「是非あなたの事業に出資したい」

プロダクトの開発をしているときに、エンジェル投資家の方やVCの方からそのようなお声がけを頂いたことが何度かあった。

しかし私は「自分の描いている未来や、サービス自体の価値を認められた!」と誇らしく思った反面、「株」を渡すということに対して恐さやプレッシャーを感じ、悩んだ結果、資金調達の意思決定をすることができないまま事業をストップさせる決断をした。

事業を行う上で、様々な手段で可能になっている「資金調達」。

スタートアップの世界でこれから起業を考えているあなたに向けて、ただひとつ、けれど私が越えられなかった最大の壁をこの文章を通してお伝えしていけたらと思う。 

両想いの法則 | The law of mutual attraction | Ayumi Yamamoto | TEDxSapporo 2018

17歳・高校2年生で起業 

2001年生まれ、現在19歳。大学2年生の私は、高校2年のときに屋号「Nexstar」で開業し「高校生起業家」として活動していた。高校生の間はひとりでビジネスを行うことが多く、事業内容も地元の北海道を中心にしたものがほとんどだった。しかし、中高時代の友人を4年間「一緒に起業しよう」と口説き続けた結果、大学進学を機に彼女が同じ船に乗ってくれることが決まったのである。

ときめきで溢れる世界を作るために、世の中に影響を与えられるような「何か」を作っていこう。

大学受験をする中で感じていた「偏差値」「知名度」を基準にした大学選びの風潮、大学進学後に学びたいことがよくわからないまま日々を過ごす「虚無感」、それらを生み出してしまう「大学に関する情報へのアクセスしにくさ」。大学受験に関して日々ひたむきに向き合い、受験を終えたばかりの私たちが一番この課題意識を感じている。そんな私たちだからこそできるプロダクトがあるはずだ。そう思ってプロダクトの方向性を探っていった結果、手軽に楽しく「大学の学び」を味わうことができる「学べる恋愛ゲーム Smart Kiss」を開発することを決めた。(開発期間:2019年4月~2020年1月)

「エクイティ」か「デット」か悩む

 EdTech×エンターテイメントの領域に挑戦することを決めた私たちは、開発を進めるなかでひとつのゲームをつくることの難しさを痛感する日々が続いた。プロトタイプ、α版、β版、本リリース…と本格的なゲームを目指して行けば行くほど、どうしても工数は多くなり、必要な人数やお金は増えていく。

事業資金はこれまで助成金や貯金などを使いながら工面してきたが、ただの一学生が自分の稼ぎでは補えないような金額がこれから必要になっていく未来は明らかである。 

どうにかしてお金を集める必要はある。開発速度を上げていくためには、一刻も早く意思決定しなければいけない。しかし、これまでの人生で動かしてきた金額と桁が違うことに対する怖さもあった。ファイナンスに関しての不安は拭えず、先輩の起業家や経営者の方に何回も話を伺ったが、皆が口を揃えて言うことは、

 「自分に合うかたちで資金調達しないと後で苦しくなる。資金調達の意思決定は慎重にならなければいけない」

ということだけで、実際にどの道を進めば良いのかは(いま振り返れば自身の事業なので当然のことだが)私が判断しなければならなかった。 

エンジェル投資家、VCとの出会い

自分たちの選択が本当に正しいのか、事業設計のレベルが社会全体の中でどのくらいのクオリティなのかわからなかった私たちは、他者からの評価を求めて複数の学生スタートアップ向けビジネスコンテストに出場した。それらを通じて様々なご縁を頂き、エンジェル投資家の方やVCの方かたとお話する機会も増えていった。

「とても応援したい。出資するよ」
「出資もふまえてカジュアルにお話しましょう」
「このバリュエーションで株は○○%でいかがですか?」

プロダクトが進めば進むほど、話は具体的になっていった。自分の描いている未来や、サービス自体の価値を認められた!と誇らしく思った反面、「株」を渡すということに対して恐さやプレッシャーを感じてしまう自分がいる。

エクイティで資金調達をすれば、IPOやM&Aなどでエグジットするか、もしくは「失敗」するかの未来まで走り続けなければいけない。

どうしたらいいのだろう。

周囲に相談して「その企業」がした選択は教えてもらえるものの、自身の意思決定の自信に繋がるような決定打がない。頭を抱えながらも、資金調達のリミットは貯金の減りと共に着々と近づいていた。

自分にとって、どんな資金調達方法が合うかは正直わからないが、スタートアップの世界でこんなに声をかけていただくということは、エクイティでの資金調達をしたほうがいいということなのかもしれない。

もちろん、VCやエンジェル投資家の方に入ってもらえれば、自分に足りない経営面の戦略を共に練っていくことができるようになる。しかし自分一人のお金じゃない、色んな人を経営に巻き込んでいくことになる。私に「本当に」やりきる責任と覚悟があるのか?

世界を自分の理想とする未来に近づけたいという思いはある。ただ、この事業を通して世界を変えることができるのだろうか? 果たしてそれはいまの私に可能なのだろうか?

資金調達を考えるなかで自分に問い続けていた。つねに事業のことを考えていた。

 ファイナンスで後悔しないために

そんな中、いくつか具体的に資金調達を検討するうえで得た知見を書き連ねたいと思う。

①意思決定は簡単にできない

特にシード期においては、会社の価値や株式の配当はある種「言い値」的なところがあると思う。大体このぐらいの価値になるだろう、という感覚は様々な情報を収集する中で掴めてくるが、それでもどこから出資を受けるかによって大きく比率は異なる。

だからこそ、ファイナンスの知識が足りない状態で出資を受けることは、よほど信頼関係のある状況でない限りは避けた方が良いだろうし、意志決定の軸を作るための情報収集が必要になってくる。

②とにかくファイナンスの相談相手をつくる

そこで起業家の友人でも、信頼できるメンターでも誰でも構わないのだが、私は気軽に自分の事業について相談できる存在を作ることをおススメする。彼らが何よりも事業を進める上での不安をカバーしてくれた。未来を作ろうとするときに、答えの見えない意思決定に心もとなくなることは幾度となくあるだろう。具体的な数字も含めて資金調達のことを聞ける相手がいるならば、その不安は少しでも和らぐのかもしれない。

エクイティでの資金調達を一度意思決定したら、中々元に戻すのが大変だという話は何度も耳にした。

知識のない若手起業家に、不当な持ち株比率を提案するような人の存在も聞いた。

たしかに昨今、「起業」自体はとても簡単な時代になってきた。しかし株式は大きく経営の方向性に関わるからこそ、エクイティで資金調達を考える際には後悔しないように決断していきたい。

越えられなかった壁は「自信」

私は「ときめきで溢れる世界」が来ることを信じている。それを体現する人物になっていきたいと思っている。そのビジョンは、起業のどの過程でも揺るいでいない。 

「学べる恋愛ゲーム SmartKiss」の可能性も信じている。いつかこのプロダクトが、コンセプトが、世界で輝き多くの人を幸せにするだろう。

しかし、いまの実力で、社会の情勢下で、このプロダクトが事業として成り立つ未来はとても遠いものだと感じてしまった。「Why now?」を信じぬくことができなかったのである。

だから私たちは、10カ月プロダクトを作り続けた結果、2020年1月に一度ビジネスの世界から自分たちのサービスを降ろすことを決めた。結局「いま」を信じることができなければ何かをやり続けることはできない。そして、出資を受ける際にも、それが何より起業家に必要なことなのだろうと感じた。

この問いは、新たな事業を考える今でも自分の中に存在し続けている。

「私たちは何を信じ抜くことができるのだろうか?」

文:山本愛優美