【日本−デンマークLGBTQ対談】コロナウイルスが浮き彫りにしたマイノリティの課題と対策

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私たちの生活を一変させた新型コロナウイルス。中小企業をはじめとした廃業など、経済面の課題にばかり目を向けられがちだが、あまり表面化していない問題も多く存在する。

その一つが、LGBTQをはじめとしたセクシュアル・マイノリティの人々が抱える不安。生死に関わる深刻な感染症だからこそ、早急な対応が求められる課題も多いという。

今回は、NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表 / プライドハウス東京代表 / ゲイ・アクティビストとして、LGBTQが暮らしやすい社会を作るための活動に奔走する松中権(まつなかごん)さんと、「LGBTQフレンドリーな国」として知られるデンマークのエネルギー庁に勤めており、ゲイとして同性のパートナーを持つデンマーク人のオノ・フォラスさんに日本とデンマークをオンラインでつなげ、LGBTQの人々の状況を聞いた。

両国で著しく異なる、コロナ禍のLGBTQの課題

—— 新型コロナウイルスの影響で、LGBTQの人たちには、どんな不安や課題が生まれていますか? 

松中:まずは、LGBTQの人たちを対象に実施した以下のアンケート結果をご覧ください。

松中:これは、同性婚の実現に向けて活動している一般社団法人「Marriage For All Japan —結婚の自由をすべての人に」(以降:マリフォー)が、LGBTQの当事者やその家族、同僚や友人などの関係者の課題を把握する目的で実施したものです。

「パートナーとの関係が保障されていないために抱えている困難や不安、出来事は?」という質問に対し、圧倒的に1位だったのが「入院・緊急・万一のときに連絡がとれるか」という悩みでした。

法律上、同性婚が認められていない日本では、病院などで同性のパートナーが「家族として扱ってもらえない」ことがあり、緊急時に会うことができない、最後を看取ることができない、という課題が普段からあるのですが、このコロナウイルスの影響で、より深刻さが増しています。

松中:また、「1人の当事者として、あるいはその家族、友人、同僚として抱えている困難や不安、出来事は?」という問いに対して1位だったのは、「(感染時の)家族・友人・病院・会社・学校への報告や公表に関する不安」でした。

日本では、まだまだ周囲にLGBTQであることや同性パートナーの存在を隠している人が多いことから、もし、自分や同居しているパートナーが感染者や濃厚接触者になった場合、自分が望まない形でカミングアウトしなければいけない可能性があります。

—— 松中さんご自身にも、同じような課題はありましたか?

私は2010年に、代表を務めるNPO法人を立ち上げた段階でカミングアウトをしていましたし、現在はシングルなのでこれらの不安を感じることはなかったです。

ただ、僕には精子提供により誕生した子供がいるのですが、一緒に暮らしているわけではなく、週に1〜2回会いに行って育児に参加しているため、子供が住む家にウイルスを持ち込まないか、という心配があります。

子供を育てているのは、僕の大親友であるトランスジェンダー(身体的な性別と性自認が一致しない人)の男性とシスジェンダー(身体的性と性自認が一致している人)、かつヘテロセクシャル(異性愛者)の女性のカップル。友人は戸籍上女性であり、2人は女性同士となるため結婚ができない状態です。僕がパートナーの女性に精子提供をして、2018年秋に子供が誕生しました。

戸籍上はパートナーの女性がシングルマザーという扱いになっていますが、僕自身は認知をしています。生物学上の父として、戸籍上に名前は入っていますが、親権はありません。

一方、子供と一緒に暮らすトランスジェンダー男性と子供は、戸籍上のつながりがない状態となります。

実は、多様な形のファミリーがすでに日本には存在しているものの、医療現場などで緊急時に「家族」として扱われるかという不安を持っている方は多いと思います。

松中権氏

—— なるほど。オノさんは、このコロナウイルスの影響で感じた不安や課題はありましたか?

オノ:僕自身は、すでに職場でもカミングアウトしていますし、同居している彼氏の両親に頻繁に会うほどの関係性ができているため、「LGBTQだから」という理由で生まれた大きな不安はありませんでした。

デンマークでは、LGBTQ全体の約70%が職場でカミングアウトしているというアンケート結果が出ていて、強制的にカミングアウトしなければならない不安は生まれづらいと思います。私生活でカミングアウトしている人は、さらに多いでしょう。

「感染したときに家族扱いしてもらえるのか」という問題についても、デンマークでは結婚していなくても、一緒に住んでいるパートナーなら会うことができますね。以前、ワクチン接種のために病院に行った際も、関係性を問われることなく「連絡先」として彼氏の名前と連絡先を登録できました。

ただし、松中さんとご友人カップルのような家族の場合、デンマークでも問題が起こることは考えられますね。なぜなら、同性の両親への親権は認められても、親権を持てるのは2人までであり、3人目の親は親権を持てないからです。緊急入院などの場面で困ることがあるかもしれません。

—— デンマークでは同性婚が可能で、そこは日本との大きな相違点ですが、それ以外にもカミングアウトの状況や医療現場の対応にも違いがあるのですね。オノさんの周囲では、LGBTQの人たちの悩みが聞かれましたか?

