コロナ収束後「新しい通勤」の形。電車・バスは予約制、自転車通勤の人気急増?

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欧米や日本でロックダウンの緩和が進み、オフィスに戻る人も増えてきた。物議を醸した在宅ワークのスタイルが、ようやく生活に根付いたところでの通勤への逆戻り。実は、逆戻りのように見えて新しい方向へと向かっているのが世界的潮流のようだ。

強制的に始まった在宅ワーク

新型コロナウイルス感染拡大防止のため、欧米では都市封鎖が始まり、在宅ワークが強制的に行われた。日本では政府がオフィス出勤者を最低でも7割削減と数値目標を掲げ、在宅ワークを新しい生活様式のスタンダードにと提唱していたが、のちの厚生労働省の調査で実施率は全国平均でわずか約35%にすぎなかったことがわかっている。

半ば強制的に始まった在宅ワークにより、人々が一番に実感したのは「通勤の手間が省けた」ことだろう。日本の内閣府の発表によると、在宅ワーク継続希望者は8割超。なかでも、通勤時間を継続して削減したいとする人は7割に上り、いかに通勤が日常の負担となっていたかが伺える。

在宅ワークを通じて「ワーク&ライフ・バランス」を意識するようになった人が増え、地方移住への関心がにわかに高まるなど、より快適な通勤への関心やこれまでの通勤スタイルへの安全上の疑問が浮き彫りになっている。

世界で変わる通勤のスタイル。ニューヨークでは予約制のバス、地下鉄も検討

在宅ワークを通じて、果たしてこれまでの通勤が本当に必要だったのか、という疑問がうまれ、このまま在宅ワーク中心の生活を継続していきたいとする動きは世界中で広がっている。

特に通勤が容易でない都市部では、長時間の通勤による肉体的疲労や、満員電車やバスでのウイルス感染の危険性、マイカー出勤に費やしていた時間や費用、体力にも気が付いた。

アメリカの中でも、特に感染拡大の被害が甚大であったニューヨークでは、外出規制の緩和と共に、混雑による人の密集を減らすための様々な試みがされている。

ソーシャルディスタンスの大切さが叫ばれる中で、地下鉄を含む鉄道駅のホームには適正距離に応じた印がつけられ、防犯上設置されていたカメラを今後、車両に設置して混雑を監視することを検討していると話している。

さらなるオプションとして、ある一定の時間帯に地下鉄やバスを利用する際には、事前の予約を必要とする仕組み作りも今後考えているとのこと。これにより、混雑による人と人との接触を防げるだけでなく、感染者が出た場合に追跡がしやすくなるなど、乗客と乗員の安全に配慮したシステムとなるからだ。

外出自粛期間中に、前例のない「夜間運行停止」をも実施したニューヨークの公共交通は、時代の変遷とともに「出来ないことはない」として自信を見せている。

しかしながら、1日に550万人の利用者があるニューヨークで、このシステムを導入するのは簡単ではない。バスや地下鉄の利用者には、スマホやクレジットカードを所持していない人も多いため、よりシンプルで原始的なシステムの構築が求められるだろうと見られている。

通勤に求められるソーシャルディスタンス

アメリカのIBMが4月、2万5千人に調査を実施したところ、新型コロナウイルス感染収束後は、シェアライドや公共の交通機関を利用する人が減少し、よりプライベートな自家用車や自転車といったオプションを選ぶ人が増えてくることがわかった。

「今まで通りには公共交通機関を利用しない」とした人が20%以上、28%の人は「利用しても頻度を減らす」としている。

また、シェアライドについては大部分の人が「今後利用しない」または「利用頻度を減らす」と回答。「自家用車の利用頻度を増やす」とした人が17%、そのうちおよそ4人に1人が「今後は自家用車だけを使用する」、公共交通機関は利用しないと答えている。

ソーシャルディスタンスがカギとなり続ける以上、自家用車による通勤が一番安全なオプションに見える。しかしながら車の購入は、経済的観点からすべての人が享受できるオプションではない。特にパンデミックによる経済的打撃は個人にも及んでいるため、車の購入はよりハードルが高くなると見られている。

さらに、自家用車の利用が浸透したとしても、在宅ワークを経験した人たちの75%が可能な範囲で在宅ワークを継続したいと回答し、うち54%の人たちが在宅ワークをメインにしたスタイルを継続したいと回答した。これは、日本の在宅ワーク経験者の8割超が継続希望者という内閣府の調査結果と差異がないのは興味深い結果だ。

対応が迫られる人口過密のインド

パンデミック以前のムンバイの駅で見られる日常の風景 

1日あたり8百万もの人が毎日移動する、インドの都市ムンバイでは、これまで1日あたり通勤途中に死亡する人が平均8名いたものの、パンデミックによる外出禁止令がしかれた4月は1カ月で8名の死亡者しか報告されなかったという記録がある。また60日に及ぶロックダウンによって、最悪の空気汚染状態から脱却できたことが思わぬ副産物となり、自転車の利用を呼びかける声が高まった。

