プラごみ問題悪化で再び注目されるSDGs関連問題

このところニュースメディアは新型コロナの話題で持ち切り状態。持続可能な開発目標(SDGs)に関する話題はめっきり減った印象だ。

しかしパンデミック収束後は、SDGsに対する注目は以前よりも高まる可能性がある。

今世界各地では、使い捨てマスクや消毒ボトルなどの「コロナごみ」による環境汚染懸念が増大。また、ロックダウン/外出自粛でフードデリバリーの使い捨て容器が急増し、各国のプラスチックごみ問題は以前にも増して深刻化している。持続可能なまちづくりを目指すSDG11、持続可能な消費を目指すSGD12、海洋環境保全を目指すSDG14などの達成を困難にしている。

アリババ傘下の香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)3月12日の記事によると、新型コロナが発生した中国・武漢では、発生ピーク時、同市の病院では1日あたり240トンの医療廃棄物が発生。通常時は40トン、その6倍の廃棄物が生み出された。

米国でも医療廃棄物が急増。フロスト・アンド・サリバンの推計では、現在のペースで医療廃棄物が増えれば、2カ月で同国1年分の医療廃棄物を生み出すことになるという。

急成長の中国のフードデリバリー市場、プラごみ処理能力は追いつかず

フードデリバリーの使い捨て容器による環境汚染問題は、医療廃棄物問題以上に深刻だ。

この数年、フードデリバリー市場が急成長していた中国では、ロックダウンでサービス利用がさらに増え、同国のごみ処理能力は予想より早く限界を迎える可能性が指摘されている。

ニューヨーク・タイムズ紙によると、中国のフードデリバリー市場では2017年に160万トンの使い捨て容器ごみが発生。過去2年で9倍増加したという。160万トンのうち、使い捨て容器が120万トン、使い捨て箸が17万5,000トン、ビニール袋が16万4,000トン、プラスチックスプーンが4万4,000トンだった。

この数字は増加傾向にある。2018年、中国フードデリバリー大手Meituanは、累計64億回のデリバリーを実施。前年比で60%の増加だったという。

中国では、プラスチックごみはこれまで埋め立てによる処理が主流だったようだが、埋め立て地が予想よりも早く埋まっており、焼却処理にシフトしている。SCMPによると、西安の北西部には同国最大の埋め立て地があるが、2019年11月に満杯となったため閉鎖された。これは当初の予定よりも20年早い閉鎖だという。

2018年の中国都市部の廃棄物のうち焼却処理された量は全体の45%。この割合、10年前は15%だった。

中国・桂林市の様子(2019年8月)

中国では大気汚染が深刻だといわれているが、ごみの焼却処理量が増えていることがその背景にあると見られている。市民の間では、この問題に対し不満が高まっているとの報道もある。2019年には、武漢市でごみ焼却施設の建設計画が明らかになり、市民の間で反対運動が激化、武装警察が投入されるほどの事態に発展した。

SCMPが伝えたグリーンピースのレポートによると、2018年中国のプラスチック容器のリサイクル率は5%。一方、Eurostat2017年のデータによると、欧州におけるプラスチック容器リサイクル率は42%だった。

各国の環境団体は、中国のプラスチック利用の増加に処理能力が追いついていない点を指摘。海洋汚染の深刻化につながる可能性を懸念している。オックスフォード大学のデータサイトOur World in Dataのまとめによると、海洋プラスチックごみ全体の67%が中国などアジア諸国の河川20本から流出。そのうち最大を占めるのが中国・長江。2015年時点で年間33万トン以上のプラスチックごみが海洋に流出したという。

大気汚染が確認される中国・上海の様子(2020年5月)

タイやシンガポールでも懸念増大、再利用可能容器を導入する企業も

東南アジアでもフードデリバリー利用によるプラスチックごみ問題の悪化が懸念されている。

今年1月に使い捨てレジ袋利用を禁止したタイ。プラスチックごみを年間30%削減するとの目標を掲げ、問題解決に本腰を入れだした矢先にパンデミックが発生。現状では、プラスチックごみが30%増加する見込みだ。

パッケージ業界メディアPlastics in Packagingが伝えたLINEの調査によると、2020年3〜4月バンコクにおけるフードデリバリー利用回数は300%増加。またGrabによると、同市でロックダウンが施行された週のフードデリバリー注文数は400%増加したという。タイのプラスチックごみのリサイクル率は25%。残りは埋め立てられるか、河川に流出しているとのこと。

タイ最後の楽園・リペ島の様子(2019年2月)

シンガポールでもフードデリバリー利用による使い捨て容器ごみの増加が顕著になっている。地元メディアTodayが伝えたシンガポール国立大学の調査によると、ロックダウンが施行された4〜5月の間、フードデリバリー利用が増え、使い捨て容器だけで2階建てバス92台分に相当する1,334トンのプラごみが発生。ロックダウン以前に比べ、フードデリバリー頻度は73%増加したという。

プラごみ問題への懸念が再び増大する中、フードデリバリー企業の一部はプラごみ削減に向けた取り組みを開始している。

世界51カ国で事業展開するFoodpandはこのほどシンガポールで、注文の際に、再利用可能な容器を選べる新たなサブスクリプションサービスの試験的運用を開始。同国の再利用容器スタートアップのbarePackと提携、スマホとQRコードを活用し、再利用可能容器でのデリバリーやピックアップを可能にする仕組みを試している。

Foodpandaが実施する再利用可能容器によるデリバリー取り組み(barePackウェブサイトより)

フードデリバリーによるプラごみ問題に関する報道が増えるにつれ、サービス利用を手控える消費者が増える可能性は高い。今後、消費者の懸念を払拭するため、Foodpandのような再利用可能容器を導入するフードデリバリーサービスが増えてくることが見込まれる。

[文] 細谷元(Livit