台湾「2030年バイリンガル計画」本格始動。テレビ放送や政府ウェブサイトも英語に

台湾「2030年バイリンガル国家計画」始動

アジア圏において英語が通じる国と聞いて、まず思い浮かべるのはシンガポールだろう。観光だけでなく、ビジネス、国家行事、日常生活において広く英語が使われている。

10年後、もしかすると台湾がシンガポールのようなバイリンガル国家になっているかもしれない。

2020年6月21日、台湾の蔡英文総統は「2030年バイリンガル国家計画」を近々実行する旨を発表。10年間で、若い世代を中心に日常で英語を使う環境を整えていく考えを明らかにした。

台湾の蔡英文総統(2018年4月)

このバイリンガル国家計画は、台湾国家発展委員会が草稿し、2018年末に行政院(内閣に相当)が認可したもの。今後計画の詳細をさらに詰め、実行に移すものとみられる。

台湾金融監督管理委員会(FSC)の英語ウェブサイトでは、バイリンガル国家計画の大まかな目標が記載されている。

それによると、まず各政府機関のウェブサイトの英語版を作成。また、国内の規制・ルールに関する書類も英語版を準備するという。

公共サービス提供機関、文化・教育関連機関の窓口でも英語で対応する体制を整備するとのこと。これに伴い公務員は英語スキルを向上させることが求められる。さらに、技術系の国家試験を英語で実施、試験合格者にはバイリンガルライセンスを付与するという。

若い世代の英語教育も大幅に改訂する計画のようだ。

教育システムには完全なバイリンガル環境を導入。学生の興味関心をかきたてる新しい教育手法の実施を可能にするため、現行の法規制を改訂することも視野に入れている。

日常における徹底した英語環境の構築のため、台湾政府は全て英語で放送するテレビ局の設立を奨励。また、英語によるテレビ番組、ラジオ番組の放送も奨励するとのことだ。

台湾の金融機関、すでに英語サービス導入に本腰

この政府方針に応じ、企業の間でもバイリンガル化の動きが本格化している。

2019年12月には、台湾で事業展開する国内外の主要金融機関が2030年までに中国語だけでなく英語でもサービス提供するバイリンガル体制を整える計画を発表。

FSCのウェリントン・クー会長が地元メディア中央通信社に語ったところでは、台北ティエンムー地区に支店を構える兆豊国際商業銀行とシンガポール系銀行DBSがバイリンガル計画のモデル銀行になるとのこと。

地元メディアAnueによると、兆豊国際商業銀行のマイケル・チャン会長は、同行のバイリンガル計画について、3段階で進めていく方針を明らかにしている。第1段階は2020年中に国内全105支店中、10支店をバイリンガル化。その後2021〜2024年の間に59支店を、2028年までに全支店をバイリンガル化する計画だ。

兆豊国際商業銀行

中央通信社によると、兆豊国際商業銀行とDBSのほかにも、台湾銀行、台湾土地銀行、合作金庫銀行、第一銀行など14行でバイリンガル化の取り組みが始まっているという。

蔡総統は、若い世代は台湾がどのような国で、どのような価値観を持っているのか国際社会に明確に発信する力を養う必要があると指摘。バイリンガル化計画によって、この発信力を鍛えたいとの考えを明らかにした。

観光を通じたバイリンガル化取り組みも

台湾観光産業も2030年バイリンガル計画に沿って、英語でのサービスが強化される見通しだ。

2019年には、台湾国家発展委員会が同計画の一環として、観光産業の英語普及に関する調査を実施。興味深い結果が得られている。この調査、2人の外国人英語教師が台湾観光地を訪れ、各観光案内オフィスで英語の通じやすさを覆面で評価したもの。

この調査で最も英語力が優れていると評価されたのが台湾南部の嘉義市だった。同市の観光案内オフィスの実に80%が英語コミュニケーション力が「Excellent」と評価された。嘉義市に次いで、Excellent評価の割合が高かったのが北東部の観光地・宜蘭県だった。

観光オフィスの英語Excellenet評価率がトップだった台湾・嘉義市

英語観光メディアGlobal Travelerの最新旅行ランキング。その「アジア・ベスト・レジャー観光地」部門で、台湾は、2位のシンガポール、3位の韓国、4位の日本、5位のタイを抑え1位にランクインするなど、英語圏の旅行者の間で関心度が高まっている模様。観光を通じてバイリンガル化が加速することも見込まれる。

台湾のお手本?非英語圏で英語力が最も高いオランダ

バイリンガル化計画成功の要素はいくつか考えられるが、冒頭で言及したテレビ/ラジオ放送における英語化は特に影響が大きいと考えられる。

英語を母語としない国の中で、最も英語力が高いと評されるオランダ。そのオランダでは、英語による番組が日常に浸透しているという。

国別の英語力を測る「EF English Proficiency Index」という指標がある。この最新版で最高値を記録したのがオランダ(70.27ポイント)だった。2位のスウェーデン(68.74)や3位のノルウェー(67.93)、4位のデンマーク(67.87)、5位のシンガポール(66.82)など、一般的に英語が得意だと見られている北欧諸国やシンガポールよりも高い数値を叩きだしたのだ。

オランダ人の英語力が高い理由の1つに挙げられるのが、テレビ放送で吹き替えをしないという点。ドラマや映画などの英語コンテンツは、オリジナル音声を配信、オランダ語は字幕のみに限定、子供のころから英語に浸る環境が醸成されている。一方、隣国のスペイン、ドイツ、フランスなどでは、吹き替えが主流の模様。

注意書きは英語で記載されているオランダ・アムステルダム

英語が広く・深く浸透していることもあり、外国人観光客が現地でオランダ語でコミュニケーションを取ろうとすると、「Speak English」と言われることも少なくないとのこと。オランダ・ライデン大学の研究者アリソン・エドワーズ氏は、地元メディアDutch Newsの取材で、オランダでは英語はもはや「外国語」ではなくなりつつあるとの見解を示している。全コースを英語で教える大学も多く、英語での学位取得を目指す留学生も増加傾向にある。

オランダの人口は約1,700万人。台湾は2,400万人。また国土規模もほぼ同等。EF English Proficiency Indexにおける台湾のスコアは54.18で世界38位。バイリンガル計画で台湾はシンガポールやオランダにどこまで近づけるのか、今後の進展を楽しみにしたい。

[文] 細谷元(Livit

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