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新型コロナウイルスによるパンデミックにおいて、医療崩壊を防ぎ、感染者数の増加を抑制できた優秀国と言われる北欧の国々。ロックダウンを行わない独自政策を貫き人口100万人当たりの死者数が世界最多レベルになっているスウェーデンを除き、デンマークやノルウェーなどは、早い段階で措置を実行したおかげで、6月初旬の現在は学校や国内の経済活動が再開されている。
今回は、このコロナ禍に留学生としてデンマークに滞在している筆者が、デンマークのコロナウイルス対策と経済復興の両立について、自身の経験や現地のリアルな光景を交えてお届けしたい。
【3月初旬】一斉に始まったデンマークの感染対策
デンマークで初めてコロナウイルスの感染者が出たのが、2月下旬。恐れていたことが現実になってしまったショックで、現地人も現地に住む留学生たちも動揺が隠せなかった。
そんな中、まだコロナウイルスによる死者が出ていない3月初旬の段階で、ロックダウン、休校、国境閉鎖の措置が矢継ぎ早に決まった。日本のゆるやかな対策の様子を見ていただけに、「こんなにも(決断が)早いのか」と、デンマーク政府の力強い指揮に驚くばかりだった。
とはいえ、何の予告もなく措置が実行されたため、「予約したフライトが前日の夜に欠航する」なんてことも当たり前に起こり、現場の混乱は生じた。だが、休業補償対策も同時に発表されていたこともあり、大きな反発もなく国民たちは政府にきちんと従っているように見えた。
街中から人々の姿が消え、多くの企業で休暇の取得、あるいはリモートワークに切り替わったそうだ。人々がもっともピリピリしていたのは、3月中旬から4月初旬だったと記憶している。
【4月中旬】ロックダウン解除第一弾
早々に実施したロックダウンや国境封鎖等の措置が功を奏し、デンマークのコロナウイルスによる入院患者数は4月頭をピークに着実に減少。そこで、メッテ・フレデリクセン首相が指示したのが、ロックダウンのゆるやかな解除だった。
第一弾として、4月15日から保育園、幼稚園、小学校5年生まで、及び大学受験を控えた高校の最終学年の生徒などは、学校教育の再開が許可された。学校ではデスクの間隔を十分に開けるほか、手洗いうがいの徹底、野外でのアクティビティを増やすなど、さまざまな対策を取りながら運営されているようだ。
さらに、4月20日から美容院やエステサロン、歯科クリニックや私立の病院、クリニックなども営業再開した。
この段階では「まだまだ予断を許さない」という緊張感のある状態であり、一部の国民からの批判はあったようだが、現地で美容院を営む日本人の方に伺ってみたところ「今後どうなるのかと不安があったので、再開許可がおりてありがたい」と話していた。
【5月中旬】ロックダウン解除第二弾
その後も入院患者数は日に日に減少し、復興に近づいている空気感を少しずつ感じられるようになった5月中旬、ロックダウン解除の第二弾が実施された。
まず、5月10日からソーシャルディスタンスの距離を2mから1mに縮小。現地で暮らしている外国人の視点だと「緩和された」という感覚は薄く、相変わらず「人との距離を十分に取らなければ」という意識が強くあった。ただ、なんとなく現地の人々の気持ちがゆるみはじめたような雰囲気は見受けられた。
5月11日から小売業の全面再開、5月18日からカフェやレストランの営業が条件付きで許可されたほか、国教教会、宗教コミュニティも再開、さらに、6~10年生の学校教育の許可もおりた。
この頃から、職場へ出勤する人が増えたようだが、各企業は従業員の人数を制限し、許可された範囲内で勤務しているとのこと。
やはり飲食店やショッピングモールの再開は国民に大きな影響を与えたようで、街に出る人の数がかなり増えた気がする。
【5月下旬】文化・芸術活動、フォルケホイスコーレが再開
さらに5月21日、政府の突然の発表により、筆者が通うフォルケホイスコーレ(寄宿制の社会教育施設)の再開が許可された。現地には、この教育機関に通う日本人生徒が一定数いる。
それ以前は、6月8日までは確実に休校、6月中の再開は「絶望的」と見られており、学校からも「6月中に再開する可能性はほぼないでしょう」とアナウンスされていた。キッチンスタッフにいたっては3週間の休暇を言い渡され、長期休暇に突入していた……にも関わらず、何の前触れもなく、デンマーク政府から「条件付きで学校再開」が許可されたのだ。
再開をあきらめ、すでに帰国の段取りを進めていた生徒もおり、当事者たちは混乱を隠せなかったが、学校は発表からわずか4日で再開の準備を整え、「各国からの生徒をもう一度受け入れる」という新しいアナウンスを出した。結果的に全体の7割ほどの生徒が学校に戻り、残り3週間の授業を受けられることになった。
各国から学校に戻ってきた生徒たちは、PCR検査を受けることを命じられた他、いくつかのグループに分けられ一定期間の隔離などの措置が取られている。
さらに、同日から博物館、劇場、美術館、映画館、水族館といった施設も再開している。
【6月初旬】ロックダウン解除第三弾
そして、街の人手は何事もなかった頃に近づきつつある6月8日、第三弾の実施が行われた。集会禁止措置(の上限)の30~50人へ、高校の再開の他、屋内スポーツおよび協会活動も許可されることになる。
街の人手は日に日に増え、夏らしい穏やかな気候も相まって、現地は非常に開放的な雰囲気だ。天気が良ければ半袖で過ごせる日もあり、晴れた休日の海は人がごった返し、若者は水着を着てビーチに横たわっている。
こちらでは感染のピークだった3月下旬からずっと、ほとんどの人がマスクをしていないし、デンマーク人たちの様子を見ると「本当に大丈夫なのだろうか」と不安がよぎるが、デンマーク保健当局はデンマークがコロナウイルスの第2波に見舞われる可能性は「非常に低い」と語ったほか、5月15日には、3月13日以来初めて、感染症による死者がゼロになったと発表している。
【8月初旬】ロックダウン解除第四弾
8月初旬に実施される第四弾に関しては、まだ予定であり、変更される可能性はあるが、現時点(6月初旬)では以下のように発表されている。
・その他の教育全て
・ディスコ、賭博場、ナイトライフ
・その他の屋内スポーツやレジャー施設(ジム、ウォーターパーク、遊園地、スイミングプール)
・500人を超える人が参加する行事、イベント、アクティビティなどの禁止は、少なくとも8月31日まで維持。
【国境閉鎖】デンマークへの旅行はいつできる?
