2019年に世界中で「気候変動ストライキ」を実施し、その行動力に注目が集まったZ世代。そのエネルギーはロックダウン中でも健在で、彼らの政治活動の拠点はソーシャルメディアだけでなく、ゲームやオンラインマップなど、バーチャルの世界にも拡大している。
香港の活動家たちが任天堂のゲーム『あつまれ どうぶつの森』(以下「あつ森」)で民主化運動を続けたのに続き、人種差別反対運動ではK-POPファン達が団結して「デジタルネイティブ」の力を発揮した。Z世代が繰り広げる新時代の政治活動をレポートする。
デモ用の服もデザイン 「あつ森」で盛り上がる政治活動
松明が燃える無人島の砂浜――「光復香港、時代革命(香港を取り戻せ、今こそ革命だ)」というスローガンが書かれたバナーと、香港行政長官のキャリー・ラム氏の似顔絵が砂の上に置かれ、6人の「活動家」たちが魚網を持ってそれを取り囲んでいる。そして次々にその魚網でラム氏の似顔絵をパタパタと叩いた後、そのうちの一人がラム氏の顔に足で砂をひっかけて埋めてしまうと、パチパチと拍手が巻き起こった。
これは、任天堂の人気ゲーム「あつ森」で展開された一場面。新型コロナウイルスの影響により、路上での抗議活動ができなくなったことを受け、2019年3月頃から続いていた香港の民主化デモは、ソーシャルネットワークやゲームなど、バーチャル世界にその活動の場をシフトさせることになった。
「あつ森」はプレーヤーが手つかずの無人島で自分の必要なものを作ったり、動物たちと友達になったり、釣りをしたり、友達を招待したりしながら、自分の島をクリエイトしていくというゲームで、ロックダウンで退屈した人たちに格好の気晴らしを与えた。3月20日の発売以来、6週間で1,300万の売り上げを記録したという。
もちろん、これはピュアなエンターテイメントゲームで、政治とは何の関係もないのだが、自分でアート作品や服などをデザインできるというカスタマイズ性が大きいほか、それを世界中のユーザーと繋がってシェアできるというインタラクティブ性も高い。香港の若き活動家たちはこうした機能を使って、自分たちの抗議活動をテーマにした服やアート作品を仲間たちと共有し、自分たちの「島」で活動を展開したというわけだ。
こうした動きが活発化するなか、4月には早くも中国のECサイトで、海外版の「あつ森」の検索が突然できなくなったことが各メディアで報じられた。中国当局もECサイト側も理由を明らかにしていないが、政治的な圧力だったのではないか、との憶測が広がっている。
ただ、中国以外のユーザーの間では相変わらず「あつ森」での政治活動は盛んで、6月4日には天安門事件の追悼イベントがゲーム上で展開され、世界中で18万人が参加した。また、人種差別反対運動に関しても、服やアートなど、多くのデザインアイテムがシェアされている。
ロシア版グーグルマップで抗議運動
ロシアでもプーチン大統領の続投を可能にする憲法改正案や、政府のコロナ対策をめぐる抗議運動がバーチャル世界で展開された。憲法改正案については、野党勢力が3月に抗議デモを予定していたのだが、これはコロナで大規模集会が禁止されたためにできなくなってしまった。そこで、反対勢力は「YouTube」で抗議活動をストリーミング配信。参加者は自分の写真やバナーを送信して、これをサポートした。
抗議活動はまた、「ロシア版グーグルマップ」といわれる「Yandex.Map(ヤンデックス・マップ)」でも展開された。反対派はロシアの主要都市で、マップ上の政府ビルの周りに自分たちをタグ付けして集まり、本来は交通渋滞を他人に知らせるための機能を使って、自分の怒りや怖れをコメントした。「人々は食べるものもない。支払いはどこだ?」「我々は2017年(ボルシェビキ革命)を繰り返す」といったコメントのほか、プーチン大統領の辞任を求める声が相次いだという。
これを受けヤンデックスは、交通情報と関係のないメッセージや罵り言葉を削除したが、反対派のオーガナイザーは、今後もオンラインの抗議活動が拡大することに期待感を示している。
K-POPファンが人種差別SNSをブロック
Z世代を代表する集団「K-POP」ファンは、独自の戦略で人種差別に反対している。ソーシャルネットワークでは「#Blacklivesmatter」で人種差別反対運動が展開されているが、これに対抗して人種差別論者たちが立ち上げた「#Whitelivesmatter」などに対し、K-POPファンは一致団結して立ち向かっている。
彼らが取った行動は非常にシンプル。自分の好きなK-POPアイドルの「Tiktok動画」やGIF、画像をこのハッシュタグで投稿しまくり、人種差別論者たちのツイートを埋もれさせるという戦略だ。実際、「#Whitelivesmatter」を遡ってみると、K-POP動画の嵐に圧倒される。
テキサス州のダラス警察署が5月末に立ち上げたアプリ「i Watch Dallas app」に対してもK-POPファンたちは立ち上がった。このアプリは、人種差別反対の抗議デモで見つけた違法行為を匿名で報告できるアプリなのだが、ここでもファンたちがK-POPアイドルの動画や画像を送り続けたことでサーバーがダウンし、同アプリは停止に追い込まれた。
このほかにもK-POPグループの「防弾少年団(BTS)」が1億800万円を「#Blacklivesmatter」の組織に寄付したほか、ファンたちからも1億円以上の資金が集まっているという。デジタルネイティブのZ世代が世界中で繋がることで、大きなパワーが生まれている。
7月1日、香港が中国に返還されてから23年が経過した。中国政府はこの直前、香港での反政府的な動きを取り締まる「国家安全維持法」を施行。1日にはすでに「香港独立」の旗を掲げていた人など9人が逮捕されている。民主活動家のジョシュア・ウォン氏と周庭(アグネス・チョウ)氏は、同法律の施行を前に、やむなく活動組織「香港衆志(デモシスト)」からの離脱を表明。同団体も解散し、全ての活動を停止した。
しかし、ウォン氏はツイッター上で「私たちは諦めない。今は諦める時ではない」とコメント。また、チョウ氏も「絶望の中にあっても、いつもお互いのことを想い、私たちはもっと強く生きなければなりません。 生きてさえいれば、希望があります」と表明している。Z世代はデジタルネイティブの知恵を生かして、また新たな「場所」で活動を続けるに違いない。
文:山本直子
編集:岡徳之(Livit)