新型コロナの次に起こる「コロナごみ」のパンデミック、使い捨てマスクが海に大量流出する懸念増大

TAG:

世界各地で報告される「コロナごみ」問題

経済・社会に甚大な損失をもたらした新型コロナパンデミック。その間接的影響は環境にも及び始めている。使い捨てマスクや除菌ボトルなどが海に流出する「コロナごみ」問題だ。

フランスの環境非営利団体「Opération Mer Propre」は、ソーシャルメディアでの活動報告(5月)で、地中海で大量の使い捨てマスク/手袋や除菌ボトルが流出していると指摘。これらを「covid waste(コロナごみ)」と名付け、さらに深刻化する可能性があると警鐘を鳴らしている。同団体は、フランス政府が使い捨てマスク20億枚を発注したことに触れつつ、今後地中海では、クラゲよりもマスクの方が多くなる可能性があるとも述べている。

「Opération Mer Propre」5月24日公開の画像

国連環境計画2018年の推計によると、毎年1,300万トンのプラスチックごみが海洋に流出。地中海では年間57万トンが流出している。世界自然保護基金(WWF)は、地中海のプラスチックごみ流出量は1分間でペットボトル3万3,800本が流出する量に相当すると指摘。コロナ以前、すでに地中海のプラスチックごみ問題は深刻化しており、対策がなされなければ、ごみ流出量は2050年には現在の4倍になると見込まれていた。コロナごみによって、この状況に拍車がかかることが懸念される。

新型コロナが世界的な問題であったように、コロナごみも世界中に広がる問題だ。香港の環境団体「OceansAsia」は、3月すでに使い捨てマスクが香港のソコ群島に大量に漂着していると報告。香港や中国の市内から使い捨てマスクが風に飛ばされ、海に流出、島に流れついている可能性があるとのこと。同団体代表ゲイリー・ストーク氏は、ガーディアン紙の取材で、周辺海域に生息するイルカがマスクを食べ物と間違えて飲み込み、死亡する危険性があると述べている。

コロナごみの脅威を訴える「OceansAsia」のゲイリー・ストーク氏(OceansAsiaウェブサイトより)

海洋流出した使い捨てマスクでマイクロプラスチック問題も悪化

使い捨てマスク/手袋の海洋流出に関して、それ自体が問題であるとともに、マイクロプラスチック問題を悪化させる危険性も指摘されている。

中国とクイーンズランド大学の研究者らの共同論文「Covid-19 face masks: A potential source of microplastic fibers in the environment」では、使い捨てマスクのスペクトル分析を実施。その結果、マイクロプラスチック流出の可能性が示唆された。

マイクロプラスチック問題に関しては、2020年6月の学術誌「Science」で新たな発見が報告されている。同研究によると、工場排水や生活排水に含まれるマイクロプラスチックは海洋に流出。その後、多くが海底に蓄積している可能性があるという。海底は生物多様性の宝庫、この場所でのプラスチック汚染は、海洋エコシステム全体に影響を及ぼし、人間が口にする多くの魚介類の汚染にもつながっている可能性があるとのこと。

同研究の筆頭著者、英マンチェスター大学のイアン・ケイン氏がガーディアンに語ったところによると、今回の研究で見つかったマイクロプラスチックは、当初想定していた大きなプラスチック商品が分解されたものではなく、そのほとんどが繊維や衣服のものであることが判明。ファストファッションで服を買わないなど、ちょっとしたことがマイクロプラスチック問題を悪化させない対策になり得ると語っている。

一方、マイクロプラスチック問題への最大の対抗策は、政府による政策と水処理産業による取り組みだと強調。排水・水処理時にマイクロプラスチックを通さないフィルターの利用を義務付けることで、問題の深刻化を防げると説明している。マンチェスター大学が開発しているグラフェンフィルターやフィンランドで開発されている次世代ナノセルロースフィルターなど、マイクロプラスチックの流出を阻止する技術はすでに存在しており、あとは政府が本腰をあげるかどうかにかかっているという。

使い捨てマスクとリユースマスクの環境インパクト比較

新型コロナ・パンデミックの次は、使い捨てマスク/手袋などの「コロナごみ」のパンデミックが起こるだろうとの懸念の声があがっている。

マスク/手袋の利用は、環境問題を意識し最適化することが求められそうだ。

英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の研究所「プラスチックごみ・イノベーションハブ」はこのほど発表したレポートの中で、使い捨てマスクによる環境インパクトを分析し、感染リスクを抑えつつ、コロナごみによる環境インパクトを最小化する方法を提示している。

同レポートでは、使い捨てマスクとリユースマスクのライフサイクル・アセスメントを実施。英国における、それぞれのシナリオでの環境インパクトを評価した。

英国の人口は6,780万人。仮に全員が1年間使い捨てマスクを1日1枚使用すると、その数は247億枚となる。一方、リユースマスク2枚を交互に洗浄しながら、1年間使用する場合、その数は1億3,600万枚に収まる。

中国からのマスク輸入にかかる二酸化炭素排出、マスク洗浄にかかる水の利用、マスクの耐久性など、様々な要素を考慮したシナリオ分析で、最も環境インパクトが少ないと結論付けられたのが、4枚のリユースマスクを洗濯機で洗浄しながら、1年間交互に使用するというシナリオだ。またリユースマスクでもフィルターを利用すると、環境負荷が増大するため推奨されないとしつつ、使い捨てマスクに比較すると60%ごみの量を削減できると指摘している。

カナダメディアCBCが5月21日に伝えたところでは、地元ブリティッシュコロンビア大学が生分解性の医療用マスクを開発したという。マスク製造においては、海洋流出リスクを考慮したデザインが求められるのかもしれない。

[文] 細谷元(Livit

モバイルバージョンを終了