地図型マネジメントから「コンパス型マネジメント」へ——先行きの見えないこれからのビジネスで求められる方向感覚 

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ようやく収束の傾向が見え始めてきたコロナショックだが、いまだに大きな影響を受けている人は少なくないだろう。「コロナ騒動さえなければ…」という忸怩たる思いで、ビジネスの立て直しに必死になっている人も数多くいるはずだ。

そして、復活の兆しが見えてきたとは言え、これからこのままV字回復になるのか、未だ確実に言えることは何もない。今後の経済がどうなるか、そして自分の業界がどうなるか、そしてその中で自分が何をすべきか、ということは、誰一人わからないのだ。

「方程式」依存組織に訪れた危機

こんな状況下で、立ち往生しがちな組織がある。

それは、いままで数字を達成するための「方程式」が明確であり、かつ同じ「方程式」に長らく依存していた組織だ。

どの組織においても、必ず何らかの因果関係の「方程式」は存在する。「成し遂げたいこと」、そして「やるべきこと」。この因果の間に、何らかの見通しがなければ、人を動かすことはできない。だからこそ、組織のトップは、その因果関係を繋ぐような「方程式」を必死に考え抜き、試行錯誤を重ねながら編み出すのだ。そして、やがては「これくらいの数字を達成するためには」→「こんなことをこれくらい頑張ればできる」という確固たる方程式が共有できていく。これが経営計画の大前提となっていく。

当然のことながら、それそのものは悪いことではない。

しかし、怖いのは、「方程式」そのものが所与のもの、言ってみれば「空気のようなもの」になってしまっている組織だ。

いままで長らく環境の前提が変わらなかった組織においては、先人が作った「方程式」を使い回し、その上で成功体験を積んできた人が多い。その手の組織には、具体的な実行能力は高まるものの、抽象的なモデルを疑い、作り上げていくという経験に欠けがちだ。

機械的に昨年対比数%増の達成目標を掲げ、同じ方程式をベースに人的投入量を増やすか、効率性を高めるなどを通じてその目標の実現を狙う…。短期的に見れば最も効率的だったやり方だ。しかし、その前提たる「方程式」そのものを疑ってこなかったために、現在拠り所が見つからずに「何をすべきかさっぱりわからない」という状況に陥ってしまっているのだ。

「とりあえず」には賞味期限がある

では、この状況において、そんな組織は何をすべきなのか?

まずやってはならないのは、「とりあえず」という言葉を多用しながら、刹那的な対処を繰り返すことだ。

「とりあえずこの数字でいこう」
「とりあえずこの手段で頑張ろう」

この「とりあえず」という言葉も、短期的には意味を持つが、あっという間に賞味期限が訪れる。

もちろん、業績が急速に落ち込む中において、「とりあえず」できることを手当たり次第打つことの重要性は言うまでもない。

しかし、「とりあえず」の連続は、大きな副作用をもたらすことも認識しておくべきだろう。それは「モチベーションの低下」だ。「とりあえず」という言葉は、本来その裏側にあるべき「方程式」への問いかけをシャットアウトする。「意図は聞いてはならない」というサインなのだ。そして、意図の見えない行動ばかりに時間を取られ続けていれば、その先に訪れるのは、精神的疲弊と、モチベーションダウンなのである。

コロナ禍のいま必要なのは「抽象的な方向性」

一方でやるべきことは何か?

それは、具体的なことから一旦離れて、抽象的な方向感覚を持つことだ。どんな数字をどうやって達成するのか、という具体的な「方程式」にこだわり続けていても、その前提が変わってしまえば元の木阿弥だ。そしてその前提が変わってしまう可能性は、コロナの見通しの立たない現在それなりに高い。そんなときに具体的な「方程式」にこだわり続けるのはリスクでしかないのだ。

むしろ、この不安定な環境に置かれた私たちに必要なのは、「何かが起きたとしても必ずこっちの方面に行こう」という抽象的な方向性だ。

言うならば、いま私たちに必要なのは「地図よりもコンパス」なのだ。

いままで、数字とアクションプランを中心にしていた「地図型マネジメント」の組織であったならば、いまこそ「コンパス型マネジメント」に移行するチャンスだろう。

つまり、抽象的なビジョンや目的を示し、目標やアクションは状況が変わる都度、自分たちで走りながら考えるスタイルだ。方程式は後追いで作れば良い。

昨今、企業経営において「パーパス」(=企業の存在意義)の重要性が語られるようになったが、その「パーパス」に関する議論と理解は、まさにいま混乱に陥っている組織ほど効果を発揮するだろう。

コンパスは、具体的な道行きが示されない。余白だらけだ。だからこそ、その都度、自分で考える必要が出てくる。地図だけを頼りにしていた人からすれば、慣れるのには時間がかかるだろう。暫くは再び混乱に陥るかもしれない。

しかし、もしこの危機をチャンスとして捉えるならば、組織文化を変える大きなタイミングとも言えるだろう。

コンパスが指すべき方向を考える

もちろん、このことは、個人レベルに落としても同じことが言える。いままで与えられたアクションプランばかりをこなしていたのだとしたら、それは具体性偏重という意味において「地図型思考」と言えるだろう。繰り返すが、「地図型思考」は、その先の道路が通行止めになった瞬間に混乱に陥る。

そんな人に求められることは、抽象的な方向性を定めることだ。つまり、「自分は誰のどんな課題に向き合って仕事をすべきなのか?」という軸足の向かう方向を考えてみるのだ。そうすれば、万が一、自分の行く末が通行止めになったとしても、別のルートを考えることができるだろう。

たとえ忙しくても、1カ月に1時間程度の時間は捻出できるはずだ。その程度の時間を使って、自分の進むべき大まかな方向性を考えても損はしないだろう。

いま正確な地図を手にしていれば、コンパスの必要性はあまり感じないかもしれない。間違いなく正確な地図は頼りになる。しかし、同じ地図にばかり依存していると、その地図が使えなくなったときのインパクトは計り知れなくなる。

普段からコンパスも携えていれば、いざというとき、私たちの行くべき方向を指し示す存在として、その本領を発揮するのだ。

文:荒木 博行

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