累計感染者332人、コロナ対策優等生のベトナム
6月11日時点、新型コロナの累計感染者数は米国で200万人を超え、世界全体の累計感染者数は736万人に達した。
米国やブラジルなどで依然感染者増が続いている一方で、すでに感染を抑制し、新規感染者ゼロを維持している国も出てきている。こうした国々では、国内外の観光再開や経済活動の本格的な復帰に向け、準備を着々と進めている。
新型コロナ対策における優等生と称される国の1つがベトナムだ。人口約9,600万人と1億人に迫る勢いで人口が増えている同国だが、ジョン・ホプキンス大学のまとめによると、現時点における新型コロナの累計感染者数は332人、死者数はゼロとなっている。感染者のうち316人は回復済み。
他の東南アジア諸国と比べてみてもベトナムの状況は目をみはるものがある。域内最大の人口を誇るインドネシア。人口約2億7,000万人に対し、感染者数は3万4,316人、死者1,959人。感染者増のカーブはまだ緩やかにはなっていない。
2014年に人口1億人を突破したフィリピン。感染者数は2万3,732人、死者数1,027人。5月末頃にピークは過ぎたと思われたが、6月に入り感染者増のカーブは再び加速の様相だ。人口563万人のシンガポールでは、寮住まいの労働者の間で感染が広がり、累計感染者数は3万8,965人に達した。このほか、マレーシアの累計感染者数は8,338人、タイは3,125人などとなっている(マレーシアとタイの感染者増はほぼフラットになっており、一部で国内観光が再開されている模様)。
4月には国内観光を再開、ホーチミン市は8月に大型イベント開催計画
早期に感染抑制に成功したベトナムでは、4月末頃から国内観光再開に向けて観光産業の各プレイヤーの動きが活発化している。
ベトナム当局は4月23日に、ソーシャルディスタンス規制を緩和。それにともない、国内の観光地では宿泊施設の運営が再開された。
また地元メディアVNExpress5月6日の報道によると、ベトナム当局は、国内航空会社の旅客便運行にあたり、ソーシャルディスタンス規制の緩和を許可。また、主要都市間の航路におけるフライトの増便も認可した。それまで旅客便では、真ん中席を空けることが規定されていた。
主要都市間のフライトは、ハノイ・ホーチミン間で1日あたり36便から52便に増加、ダナンとハノイ・ホーチミンを結ぶ航路も12便から20便に増加した。ベトナムでは4月30日の統一記念日からメーデーを含め4日間の祝日があったが、このときすでにハノイ・ホーチミン間のフライトでは座席利用率が70〜80%、ダナン行きは60〜70%に達していたという。
VNExpressによると、ベトナム当局は、旅客便のほか、バス、タクシー、電車、船におけるソーシャルディスタンス措置の撤廃/緩和も許可した。
3月25日以来、国際線の乗り入れは停止されている状況。ベトナム政府は、まずは国内観光を盛り上げ、落ち込んだ経済の立て直しを図る算段のようだ。ホーチミン市はこのほど、8月に国内観光客向けの大型イベントを開始する計画を発表。観光と食に関するイベントで、市は出展を促すために企業への優遇措置を提供するという。
また新型コロナ対策のため中止に追い込まれた「アオザイまつり」も9月か10月の実施を検討していることを公表。アオザイまつりは、ホーチミン市で毎年3月に行われる大型イベント。3月に延期が発表され、4月には中止の決定が下されたところ。さらに12月には国際マラソンの開催が検討されているという。
2020年1~5月にホーチミン市を訪れた国内外の観光客数は130万人。前年比で63%減となった。また同時期の観光収入は27兆ドン(約1,245億円)で、前年比52%減。
ベトナムの人口規模から推測される通り、国内観光市場は小さな規模ではない。Bangkok Postによると、2019年ベトナムでは国内外の旅行者は全体で1億300万人いたが、このうち海外旅行者が占める割合は17%(約1,751万人)だった。残りの8,500万人は国内の旅行者だ。
現在、ベトナムの観光地では「ベトナムを旅行するベトナム人」と銘打ったキャンペーンが実施されており、高級リゾートなどが通常よりも大幅に値下げした価格で、ベトナム人観光客の呼び込みに力を入れている。
フーコック島など特定リゾート地限定で海外観光客受け入れ検討
ベトナムの国内観光が再び活気を帯び始める中、海外観光客の受け入れについても議論が始まっている。
VNExpressが6月5日に報じたところでは、ベトナム観光当局は海外観光客の受け入れ再開ロードマップの一環で、特定リゾート地に限定した海外観光客の受け入れを検討しているという。大都市ではなく、島を中心にリゾート地を選定しているとのこと。特定リゾート地の1つには、フーコック島が含まれている。2019年のフーコック島を訪れた観光客数は500万人以上、このうち54万人が海外観光客だった。
ベトナム政府は、海外観光客の受け入れについて、対象国として日本、韓国、中国、オーストラリア、ニュージーランドを含めることを検討しているという。またこの報道に続く6月11日には、ベトナム政府が国際線再開について、東京、ソウル、台湾、広州、ラオスを含めることを検討していることが報じられた。
アジア開発銀行の最新レポートによると、2020年は新型コロナの影響でベトナム経済の成長率は4.8%減になるものの、2021年には6.8%増と東南アジアで最も高い成長率になることが予想されている。世界的な脱中国の流れが強まり、ベトナムに工場やオフィスを構える外資企業が急増することも見込まれている。新型コロナ対策だけでなく、その後の観光再開、経済復興の動きでも世界中の注目を集めることになるだろう。
[文] 細谷元(Livit)