いまだ感染者ゼロのパラオ、観光再開には慎重姿勢

2020年6月10日時点、新型コロナの累計感染者数は世界全体で723万人を超えた。最多は米国で197万人、次いでブラジル73万人、ロシア48万人、英国29万人、インド27万人、スペイン24万人、イタリア23万人、ペルー19万人といった具合だ。欧州における感染者増加スピードは減速傾向にあるが、ブラジルやペルーなどの中南米諸国では、増加スピードは衰えていない。

そんな中、感染者ゼロを維持する国がいくつか存在し、今後観光再開などでどのような動きを見せるのかに注目が集まっている。

感染者ゼロの国の1つが南国パラオだ。

多くの国々で感染者増がとまらない中、なぜパラオでは感染者ゼロを維持できているのか。パラオ国連大使ゲディキス・オライ・ウルドン氏が、CNNフィリピンの取材で、感染者ゼロを実現できた理由について語っている。

パラオでは3月、フライトの発着、クルーズの寄港をすべて禁止し、国境封鎖を開始。また4月1週目に国民への検査を開始するなど「迅速な対応」が奏功した理由だと指摘している。

検査に関しては、台湾、オーストラリア、米国、インドなどが検査キットを寄贈。外部支援を受けつつ、幅広い検査を実施できたとのこと。感染が疑われた66件のケースにおいて、すべて陰性が確認された。

パラオ旧首都コロール

観光産業が経済の大部分を占めるパラオだが、感染リスクに対し慎重な姿勢を取っており、観光再開の明確な時期についてはまだ明らかにしていない。アジア開発銀行によると、パラオのGDPに占める観光産業の割合は40%。観光客数は2月に前年比40%減、3月に70%減となった。

ウルドン氏は、こうした状況下、同国経済への打撃を免れないものの、パラオ政府の優先課題は国民の安全確保であると強調。海外観光客を受け入れることには消極的な姿勢を見せている。

現在オーストラリアとニュージーランドで議論が進められている相互の観光客受け入れ枠組み「トランスタスマン・トラベル・バブル」。フィジーなどの太平洋諸国が参加する可能性が取り沙汰されているが、パラオの参加は不明だ。ウルドン氏は、トラベル・バブルについて、リスクが高いと指摘している。

パラオが観光を再開するとすれば、第一弾として台湾が対象国に選定される可能性がある。台湾との正式な外交関係を持つパラオ。今回のパンデミックで、台湾がパラオに対し迅速な支援を実施したこと、台湾での感染者増加も抑制されていることから、両国間での「トラベル・バブル」議論が持ち上がっている。

Taiwan News紙が5月14日に報じたところでは、台湾外務省・広報担当者がパラオとの「安全旅行圏」の創設を検討していることを明らかにした。また、パラオ天然資源・観光相ウミーチ・センゲバウ氏が、感染者抑制での台湾の対応を称賛した上で、両国間でトラベル・バブルを提携することは理にかなったことだと述べたと報じている。

観光産業で15万人働くフィジー、トラベル・バブル参入も

6月10日時点で、太平洋ではパラオを含め感染者ゼロを維持する国は10カ国ある。ツバル、バヌアツ、キリバス、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦、ナウル、サモア、ソロモン諸島、トンガだ。

このほか、フィジーやニューカレドニアも感染抑制に成功。フィジーの感染者は18人でとまり、すでに全員回復。ニューカレドニアも20人の感染者が出たが5月中に全員回復し、それ以来感染者はゼロとなっている。いずれも死者は出ていない。

パラオと同様にこれらの国々も観光に大きく依存する経済構造。フィジーは、オーストラリアとニュージーランドのトランスタスマン・トラベル・バブルへの参加を正式に要請。オーストラリアとニュージーランド間の観光客・相互受け入れが開始され次第、フィジーにも拡大される可能性がある。

フィジーの首都スバ

フィジーにとって、オーストラリアとニュージーランドは観光客の大半を占める重要市場。オーストラリア戦略政策研究所によると、フィジーのGDPに占める観光産業の割合は40%。オーストラリアとニュージーランドからの観光客は全体の65%を占める。

フィジー統計局のデータによると、2018〜2019年の観光客数は90万人、前年比で4.2%増加した。最大はオーストラリアの37万人で、全体に占める割合は42%。一方、ニュージーランドからの観光客の割合は23%だった。

人口約90万人のフィジー。同国観光産業ではその16%に相当する15万人が働いている。英ガーディアン紙によると、フィジー航空は95%のフライトを停止、ホテルも300カ所近くが一時閉鎖を余儀なくされている状況だ。フィジー・ホテル観光協会によると、4月時点ですでにホテル業界だけで2万5,000人が失職した。

フィジー・ヤサワ諸島(2019年9月)

バヌアツの「ワーク・フロム・パラダイス」、トラベル・バブルで観光客誘致合戦激化?

オーストラリアとニュージーランドのトラベル・バブルが開始され、太平洋諸国もそれに参加することが認められると、フィジーやバヌアツなどの間で観光客誘致合戦が激化する可能性がある。

オーストラリアABCニュースは6月1日に「トラベル・バブル、バヌアツは『ワーク・フロム・パラダイス』でアピール」と題した記事の中で、競争激化の可能性に言及。

フィジー政府は、新型コロナの検査体制などの相違を引き合いに、太平洋諸国を1つのグループとして見るべきではないと指摘。トラベル・バブル参入にあたり、太平洋諸国の中でフィジーの安全性が優れていることを暗に主張したという。

一方、バヌアツもトラベル・バブル参入と観光産業の復興のため、アピールに躍起になっている。バヌアツ観光局のイザチャ・アルCEOは、9月1日にもバヌアツは国境封鎖を解除し、主要市場であるオーストラリア、ニュージーランド、ニューカレドニアを対象に観光客の受け入れを再開する計画があることを明らかにした。2021年4月までに、観光産業をコロナ前の水準に回復させる狙いがあるという。

バヌアツのビーチ

慎重な姿勢を見せるパラオ、積極的に観光再開に乗り出すフィジーやバヌアツ、夏のバカンスシーズンが近づくにつれ、いつ観光が再開されるのか人々の関心も高まっていくことになるだろう。

[文] 細谷元(Livit