国内の経済活動は、順調に復活しているデンマークだが、国境封鎖に関しては厳格な体勢を貫いている。
現状、5月25日から北欧5か国(デンマーク、フィンランド、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン)のいずれかに永住する人、ドイツ人でデンマークに家族や恋人がいるなど、一部の規定をクリアした人のみ、再入国を許可している。
また、6月15日からドイツ、ノルウェー、アイスランドからの観光客のみ、以下の基準をクリアしたうえで受け入れると発表している。
●観光客は、コペンハーゲン及びフレデリクスベア市以外での少なくとも6泊以上の宿泊予約証明書(貸し別荘、キャンプ場、ホテル等)を提示する必要が ある。
●観光客は日中、コペンハーゲンを観光し、コペンハーゲンのレストランで食事することなどはできるが、宿泊はコペンハーゲンとフレデリクスベア市以外で予約しなくてはならない。
隣国スウェーデンに関しては互いに緊密な関係にあり、多くの国民がお互いに職業、家族、恋人、別荘を有しているものの、現在のスウェーデンの良くない状況から、両国の国境閉鎖の解除の目処は見えていないようだ。
また、「その他の国への不要な渡航は8月31日まで自粛を要請する」とされているため、VISAや特別な理由のない日本人がデンマークに渡れるのは、早くても9月以降だと見られている。
【エンタメ】ドライブスルーコンサートの試みも
ゆるやかに復興しているとはいえ、もちろん通常の生活が戻ったワケではない。特に、エンターテインメント業界では、これまでと同様にライブやフェスなどの催しを行うことは不可能だ。
そこで、デンマーク企業が実施した「ドライブスルーコンサート」がユニークな試みとして話題を呼んだ。これは、ステージの前に車を停車し、車の中でコンサートを楽しむというもの。音楽はラジオで放送され、観客はラジオを通して演奏を聞くことができるという。
登場したのは、デンマークのシンガーソングライター「Mads Langer」。催しを企画したオーガナイザーは、「コロナウイルスがあるからといって文化が死んだわけではない。今の時代に求められている良いエネルギーを広げる循環を作っていきたい」と語った。
コンサートでは窓越しに涙を流す親子の姿も見られ、「音楽によって人々とつながったことで、何かの一部になったような感覚があった」と話していたという。
首相が若者へ送った感動的な「ありがとう」
最後に、さまざまな楽しみを犠牲にして厳しい自粛生活に耐えてきた若者へ向けて、メッテ・フレデリクセン首相が発信した感動的なビデオメッセージを紹介したい。
「夜通し踊り明かすこと、コンサートに行くこと、ひょっとしたら初めての恋、人生で初めての経験になるかもしれない多くのことが、あなたたちにとってどんなに大切で特別であるか、私にもわかります。
今、私たちは歴史的転換期を経験していて、それはまだ続いています。あなたたちが、自分のためにガマンしているのではなく、誰かのためにガマンしていることを私は知っています。私たちは今、お互いを守ることで、歴史を創っているのです。私たちはあなたたち若者を誇りに思っています」
YouTubeでは日本語訳が付いた動画が公開されているので、ぜひ全文を視聴してみてほしい。
現地に一時的に住んでいる日本人からすると、せっかくベストシーズンのヨーロッパに滞在しているのに、自由に近隣国の旅行を楽しむこともできず、もどかしい想いは募る一方だ。ただ、22時頃まで続く明るい空と心地よい風や緑、フレンドリーなデンマーク人たちに救われている気がしている。引き続き、デンマーク現地のコロナウイルス対策と経済復興の様子を見守りたい。
取材・文:小林 香織