インドの民衆に強大な影響力があるボリウッド映画のスターたちも、こぞって自転車利用をアピール。「自家用車は遠距離専用で、いまはもっぱら自転車を利用する」「俳優友だちの家まで自転車で出かけた」などとSNS上に発信して、人々の意識改革を進めている。

自転車利用をアピールするインド映画の大スター、サルマン・カーン。TIMESOFINDIA.COMより

世界に広がる自転車回帰ブーム

実はこの自転車ブームは世界的な潮流で、特に都市部における自転車通勤へ注目が高まっている。前述のアメリカでの「自家用車の購入は経済的に余裕がない」とした家庭では、自転車ならば手が届く。

全米の自転車業界団体によると、これまでは自家用車の利用が圧倒的に多かった州でも、自転車店の売り上げが増加。2020年3月の自転車売り上げは、前年同月比で大人用自転車が121%の増加、子供用BMXが56%の増加を見せ、フロリダ州では爆買いや買い占め現象まで発生する事態に。在庫を懸念する声も多く上がる一方で、修理やメンテナンスの需要も急増している。

欧州では、フランスのパリがロックダウンの解除と共に、計50キロメートルに及ぶ自動車道を自転車専用道路に変更。郊外の街でも、新たな自転車専用レーンを設けることによって、通勤電車やバスでの混雑を避けようと試みている。パリ市長は、この試みで混雑の緩和が成功すれば、一時的なものでなく恒久的に自転車専用道路に変える用意があると述べている。

車の排気ガスによる空気汚染に悩まされていたパリは、ロックダウンによって青空が戻って来たことでも話題になっている。またフランス政府は、2,000万ユーロ(約24億円)の予算を投じて、自転車利用を促す施策を実行し、50ユーロ(約6,000円)を上限に、自転車の修理費を政府が肩代わりするなどといった支援策を講じている。

パリ市長発表の「自転車専用道路(赤)」や「路肩の駐車スペースを歩行者専用道路に変更(青と緑)」のお知らせ

3月下旬から外出制限が始まったイギリスでも在宅ワークが始まり、その生活がすっかり日常となった今、オフィスへと通勤する気になれない、とぼやく声も多いと聞く。

そんな中で英国政府は2億5千万ポンド(約333億円)を投じて、バスと自転車の専用レーンなどを設置。これは20億ポンド(約2,660億円)を投じる「徒歩と自転車」を推奨するプロジェクトの一環だ。

イギリス政府HPより

家の物置などにしまい込んでいる自転車を引っ張り出して、再び利用することを奨励する「自転車修理50ポンド(約6,650円)バウチャー」を配布するほか、マンチェスター・エリアでは150マイル(約240キロメートル)にも及ぶ自転車トラックの造成、ウエストミッドランドでは新交通手段としてeスクーターのレンタルを試験的に開始。

新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、公共交通機関における人の密集を防ぐ一方で、大気汚染を抑制し、健康を促進できるほか、都市部の混雑を緩和するマルチな方策だとしている。

eスクーターの利用実験。イギリス政府HPより

こうした動きを裏付けるような自転車販売データも発表されている。オランダの自転車会社VanMoofではグローバル市場における電動自転車の売り上げが2020年3月の2週間で48%増加し、英国の自転車市場最大のリテールショップHalford‘sの売り上げは倍増した。

世界的なパンデミックにおける自転車へのムーブメントには、こんなニュースもある。

アラブ首長国連邦ドバイでは、厳しい外出自粛期間中に、自転車のレンタル希望者が殺到。また、1カ月の自転車販売が前年比120%増加したショップもある。

というのも、ドバイの気候は5月後半から本格的な真夏になり40℃近い気温に悩まされるため、1年で一番過ごしやすい気候を満喫したい人や、普段は車通りが多い広く整備された道路を思う存分走り回りたいと願う人が激増したからだと分析している。

屋外スポーツは11月から5月ごろまでに限られる砂漠気候のドバイ。ドバイ政府観光商務局HPより

Back to Basicが新しい生活様式?

パンデミックを機に繰り返される「新しい生活様式」の提唱。毎日往復で平均2時間前後を通勤に費やすことや、満員のバスや電車に乗って移動することを半ば強制的に止められた中で、ワーク・ライフバランスへの意識が高まったことはパンデミックの副産物と言えるだろう。

都市のロックダウンや在宅ワークで改めて見えてきた、徒歩や自転車の利便性。「密」を避けるためにはパンデミック以前の生活より、さらにもっと前の超ベーシックな生活が実は、コロナと共存しなければならない新しい生活様式なのかもしれない。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit

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