「ビデオゲーム」に対するイメージ。これまでは「子供が遊ぶもの」「勉強ができなくなる」「時間の無駄」などネガティブなものが先行しがちだった。
しかし、ビデオゲームやeスポーツに関する研究が増え、このような偏見は払拭されつつある。ビデオゲーム/eスポーツがスキルアップや生産性アップにつながる可能性を示す研究結果が増えているのだ。また今後、ビデオゲームで優れた結果を残した人が就職で有利になる可能性も議論されている。
ビデオゲーム/eスポーツにはどのような効用があるのか。最新研究が示すそのメリットを紹介したい。
eスポーツで生産性20%アップ?
米ブリガムヤング大学の研究(2019年1月)によると、ビデオゲームはチームの生産性を20%高める可能性がある。
この研究では、352人の被験者を4〜5人で編成される80チームに分け、あるタスクを実行させた。これら被験者はお互いを知らないものどうし。タスクにはチーム力が求められる。1回目のタスク終了後、各チームは「ビデオゲーム」「静かな時間」「タスクのパフォーマンス向上に関する議論」いずれかのアクティビティが与えられた。どのアクティビティも45分間。
その後2回目のタスクが実施され、それぞれのアクティビティが、タスクのパフォーマンスにどう影響したかが分析された。
研究者らによると、「タスクのパフォーマンス向上に関する議論」を行ったチームでは、結束力の強化が観察されたが、実際のパフォーマンスでは、「ビデオゲーム」をプレイしたチームの平均点の上昇率の方が高かった。タスクのスコアは、1回目の435ポイントから520ポイントと約20%上昇したのだ。45分間のゲームプレイが高いチームビルディング効果を発揮したことが示唆されるという。
米国の企業向けeスポーツ団体Corporate Esports Association(CEA)によると、実際eスポーツチームを立ち上げた企業では、様々なベネフィットが観察されるとのこと。社員間のコミュニケーションの促進だけでなく、eスポーツを通じた新規クライアントの獲得やキャリアアップの機会などもあり得ると指摘している。
eスポーツで経営者に対する印象もアップ?
米ナスダック上場のIT企業Connectionのブログでは、企業内eスポーツが企業経営者に対する社員の認識にも影響する可能性を議論している。
同ブログでは、アーンスト・アンド・ヤング(E&Y)の公認会計士アビル・シド氏の事例を紹介。E&Yのリーグ・オブ・レジェンドeスポーツチームに所属していたシド氏。社内eスポーツチームの活動によって、会社に対するポジティブな印象はより強まったという。
社員が雇用主に対して持つ印象は、企業全体のパフォーマンスにも影響するため無視できない要素。ハーバード・ビジネス・レビュー2015年1月に掲載された、クイーンズランド大学スミス経営学部とギャラップの共同調査によると、エンゲージメントが低い社員はそうではない社員に比べ、欠勤率が37%、事故率が49%、失敗・不良品率が60%高くなることが判明。また、エンゲージメントスコアの低い企業では、生産性が16%、利益率が16%、雇用成長率が37%、株価が65%、低くなる傾向があるという。
グーグルやマイクロソフトなど、社員eスポーツチームを持つ企業
冒頭で言及したように米国ではCEAという企業向けeスポーツ団体が存在する。
Connectionによると、CEAには現時点で、291社・150チームが参加。グーグルやマイクロソフトなどの大手企業から、スタートアップまで多種多様な企業が含まれるという。CEAは、16週にわたる企業対抗eスポーツリーグを開催。各チームは200ドルを支払いリーグに参加しているとのこと。
このトレンドを受け、eスポーツチーム創設を検討する企業が増えているが、そうしたプロジェクトを人事部や総務部に丸投げしてもうまくいかない場合が多い。ビデオゲームやeスポーツが好きな社員にチーム創設を任せるのがうまくいくコツだという。
シンガポールではデロイトのeスポーツチームが最強?
日本では「会社の中でゲームとはけしからん」という声が聞こえてきそうであるが、アジアの他国では企業におけるeスポーツ活動は活発化の様相だ。
シンガポールでは国内通信最大手シングテル主催のeスポーツ企業対抗リーグ「PVP Corporate League」が毎年実施されている。「Dota2」と「Mobile Legends: Bang Bang(MLBB)」2つのオンラインゲームを使い、それぞれの企業チャンピオンを決める同リーグ。2019年、Dota2ではデロイトのeスポーツチーム「DeloitteOne」が優勝、MLBBでは国内銀行最大手DBSのチーム「Turret Heist」が優勝した。
今年も6月27日にリーグファイナル戦が開催される予定。Dota2では、デロイトのDeloitteOneが再びファイナル進出を果たしている。対戦相手は、JPモルガン・チェースのeスポーツチーム「MeetYourMorgans1」だ。
日本でも6月25日にNTTe-Sportsによる「ストリートファイター」企業対抗戦(NTT東日本 vs DNP大日本印刷)が開催されたところ。国内における企業のeスポーツ活動普及のきっかけになるかもしれない。
若い社員が飲み会に来ないといわれる時代。社内コミュニケーション促進には、飲み会ではなく、eスポーツ大会を開催するのが効果的なのではないだろうか。
[文] 細谷元(Livit)