世界各地に広がる「トラベル・バブル」とは?
世界各地でロックダウンが解除・緩和されつつある今、観光再開に向けた動きが活発化している。ほとんどの国では、まず国内観光の本格的な再開が目下の目標となっている。その後、国境封鎖を段階的に解除し、海外旅行者の受け入れを開始する計画だ。
こうした観光再開の動きにおいて、最近英語メディアの見出しには「travel bubble(トラベル・バブル)」という言葉が頻繁に登場するようになっている。
トラベル・バブルとは、複数国間で、隔離なしで人々の往来を許可し、経済再開活動を加速させようという相互イニシアチブのこと。感染者が比較的少なかった国々の間でトラベル・バブル締結/実施の動きが活発化している。
たとえば、エストニア、リトアニア、ラトビアのバルト三国は、すでに国境封鎖を解除、3国間での人々の往来を許可。欧州初のトラベル・バブルとしてその動向に関心が集まっている。また、エストニアはフィンランドともトラベル・バブルの実施を検討しているとも報じられている。
オーストラリアとニュージーランドの「トランスタスマン・トラベル・バブル」
このトラベル・バブルという言葉が普及するきっかけになったのは、おそらく英ガーディアン紙が5月初旬に伝えたオーストラリアとニュージーランドによるトラベル・バブル締結の報道だろう。
5月5日ガーディアン紙は、オーストラリアのモリソン首相とニュージーランドのアーダーン首相が2国間における観光再開を目指す「トランスタスマン・トラベル・バブル」を公式に締結したと報じたのだ。
両首相は、2国間の観光が数日後や来週に再開される訳ではないと強調しつつ、ロックダウン解除の状態などを考慮し、安全性が確認できた段階で、相互に国境封鎖を解除すると説明。また、2国だけでなく、太平洋諸国などにもトラベル・バブルを拡大する余地があることに言及した。
オーストラリアとニュージランドはともに、新型コロナウイルスの感染拡大阻止で成功したと評される国。
人口約2,500万人のオーストラリア。ジョン・ホプキンス大学のまとめによると、6月3日時点の感染者数は7,229人。4月半ばから感染者は微増となっている。
一方、人口約490万人のニュージーランドにおける感染者数は1,504人。5月21日から感染者は増えていない。6月2週目には国内移動制限が解除される見込みだ。
トランスタスマン・トラベル・バブルの開始時期については、様々な憶測が飛び交っている。NZherald紙の5月28日の報道によると、両国のリーダーシップ下で構成された組織「Transtasman safe border group」が観光再開の条件や開始時期について議論しており、プロトコルが整い次第、開始できる公算が大きいとのこと。同紙は、7月には2国間での隔離なしの往来が再開する可能性があると伝えている。
2019年、ニュージーランドを訪れたオーストラリアからの観光客は150万人。ニュージーランドを訪れた観光客全体の40%を占める。また、オーストラリアを訪れたニュージーランドからの観光客は140万人。相互の観光支出額は30億ドルに上る。
南国フィジーやツバルもトランスタスマン・バブルに参加の可能性
トランスタスマン・トラベル・バブルは、オーストラリアとニュージーランド以外にも拡大される可能性がある。
有力視されているのが、フィジーやツバルなどの太平洋諸国だ。
フィジーにおける現時点までの感染者数は18人。4月末からは感染者増は記録されておらず、安定した状況といわれている。観光収入に頼るフィジーは一刻も早く観光を再開したいところ。トランスタスマン・トラベル・バブルの報道後すぐに、フィジー政府から両国に打診があったものと思われる。
ニュージーランドメディアRNZが5月20日に報じたところでは、在フィジー・オーストラリア高等弁務官ジョン・フィークス氏が、フィジー側の打診に対し、現在オーストラリアとニュージーランドでの調整が行われている段階、2国間でのトランスタスマン・トラベル・バブルが開始され次第、フィジーの参入について検討すると説明している。
3月に国境封鎖に踏み切ったフィジー。このほど、閉鎖期間を6月末まで延長することを明らかにしたばかり。観光を主軸とする同国、経済状況は悪化している。オーストラリアとニュージーランドは、フィジーへの資金援助を行う計画という。
オーストラリア戦略政策研究所によると、フィジーのGDPに占める観光産業の割合は40%。オーストラリアとニュージーランドからの観光客は全体の65%を占める。
フィジーのほかには、未だ感染者数ゼロのバヌアツやクック島、またニューカレドニアなども参加する可能性が報じられている。さらには、台湾やイスラエルも関心を示しているとのこと。
ギリシャ、シンガポール、台湾もオーストラリア・ニュージーランドと相互受け入れ?
オーストラリアとニュージーランドは、2国間でのトラベル・バブルの実施を進める一方で、それぞれに他国と交渉し、同枠組み外での海外旅行者の相互受け入れにも動いている。
ギリシャが6月15日から開始するトラベル・バブル。同国が安全だと認定した国との海外旅行者の相互受け入れを行うもの。5月末時点で日本を含め29カ国が選定されているが、その中にオーストラリアが含まれている。
シンガポールが独自に進める相互受け入れの枠組みにもオーストラリアの名が挙がっている。シンガポールでは、中国との交渉を皮切りに、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシアなどと海外旅行者の相互受け入れの議論が進められている。
また、台湾メディアが報じたところでは、台湾の海外旅行者受け入れの第一弾の国として、ニュージーランドとパラオが選定される公算が大きいという。ニュージーランドは早い段階で感染者数の増加を食い止め、パラオは感染者ゼロを維持している国だ。
夏の旅行シーズンは間近。トラベル・バブルが安全を維持しつつ、観光産業や経済の復興にどれほどの効果をもたらすのか、その真価に注目したい。
[文] 細谷元(Livit)