創業時のツイッター、ウーバーなどに投資、著名テックベンチャー投資家が注目する次の分野

世界全体のユーザー数3億人以上、時価総額2兆5,000億円超え。日本国内だけで4,500万以上のアクティブアカウントがあるといわれるツイッター。多くの人々にとって情報発信・取得の必須ツールとなっている。

このツイッターの創業後すぐに同社の可能性に着目、多額の資金をつぎ込み、後に最も成功したベンチャー投資家の1人と呼ばれるようになった人物がいる。ベンチャー投資会社Lowercase Capitalのクリス・サッカ氏だ。ツイッターだけでなく、ウーバーやインスタグラムなどにも投資しており、2017年フォーブス誌のMIDAS LIST(影響力のあるベンチャー投資家ランキング)で2位にランクイン、米国版マネーの虎「Shark Tank」に出演するなど、英語圏で広く知られたテックベンチャー投資家だ。

2017年に投資業から引退することを発表したサッカ氏だが、2020年6月新たなベンチャー投資会社を設立したことを公表し、注目を集めている。新会社の名前は「Lowercarbon Capital」。その名が示す通り、クリーンテック分野のスタートアップへの投資を行うベンチャーキャピタル会社だ。

多くのベンチャー投資家にとって「クリーンテック」は資金を失う分野であり禁句となっているようだが、サッカ氏は同分野の状況がツイッターなどのテック大手が登場した2005年頃と似ていると指摘。スタートアップコストは低く、スケールする明確な道筋が見えている状況にあるとのこと。英語メディアAxiosによると、サッカ氏は6月に行われたCBインサイトの会議で、クリーンテック投資はリターンが見込める投資機会であり、「慈善事業」ではないと強調したという。

クリス・サッカ氏(Lowercarbon Capitalウェブサイトより)

Lowercarbon Capitalではすでに、リチウム抽出技術を開発するスタートアップや排出権取引プラットフォームを開発するスタートアップに資金を投じている。サッカ氏がクリーンテック投資家として復帰するとのニュースは、ベンチャー投資界隈に何らかの影響を与えることが想定される。

アマゾンもクリーンテック投資に20億ドルのファンド創設

サッカ氏がクリーンテック投資家として復帰することを公表した直後、アマゾンがクリーンテック・スタートアップに特化したファンドを創設することを発表。クリーンテック分野は、ますます活況することが見込まれる。

アマゾンが新設するファンドは「The Climate Pledge Fund」と呼ばれ、20億ドル(約2,100億円)をクリーンテック・スタートアップに投じていく。領域はアマゾンと直接関係するロジスティクスだけでなく、エネルギー、貯蔵、製造、素材、農業など多岐にわたる。

アマゾンはこのファンド創設の発表とともに、2019年の持続可能目標を刷新。代替可能エネルギー利用割合100%の達成時期を2030年から2025年に前倒し。このほか、2040年までの二酸化炭素排出ネットゼロや植林プロジェクトへの1億ドル(約110億円)投資計画を明らかにしている。

テスラ元幹部らが設立したNorthvoltなど、クリーンテックの注目スタートアップ

クリーンテック分野では、どのようなスタートアップが注目されているのだろうか。

昨年BMWなどからの大型資金調達で話題となったのが電気自動車向けバッテリー製造を担うスウェーデンのスタートアップ「Northvolt」。テスラの幹部だったピーター・カールソン氏らが2015年に設立した企業だ。

ロイター通信によると、Northvoltは2019年6月フォルクスワーゲンやBMWなどから欧州最大となるリチウムイオン電池製造工場の建設に向け10億ドル(約1,000億ドル)を調達したと発表。同年8月からスウェーデン北部のシェルレフテオーで製造工場建設を開始する計画を明らかにしている。

Northvoltウェブサイト

同工場でのリチウムイオン電池製造は2021年に開始予定。当初の年産規模は16GWhだが、徐々に高めていき最低32GWhにする計画という。一方、カールソン氏は、2030年の欧州における主要プレイヤーになるには、150GWhは必要になるだろうとの見通しを示している。

欧州では、太陽光・電気自動車を開発するミュンヘンのスタートアップ「Sono Motors」も注目されている。

同社が開発するのは248枚のフィルム型太陽光電池を搭載した電気自動車「Sion」。フル充電状態で約250キロメートルの走行が可能。太陽光だけで1日で34キロ分のエネルギーを補充できるという。

2019年12月5,000万ユーロ(約60億円)を目標にクラウド投資キャンペーンを開始。50日間で目標を上回る5,300万ユーロ(約64億円)を調達することに成功した。現在の予約数は約1万3,000台。調達した資金は、プロトタイプの製造と製造ラインの基礎固めに使われるとのこと。製造拠点はスウェーデンのトロルヘッタン。8年間で26万台を売り上げる計画だ。

サッカ氏やアマゾンだけでなく巨大ファンドもクリーンテック投資に向け動き出している。6月16日、デンマークの投資会社Copenhagen Infrastrucures Partners(CIP)はデンマーク年金などから15億ユーロ(約1,800億円)を調達したと発表。今後、調達額を増やしつつ、北米、西ヨーロッパ、アジア、オーストラリアの代替可能エネルギー/クリーンテックプロジェクトに100億〜140億ユーロ(1兆2,100億円〜1兆7,000億円)を投じる計画という。サッカ氏が予想するように、クリーンテックは次のソーシャルメディアとなり得るのか。今後の動向が気になるところだ。

[文] 細谷元(Livit