オノ:デンマークのLGBTQ団体のHPでは、いくつかの問題が書かれていて、1つは「ホルモン治療が受けづらい」こと。コロナウイルスの影響で閉鎖している病院もあるので、トランスジェンダーの人が治療を受けづらい状況があるそうです。

もう1つは、シングルのLGBTQの孤独問題。LGBTQはそれ以外の人に比べて、シングルや一人暮らしの人が多いことがわかっており、さらに複雑な人間関係を持っている人も多いです。親友か恋人かもわからないあいまいな人間関係の人もいます。

自粛生活によって、友達はもちろん、恋人に近い存在の人とも会うことを控えなければいけなくなるなど、より孤独感が増しているようです。

コロナ禍のLGBTQを救うコミュニティの活動

オノ・フォラス氏

—— 両国の状況は異なっているものの、それぞれに課題があることがわかりました。それらの課題に対して、何か対策は取っていますか?

松中:大きな対策としては、冒頭でご紹介したLGBTQのアンケートをもとに、マリフォーが政府へ「要望書」を提出しました。私もマリフォーの理事として提出に参加しました。

要望の1つはプライバシーに関する内容で、国が個人の情報をきちんとケアしてほしいということ。感染症の場合、ウイルスの経路を追う必要があるため、本人が望まないカタチで個人情報が世間に出てしまう可能性があるからです。

もう1つは、医療現場でLGBTQのカップルも家族として扱ってほしいということ。同性婚が法制化されていなくても、医療現場でできる対応をしてほしいと訴えました。

加えて、LGBTQの当事者や関係者の方に向けた「緊急オンライン報告会」をマリフォー主催で実施しました。弁護士や医療現場の専門家等を招いて、自分たちの身を守るために緊急連絡先を書いたカードの作成などを提案し、医療現場でのティップスを共有しました。

また、「プライドハウス東京」というプロジェクトでは、LGBTQのユース(12〜34歳まで)を対象にしたトークライブ等のオンラインイベントも頻繁に実施しています。ユースは、学校でイジメにあいやすかったり、家族に本当のことを言えなかったり、居場所をなくしてしまう場合が多いのです。

私たちが実施した緊急アンケート結果では、コロナ禍のステイホームにおいて無理解な家族との時間が増えることで、精神的なプレッシャーや孤独感が増しているという結果も出ています。

オノ:デンマークでも、LGBTQの団体が全国の病院の手続きの変更など、HP上で情報を公表しています。やはり、いろいろと混乱がありますので。

日本のユースと同じように、デンマークでもステイホームで居場所をなくしている人はいるでしょうね。LGBTQに対して理解のある人が過半数を占めているものの、田舎などには保守的な考え方の人もいますし、まだ小中学生のうちはカミングアウトしていない子供も多いですから。

子供が自己嫌悪に陥らないために、余計に親以外の大人が「LGBTQは悪いことではない」「あなただけではない」ということを教えてあげる必要があると思います。

また、外国に恋人がいるけれど国境が閉鎖されているために会えない、という問題も起こっています。6月中旬時点は、ノルウェー、ドイツ、アイスランドなど一部の近隣国からの入国は許可されていますが、それ以外は電話やオンライン上でコミュニケーションを取るしか方法はないのではないかと思います。

LGBTQを対象にしたイベント関連だと、毎年8月にコペンハーゲンで行われるプライドパレードの開催は現時点では未定ですが、そのときの感染対策に沿って、小規模のオフラインイベントとオンラインイベントを融合したスタイルになるようです。

コペンハーゲンでのプライドパレードの様子(©Tanya Randstoft)

—— さまざまな課題が見えた一方で、コロナウイルスの影響によるメリットは、何かありましたか?

