共働きの家庭や働く女性が増えている昨今、日本で最も求められている働き方改革の施策の一つに「女性が働きやすい社会づくり」がある。
平成30年版「男女共同参画白書」によれば、雇用者の共働き世帯は平成29年には1,188万世帯と、上昇の一途をたどっている。
中でも、女性が働きながら家事や育児をできるよう、企業が「時短勤務」というワーキングスタイルを取り入れるなど、数年前から「時短」という言葉が社会でも定着している。
しかし近年、働く女性のテーマとして、新たに注目を集めているのが、「時短」からさらに進化した「時産」だ。働く時間を短縮することが「時短」というなら、「時産」は文字通り「時間を産み出す」ということである。
そんな社会背景の中、「ジップロック®」「サランラップ®」「クックパー®」を始めとするブランドで、長年多くの家庭を支え続けている旭化成ホームプロダクツ株式会社が、ゆとりを産むための「ゆとりうむプロジェクト」を発足するなど「時産」に取り組んでいる。
今回は、旭化成ホームプロダクツ株式会社の服部健人氏に、同社が時産に着目した理由や、時産に取り組むことのメリットなどについてお伺いした。
「時短」ではなく「時産」が家庭にもたらすメリット
――貴社が「時産」というテーマに着目したきっかけは何でしょうか。
(服部健人、以下服部氏):最近では、女性の社会進出や働き方が多様化するなど、社会が変化をしてきています。活躍する女性が増えている一方で、家庭の中で料理をするのは、今でも女性が多いのが実情です。そんな中、これまで弊社はジップロック®だけではなく、サランラップ®などを使った、「時短」テクニックを伝えてきました。
「時短」と聞くと、手抜きをしているイメージだったり、罪悪感を持つ方もいるようなのですが、我々はあくまでも「美味しい料理」というのが第一にある上で、そこに「調理工程の短縮」という要素をプラスしたいと感じています。
たとえ時短料理だとしても、そこには充分愛情や思いがこめられていると思います。
さらに、時短によって空いた時間を散歩に使ったり、自分の趣味に使ったり、家族との時間を大切にするなど、あくまでも「手抜き」ではなく「ゆとりを産む」というプラスのマインドを持っていただきたいという思いから、「時産」という新しいコンセプトに着目しました。
――「時短」に対して一定数の方が良くないイメージを持っているのはどうしてでしょうか?
服部氏:2019年の生活者のアンケートを見てみると、家族のために「手を抜いて」料理を作ることに罪悪感がある人は2013年と比較して増加傾向にあります。
「手間暇かけて」や「長時間煮込んだ」など時間をかけて作っている料理は良いイメージがあるだけに、「時短」はどうしても手抜きに該当すると思われがちです。
一方で家事をきちんとできていない時にストレスを感じると答えた人が87.4%にも及んでいます。
これはつまり、仕事で毎日が忙しくとも家事もきちんとこなしたい、ということになります。共働き世帯が年々増えている今、効率化を図るという意味での「時短」は欠かせません。本来「時短」というのは、家庭にゆとりをもたらすための工夫であり、決して罪悪感を持つようなものではないと考えています。
「時産」は家庭内のコミュニケーションを活性化させる
――「ゆとりうむプロジェクト」は、様々な時産テクニックで暮らしにゆとりを産むことをコンセプトにしていますが、このプロジェクトが発足した経緯を教えてください。
服部氏:共働き世帯が増えたため、近年では家庭と仕事の両立で、自分の時間や家族との時間を持てなくなってしまっている方も増えてきています。
そういった社会背景の中、「家事負担を軽減し、ゆとりのある生活を産み出す」というコンセプトで、このプロジェクトを発足することにしました。
現在では、9社2団体が参画しており、様々な各社の商品やサービスを活用した、ゆとりを産むためのノウハウや情報を提供しています。
――ゆとりの産み方について、具体的に教えてください。
服部氏:ゆとりうむプロジェクトが考える「ゆとり」は、家の中の衣食住あらゆることを指しています。
家事といっても、料理だけでなく、食器の後片付けや掃除や洗濯、育児、それらを取り巻く家づくりに至るまで多岐に渡っています。
家庭内に関わる商品やサービスを展開する各企業のノウハウを集めることができれば、きっと家の中の仕事時間をより効率化し、ゆとりを産み出せると考えています。
例えば、ジプロック®フリーザーバックを活用することで、今話題の下味冷凍ができようようになります。
「下味冷凍」とは、肉や魚などの食材に下味をつけて、冷凍保存する方法です。使いたい日の朝に冷蔵室に移しておけば、夕方には解凍されているので、煮たり焼いたりするだけでメインおかずを簡単に用意することができます。
このように、工夫次第で、生活のあらゆる工程を時短で済ませ、結果的にゆとりある生活を産むことにつながるのです。
――本プロジェクトではPOP UPイベント「下味冷凍食堂」を開催していますが、反響はいかがでしたか?
