観光再開と安全確保、新型コロナの流入防ぐ「ヘルス・パスポート」。スペイン・カナリア諸島、欧州全域での導入可能性

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リトアニアの観光再開、国境封鎖解除広がる欧州

新型コロナ感染増のピークが過ぎたと思われる欧州では、観光再開に向け国境封鎖解除に踏み切る国が出てきている。

ロンリープラネットが6月1日に報じたところでは、バルト三国の1つリトアニアが国境封鎖を解除し、欧州24カ国からの旅行者受け入れを開始した。旅行者は、14日間の隔離なしでリトアニアに入国することが可能だ。

これら24カ国は、過去14日間、新型コロナ感染者数が人口10万人あたり15人未満だった国。オーストリア、ブルガリア、エストニア、オランダ、クロアチア、アイスランド、ギリシャ、キプロス、リヒテンシュタイン、ルクセンブルク、ラトビア、ノルウェー、フランス、ドイツ、フィンランド、デンマークなどが含まれる。

リトアニアの古城

リトアニアのほかには、アイスランドが6月15日から14日間の隔離なしで海外旅行者受け入れを開始する計画だ。7月には、欧州各国において同様の動きがさらに加速することが見込まれている。

感染者24万人、死者2万7,000人以上と深刻な状態に陥ったスペインでも観光再開に向けた動きが加速中だ。感染者の増加スピードは5月に大きく減速した。7月から14日間の隔離なしで海外旅行者の受け入れを開始する計画という。

スペイン地元紙EL PAISの5月25日の記事によると、同国政府は当初、夏のホリデーシーズンまでの観光再開は難しいと見ていたが、感染者増の抑制が奏功していることを踏まえ、6月から国内観光推奨、7月から海外観光客の受け入れを開始する方針に転換した。

スペインは年間8,000万人以上の旅行者が訪れる観光大国。GDPに占める観光産業の割合は12%。工業、金融と並び、同国経済の主軸の1つとなっている。

スペインを訪れる旅行者を国別で見ると、最大は英国。2018年には1,850万人以上が同国を訪れた。このほか、ドイツ(1,100万人)、フランス(1,100万人)、イタリア(438万人)、オランダ(384万人)、米国(294万人)、ベルギー(250万人)からの旅行者が多い。日本からは同年55万人がスペインを訪れている。

スペイン政府は、シェンゲン圏の国々と「移動の自由」、安全性の確保、感染防止のルールに関して、コンセンサスを得たい考えという。

スペイン・カナリア諸島、欧州初の「ヘルス・パスポート」導入?

国レベルの計画・議論ととも進んでいるのが、地域ごとの観光再開の動きだ。

スペインの人気リゾート地カナリア諸島では、国連世界観光機関(UNWTO)と連携した「ヘルス・パスポート」の取り組みが実施されるかもしれない。

ロンリープラネットなどが報じた、カナリア諸島・観光当局責任者ヤイザ・カステロ氏の声明によると、同諸島では現在観光客の受け入れ準備の一環で、新型コロナの流入を防ぐため「ヘルス・パスポート」の導入準備を進めているという。

カナリア諸島最大の島テネリフェ島

「ヘルス・パスポート」とは、カナリア諸島の企業Hi+ Cardとスペインのデータ企業Tourism Data Driven Solutions(TDDS)が開発したモバイルアプリ。同アプリには、各国政府機関や医療機関が認証した健康データが記録され、そのデータが入国時に感染していないことを示す証明書の代わりになる。

カナリア諸島は7つの島からなる群島。まず一部の地域でヘルス・パスポートを導入し、徐々に運営範囲を広げていく計画だ。また、カナリア諸島で運営がうまくいけば、群島外にも拡大する可能性があるとのこと。ギリシャのクレタ島やサントリーニ島、イタリアのカプリ島などでもヘルス・パスポートの導入が検討されている。

欧州全域でも「ヘルス・パスポート」導入の可能性

欧州では、国・地域レベルのほか、欧州全域レベルの議論もなされているようだ。

4月末に開催された欧州連合・観光大臣会議では、シェンゲン圏内の移動再開に際し、感染を防ぐため、ヘルス・パスポートのような域内共通文書をつくることが議論されたという。暫定名は「Covid-19 Passport」。

ShengenVisaInfoによると、各国観光大臣らはそのような共通文書の作成に関して合意したとのこと。同会議では、欧州域内の中でも特に、イタリア、ギリシャ、クロアチア、ポルトガルなど、観光産業への依存が高い国々の観光再開について議論がなされた。

このような議論と平行して、欧州のテクノロジー界隈では、ブロックチェーンを活用したヘルス・パスポート開発の動きが活発化している。

5月には、スイスのセキュリティ企業SICPA、フランスのデータプラットフォームOpenHealth、エストニアのブロックチェーン企業Guardtimeが、ブロックチェーンベースのヘルス・パスポートの開発に向け、コンソーシアムを発足。リアルタイムで人々の健康モニタリングを行うシステムの開発を目指す。

ヘルス・パスポートの導入で懸念されるのがデータの改ざん。ブロックチェーンを活用することで、改ざんリスクを軽減できると期待されている。Guardtimeのテクノロジーは、新型コロナの検査データにブロックチェーンのタイムスタンプを付与。これにより改ざんが不可能になるという。このデータはOpenHealthのプラットフォーム上にアップロードされ、各国政府や医療当局によって管理されるとのこと。

ヘルス・パスポートについては、ほかにも多数のスタートアップが参入しているとの報道もある。観光再開本格化に向け、議論や開発が一層活発化することが予想される。

[文] 細谷元(Livit

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