、無料で同じ商品を再度発送します。

発送準備ができたひと注文分の商品(筆者撮影)

筆者:最近、何か御社のビジネスに影響のある法改正などがありましたか。

Jansen:昨年の課税分類の見直し(オランダは累進課税制度を採用している)で、マジックマッシュルームとマジックトリュフが「食品」から「嗜好品」カテゴリーに分類変更されたことにより、付加価値税が9%から21%になってしまい、価格改定の作業に追われました。

筆者:マジックマッシュルームが「食品」。

Jansen:きのこですから。

筆者:(感覚がついていかない)新型コロナウイルス流行による影響はいかがでしたか。

Jansen:注文が殺到して、社員一同週末もイースターも返上で勤務しました。植え付けのベストシーズンだったことと、外出規制による全国的な家庭菜園ブームが重なって。

筆者:(家庭菜園…)失礼な質問かもしれませんが、御社はやはり、大麻がお好きな方が多く勤務されているのでしょうか。

Jansen:従業員数はフリーランスも含め現在50人前後ですが…常用している者は0ですね。

筆者:(意外!)御社とは関係ないかもしれませんが、コーヒーショップの「表口・裏口」問題とは何ですか。

Jansen:表口・裏口問題は彼らにとって解決の難しいパラドックスです。「表口」は店と来店者の取引を意味します。これは「一人あたり5g」の上限さえ守れば「非犯罪」の範囲に保つことができ、許容されています。ただ、商品の仕入れ=「裏口」にはどうしても違法行為が絡みます。店で提供するために店内でストックすることが許可されている500グラムは、一体だれがどうやって持ってくるのですか?個人の所持は5グラムしか許可されていないのに?

筆者:…あ。

Jansen:完全に法に触れずにコーヒーショップを運営しようとしたら、誰かが無数にある仕入れ先から5gずつひっきりなしに店に運ばなければなりませんが、それはあまりに非現実的です。実際には、違法で場所も極秘の倉庫や大規模な栽培者から、「ランナー」と呼ばれる存在がスーパーの袋のような警察の目につかない入れ物に500gの大麻草を入れて、ごく普通の市民の顔をしてママチャリで運搬することで、店の中の在庫を確保しているのです。

筆者:なるほど。ありがとうございました。 

大麻利用はオランダで子育てをする親としてもハラハラしながら色々疑問を持っていた問題だけに、機会を得ておっかなびっくり潜入してみたが、なんというか法に触れぬよう慎重にビジネスを進めている普通の会社で拍子抜けした。

とはいえ大麻利用による人体や社会生活への影響は研究中の部分も大きく、法的にも私たち日本人は大麻を利用した場合それがどこであっても国内法による処罰の対象になる場合もある。

日本と全く異なるオランダの大麻利用の実態は一個人としては興味深かったが、子どもたちにはこれからも「街でどこからか、ばあちゃんちの畳を燃やしてるようなおかしな煙の臭いが漂って来たら、染みつかないように走って逃げろ」と言い聞かせたいところだ。

文:ステレンフェルト幸子
編集:岡徳之(Livit

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