松中:LGBTQコミュニティに関していえば、オンラインの活動が活発になったことで、顔や名前を出すことに抵抗があった人たちや地方に住む人たちが交流しやすくなったのは、とても良いと思います。日本最大のLGBTQパレードである「東京レインボープライド」が実施したオンラインイベントには、2日間で44万人がアクセスしたという報告もあります。

6月のプライド月間にあわせて、企業などが開催しているLGBTQ関連の勉強会やワークショップにも、リアルな場で開催していたときより参加者が増えていると聞きます。

オノ:僕は、このコロナウイルスの影響で自宅勤務に切り替わったときに、子供がいないこともあり、スムーズにテレワークができるメリットを感じました。子供が欲しいかどうかにかかわらず、LGBTQカップルは子供を作るのが難しいため、事実としてテレワークしやすい傾向がありますね。

また、こんな状況だからこそ、オンラインでの落ち着いた会話を通して、遠くに住んでいるLGBTQの人と知り合うことができました。オンラインの動きが活発になったことで、コペンハーゲンとそれ以外の地域の間にあるLGBTQコミュニティの隔たりが、個人的に少し縮んだ気がします。

マイノリティの人も安心して暮らせる社会のために

取材時の様子(写真左:松中氏、写真右:オノ氏)

—— Withコロナ、そして、これからやってくるであろうAfterコロナの時代に、LGBTQの人がより暮らしやすくなるために強化していきたいこと、訴えたいことはありますか?

松中:今回、国に要望書を出すなど、LGBTQの暮らしや権利を守るためにできる限りの活動をしてきましたが、さらに声を強く上げて訴えていかなければならないと感じています。

というのも、ちょうど6月初旬に、あるLGBTQカップルにまつわる裁判の判決が出たのですが、その内容が信じられないものだったのです。

これは、家族が事件に巻き込まれて殺害されてしまった遺族が受け取れる「犯罪被害者給付金」についての裁判で、論点は殺人事件で亡くなった男性とその男性のパートナーの男性の関係が「事実婚として認められるかどうか」でした。

この給付金は、家族に加えて「事実上の婚姻関係」のパートナーも支給対象になるものであり、2人は一緒に暮らしていて家族同然の関係性がありました。それなのに愛知県公安委員会は残された男性からの申請を認めず、男性は裁判を起こしたのです。

しかし、裁判では原告の主張が却下され、男性は給付金を受け取ることができなかった。その理由を聞いて、私は怒りを抑えられませんでした。裁判官は、「税金を財源にする以上、支給の範囲は社会通念によって決めるべき」という判断を示したのです。つまり、世の中が同性カップルを事実婚だと認めていないから、個別の事情には対応できないと。

国会をはじめ世の中は多数決で決まっていくものですが、裁判所は「最後の人権の砦」と言われていて、1人1人の人権を救うための場所なのに、裁判所が自ら差別的な決断を下した、これはあるまじきことではないでしょうか。しかも、「犯罪被害者給付金」の制度は社会立法といって、より弱い立場にいる人たちを救うためにできあがったものなのです。

結局、危機的な状況に陥るときにこそ、LGBTQをはじめとしたマイノリティは追いやられて、セーフティネットから漏れていく。このタイミングでこの事件が起きたことは意味があると僕は思っていて、改めて立場が弱い人たちに目を向けなければと痛感しました。

オノ:これは、本当にひどい事件で胸が痛みますね。僕は、今回のコロナウイルスによって、「恋愛関係にあるパートナーが死んだらどうするか」の課題が浮き彫りになったと思いました。僕自身は彼氏とお互いに生命保険の受け取り人になっているので保障がありますし、デンマークでは同性カップルの事実婚もきちんと認められます。

ただ、1対1の恋愛関係ではなく、もっと複雑な人間関係もあり、知り合いで3人でカップルになって住んでいる人もいます。もし、そのうちの1人が亡くなったら生命保険や給付金の支払い、相続がどうなるのかはわかりませんし、このあたりはデンマークでも課題でしょう。

松中さんのお話にあった「社会通念」は、デンマークでも重要だと思います。ここではLGBTQへの理解度が高いとはいえ、それを維持するためには、より積極的に活動を継続していくことが求められます。

個人的には、できるだけ多くの人にカミングアウトするようにしていますね。その人にとって僕が初めてのLGBTQの知り合いかもしれないし、唯一の知り合いかもしれない。僕は自分が嫌な人間ではないとうぬぼれているので、カミングアウトすることでLGBTQもちゃんとした人なんだという印象を誰かに与えられたら、と思っています。LGBTQである前に1人の魅力ある、あるいは意外と普通な人間なんだって。

もしかすると、ゲイがみんなマツコ・デラックスさんのようなオシャレでおもしろい人だとカン違いしている人もいるかもしれませんが、冗談が言えないつまらないサラリーマンもいますから(笑)。

松中:そうですね。オノさんのように、1人1人が意識をして声を上げること、変わっていくことが今の日本には必要だと感じています。

日本独特のカルチャーというか、声を荒げると嫌われるかもしれない、空気が読めない人と思われるかもしれないという不安から、言いたいことを飲み込んでガマンする傾向がありますが、声を上げなければ政治は変わりません。これまで以上に、いろいろな人と手を取り合って一緒に社会を変えていきたいですね。

<取材協力>

NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表 / プライドハウス東京代表 / ゲイ・アクティビスト 松中権

オノ・フォラス

取材・文:小林 香織

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