出光興産株式会社と株式会社グリッドは6月30日、深層強化学習などのAI技術を活用した「内航船による海上輸送計画の最適化」の第一弾となる実証実験を完了したと発表した。出光興産とグリッドは2019年12月に、AIを活用した配船計画の最適化を目的に協業していた(外部サイト)。

計画時間を大幅削減 輸送効率は20%アップ

出光興産とグリッドによる実証実験は、石油元売り業界の喫緊の課題であった熟練担当者の経験や職人技に依存した配船計画策定を、AI最適化技術を用いて最適化および自動化を目指すというもの。

実証実験では、製油所から油槽所に製品を海上輸送する現実の配船オペレーションを再現するシミュレータ構築およびAI配船最適化モデルを構築し、AIによる最適な配船計画策定を実現した。

プレスリリースによれば、過去の実績データとAIによる配船結果を比較検証したところ、安定供給を実現しつつ輸送効率を最大20%程度改善できる配船計画の作成に成功したという。

さらに、計画立案速度も格段に向上し、これまで計画立案に要していた時間のおよそ1/60まで削減できた。これは、約1ヵ月の計画を数分で立案できるほどだそうだ。

構築された配船計画モデルについては、実働率・載積率・実車率の3つを掛け合わせた運航効率や、製品の積み付けバランス、航海時間や荷役時間も含めた船舶稼働時間など、さまざまな制約時間を考慮してある。そのため、計画の実効性においては、配船計画担当者や海運会社にとって違和感のない現実的な配船計画を作成できているとのことだ。

そのため、配船計画担当者の業務時間を大幅に削減するだけでなく、複数の配船計画を比較し、最良の計画を担当者が選択するという業務プロセスの改善にも期待できるとしている。

配船計画ルートの組み合わせ数は10の800乗通り

出光興産とグリッドによるAIを活用した配船計画の最適化では、深層強化学習が活用されている。

深層強化学習は、囲碁や将棋などのゲームにおいて世界チャンピオンを破った技術で知られている。しかし、学習させる組み合わせの数が膨大になるため、社会課題への活用は難しいとされていた。

たとえば囲碁の場合、学習させる組み合わせの数は、10の360乗通り。だが、配船計画ルートの組み合わせ数は、10の800乗通り存在しており、手計算では一生終わらないと言えるほど膨大な数だ。

そこで実証実験では、深層強化学習だけでなく、複数のアルゴリズムの組み合わせを用いることで取り組んだそうだ。

膨大な組み合わせから最適な答えを導くAI配船計画最適化の成功は、サプライチェーン全体の最適化への大きな足掛かりになると期待している、とプレスリリースでは述べられている。

AIを使った最適化 廃棄物の収集でも活用

出光興産とグリッドのように、AI技術を活用して最適化させる取り組みは、今後のさまざまな業種・業界で広まっていきそうだ。

実際、AIを使って最適化を導く手法は、我々の身近な部分でも使われている。

エコスタッフ・ジャパン株式会社は6月1日、AI(人工知能)を用いて廃棄物の最適な収集コースを算出し、廃棄物処理業者に提供するサービスの事業化を発表した。

これは、AIを活用して収集コースを最適化することで、配車係の作業負荷の軽減や収集車両の効率化、コストの削減などを目指す取り組みだ。

エコスタッフ・ジャパンのプレスリリースによると、新型コロナウイルス感染症にかかる影響によって、廃棄物収集運搬業界では、顧客数と廃棄物量が減少し、廃棄物収集コースの見直しや合理化が急務になっているという。

AI配車シミュレーションサービスでは、廃棄物収集にかかわる基礎情報からAIが最適な収集コースを算出する。これまで、配車担当者が取り組んでいた収集車両ごとに収集コースの設定や、コースの見直し作業を補助する役割だ。

AI配車シミュレーションサービスを活用することで、勘や経験に頼っていた配車係の作業負荷を軽減したり、収集車両を効率化することによって台数の削減に貢献したりする。そして、トータルコストの削減につなげ、利益を創出させるのが狙いだ。

エコスタッフ・ジャパンのAI配車シミュレーションサービスは有償による提供ではあるが、産業廃棄物収集運搬企業、一般廃棄物収集運搬企業はもちろん、自治体でも活用可能とのこと。

新型コロナウイルスの影響もあり、これまでは当たり前だったことを見直す動きが多くの企業などで起こり始めている。AIを使って効率化を目指し、最適化させる取り組みは、ごくごく一般的なものになりえる未来が近づきつつあるかもしれない。