高校のeスポーツクラブ、学生のスキル向上の場に

「子供の勉強の時間を奪う」として何かとやり玉にあがるビデオゲーム。実際そのような側面はあるものの、ビデオゲームは使い方次第でデジタル時代を生き抜く知識・スキルを学べる空間に変身する。

実際、海外ではeスポーツをクラブ/課外活動に取り入れ、学生たちの自発的なスキル形成に役立てている学校が複数存在する。

米カリフォルニア州オレンジ郡は、高校におけるeスポーツ導入が活発な地域。その効果がすでにあらわれ始めている。

eスポーツの代名詞ともいえるオンラインゲーム「リーグ・オブ・レジェンド(LoL)」。このゲームを使い、同郡では数年前にeスポーツ高校リーグが開設された。

各校ではクラブが創設され、リーグを勝ち抜くために日々メンバーによる練習が実施されている。また、データ分析による戦略の最適化など、サイエンスにつながるアクティビティも盛んだと伝えられている。

LoLの基本モードは5対5の対戦。各プレイヤーは、ステータスや能力の異なるキャラクターを用い、敵陣の本拠地破壊をミッションとする。勝利するためには、味方とのコミュニケーションやキャラクター/能力の相性把握など、ソフトスキルや分析能力が求められる。

リーグ・オブ・レジェンドのウェブサイト

米ニュースメディアUS Newsがオレンジ郡の高校におけるeスポーツ活動について伝えているが、その事例は、eスポーツを通じて高校生たちがデジタル時代に必須となるスキルを醸成していることを示すものでもある。

同郡のある高校では、eスポーツクラブの学生たちがウェブサイトを立ち上げ、クラブの活動内容やプロモーションコンテンツを制作しているという。コンテンツには、データ分析とゲームプレイの最適化など、数学・サイエンス思考が求められるものも含まれている。

別の高校では、高校のテレビ放送向けに、クラブ活動やリーグに関する動画を撮影・編集するなど、eスポーツを通じて動画コンテンツ制作スキルを学ぶ学生もいるという。また、ゲームプレイをハードウェア観点から最適化する学生たちもいる。CPUやGPUに関するリサーチを行い、自分たちでパソコンを組み立てているのだ。

全米の高校3,000校以上が参加するeスポーツリーグ、各校では一定以上の成績が参加条件に

カリフォルニア大学アーバイン校の研究チームは、こうした高校生たちの活動を観察し、興味深い傾向をあぶり出した。それは、eスポーツ文脈における「興味ドリブン学習」によって、学生たちは、社会/感情スキルだけでなく、一般的な高校の授業で学ぶ内容も学んでいるということ。こうした研究で得られた情報は、高校におけるeスポーツカリキュラム作成に活用されている。

オレンジ郡のミッション・ビエホ高校のティファニー・ブイ氏は同校eスポーツチームの顧問を務める生物学の教師。

ブイ氏はUS Newsの取材で、多くの人々はビデオゲームと教育・学習はつながりがないと考えているが、同氏はeスポーツ顧問としてビデオゲームの教育的な側面を目の当たりにしたと語っている。学生のコミュニケーションスキルが向上したほか、言語間の障壁やジェンダーに関する偏見がなくなったという。

性別・国籍を超越するeスポーツ(2019年8月、ロサンゼルスで行われたストリートファイターeスポーツ大会の様子)

eスポーツ導入をきっかけに学生たちの成績が向上したとの報告もある。eスポーツクラブを有する高校では、クラブに所属し、リーグに参加するには、一定以上の成績を収めることが条件となるためだ。

米国では州・郡レベルの高校eスポーツリーグのほか、全国レベルのリーグも複数あり、高校におけるeスポーツクラブ活動は活発化している。

マイクロソフトなどの大手企業が支援する全米リーグ「High School Esports League」には、全米の高校3,000校以上、8万人以上の学生が参加している。大学進学においても、eスポーツ奨学金が拡充されており、米国高校生のeスポーツ熱は今後も高まることが見込まれる。

High School Esports Leagueの参加校(High School Esports Leagueウェブサイトより)

メンタルヘルス・マネジメントもeスポーツで学ぶ時代に?

eスポーツの教育的な側面は、様々な分野に拡大していくかもしれない。

2020年5月、米国のeスポーツ団体Cloud9は、同国医療コンソーシアムKaiser Permanenteと共同で、ゲーミングコミュニティ向けのメンタルヘルス意識向上キャンペーンを実施すると発表。

「The Presence of Mind」と名付けられた同キャンペーンでは、Cloud9に所属する選手、コーチ、スタッフらがKaiser Permanenteの専門家らによるメンタルヘルス・トレーニングを受け、Twitchなどでその様子をコミュニティに発信するという。多くの人々にメンタルヘルス問題の深刻さやマネジメント方法を発信することで、社会的スティグマのイメージを払拭する狙いもあるとのこと。

第1段階は、Cloud9のリーグ・オブ・レジェンドチームがトレーニングを受ける。賞金プール規模も年々拡大し、競争が熾烈になるeスポーツの世界。チームに対するプレッシャーも大きくなっているのは想像に難くない。

Cloud9にはツイッターで100万人近いフォロワーがおり、その社会的影響力は小さいものではない。同キャンペーンが、若い世代のメンタルヘルス問題に対する意識向上に寄与するのは間違いないだろう。

ゲーム専門市場調査会社New Zooの最新レポートによると、世界eスポーツ市場における「熱狂的な観戦者数」は2018年に1億6,500万人と前年の1億4,300万人から約14%増加。2021年には、2億5,000万人に達する見込みだ。「一般的な観戦者」を含めると2倍以上になる。

これに伴い、eスポーツ関連収益やTwichなどによる観戦時間も増加することが見込まれる。世界的に影響力を増すeスポーツ、それ自体の進化に加え、教育・学習の側面でどのような発展を見せるのか、非常に興味深い市場といえるだろう。

文:細谷元(Livit