服部氏:ゆとりうむプロジェクト第一弾イベントとして「下味冷凍食堂 by Ziploc」を平日2日間限定で開催させていただいたのですが、2日間で118人もの方が体験してくださり、イベントとしては大盛況でした。
参加者からも「便利」「楽」「美味しい」などとの声をいただいたり、ネットでの反響も大きく、メディアでも取り上げていただくことができました。
この取り組みが直接関係しているかは分かりませんが、2019年は「下味冷凍」というワードでレシピなどを検索する方が増えたそうなので、少しは普及に貢献できたのではないかと感じています。
――「時産」を取り入れることにより、家庭ではどのような変化が見込まれるのでしょうか。
服部氏:家族で共有できる時間が生まれ、家庭内の幸福度が上がるのではないでしょうか。
子育て世帯や共働き世帯では、仕事・家事・育児に追われ、特に平日は忙しく毎日を過ごしている家庭が多いと思います。
「時産」によって、今まで家事に使っていた時間を、家族の団らんや会話したり一緒に過ごす時間に充てられたとしたら、コミュニケーションが活発化し心のゆとりにも繋がることが期待できます。
――忙しく働くビジネスパーソンは「時産」によってライフスタイルがどのように変化するとお考えですか?
服部氏:時産テクニックを活用することで、自由な時間を産むことが可能です。その時間を利用すれば、「仕事の時間」と「家族の時間」が両立できるライフスタイルに貢献できると思っています。
他にも、仕事のスキルアップをするための時間として活用することで、昇進や自己実現にもつながるのではなでしょうか。仕事に追われて自由な時間がなかった毎日に、ゆとりを産み出すことで、プライベートも充実させることが期待できます。
時産に取り組むことが新たな選択肢を創る
――食品以外の領域にも進出されていますが、その施策に至った理由は何ですか?
服部氏:最近では、アパレルブランドの「BEAMS COUTURE」様とコラボレーションをさせていただいているのですが、理由の一つに「用途拡大」という大きな狙いがあります。
というのは、世間では「ジップロック®」というと、やはり食品保存のイメージが強いためです。
しかし我々は、例えば旅行に行く際の小物入れとして使っていただいたり、部屋の中を整理する際に使っていただくなど、「現状で食品以外の分野でも便利な袋」というイメージを追加したいと考えているんです。
ですが、衣料品や小物などを入れることは訴求しても、食品保存のイメージとギャップがあります。そのため、イメージを一新するためにも、新しくオシャレなデザインにしたいと考えました。
そして、BEAMS様のようなアパレルブランドとコラボレーションするプロジェクトが実現しました。
こうした取り組みをすることによって、ライフスタイルブランド化を目指し、色々なシチュエーションで使っていただけるような商品にしたいと考えています。
弊社ではサランラップ®やクックパー®など、色々な商品を取り扱っていますが、それらはどれも調理の時に使用するもので、キッチンや食卓といった領域から出ることはありません。
しかし、ジップロック®であれば、キッチン以外の領域にも進出できる可能性があるのです。そういった意味でも、ジップロック®は弊社でも異質なブランドであると言えます。
私たちは、こういったジップロック®唯一の特性を生かし、今後も柔軟に多様化し、様々な領域に進出していきたいと考えています。
――現在の日本のライフスタイルにおいて、今後ますます必要になってくることは何だと思いますか?
服部氏:家族での助け合いではないでしょうか。働く女性や共働きの夫婦が増えていく中、大切なことは、時産によってゆとりある生活を産むことだとお伝えしてきました。
時産は家庭を支えている女性に限らず、どなたでも取り組むことができるものです。
例えば、家庭を持っているビジネスマンが、急遽一人で夕飯を作らなければならない場合など、あらかじめ下味をつけて冷凍保存していた鶏肉があれば、解凍して焼くだけで、簡単にメイン料理を作ることができます。これは単なる料理時間の短縮だけでなく、買い物に行く手間や献立を考える時間の削減にもなります。
このように調理工程をできるだけ簡略化すれば、料理の不得手に関わらず、老若男女問わない人々に「時産」を実践してもらうことができます。
お母さんがタネだけ作っておいて、家にいる家族がそれを元に手伝ったり、逆に、休日に家族で一緒にタネを作って平日の時短につなげたり、非常に様々な選択肢が生まれます。
だから「時産」というのは、家族全員がターゲットなんです。
こうして一人ひとりが時産に取り組むことによって、家族全員のゆとりを産み出すことにつながっていくのではないでしょうか。
取材・文:Sayah
写真:西村克也