日本では緊急事態宣言が全国規模で解除され、ニューノーマル、アフターコロナがどんなものかを想定し、リードしていく企業が増えている。パンデミックをきっかけに世界でも多くのことが変化したが、ソーシャルメディアも例外ではない。
2020年5月、フェイスブックやインスタグラムがShopsやGuideなどの新機能を発表した。コロナの影響が強いEコマースやメンタルヘルス事情を背景に、各社のアフターコロナへの戦略も窺える。
今回は、パンデミックの影響でソーシャルメディアがどう変化しているのか、フェイスブックやインスタグラムを事例とした、その最新動向を追う。
フェイスブックのコロナと小規模事業への対応
全世界に事業展開する米フェイスブックは、コロナ危機に対応して一連の新機能やイニシアチブを立ち上げてきた。
たとえば、Roomsというグループチャットルームを追加して、孤立したユーザーが互いにビデオチャットできるようにしたり、新しいコロナウイルス情報センターを通じてパンデミックに関する信頼できる情報が出せるように推進している。
また、以前の記事でも紹介されているように、イギリスの国営医療サービス事業(NHS)と協力して、介護施設やケアホームにフェイスブック社販売機器「Portal」を配布する計画も進行している。
フェイスブックは3月には、世界30か国のコロナで影響を受けた、従業員50名以下の小規模事業主3万社を支援するために、1億ドルの助成金を提供するプログラムも開始している。
同社は小規模事業主に対するアンケートも行っており、Bloombergの記事では同社と米小規模ビジネス非営利組織Small Business Roundtableが86,000社の小規模事業主を対象にした調査の結果を5月18日に発表している。そこではアメリカの小規模事業主の31%が、コロナウイルスのために活動を停止したと回答している。
「閉鎖されたビジネスのほとんどは、再開するための資金の集め方の先行きが立っておらず、削減した従業員の再雇用目途も立っていない。平常時は、アメリカの雇用成長の3分の2を中小企業が占めているのにも関わらず」と同社COOのSheryl Sandberg氏はインタビューで語っている。
小規模事業支援を推進するフェイスブック・インスタグラムの新機能「Shops」
こうした状況を背景とし、フェイスブックとその傘下のインスタグラムは、Eコマース機能であるShopsを始めている。この新機能により、フェイスブックは既存の広告中心ビジネスの歴史からこれまで以上に進化し、アマゾン、イーベイ、Etsyなどの確立されたオンラインショッピング・プラットフォームとの競争に立ち向かうこととなる。
Shopsはもともと同社のEコマース戦略のために開発されていた機能だが、コロナの影響を受ける小規模事業主支援のため、リリースを早めたという。
Shopsの機能は、まず利用企業がSNS上にデジタルストアを作成する。そこでは、製品のカタログが表示でき、製品を購入する場所にリンクするか、ユーザーがフェイスブック上で直接購入できるようになる。
インスタグラムでは、ユーザーが購入する商品を見つけることができる専用のショップ先も作成する。今年後半にはホーム画面にあるユーザーのナビゲーションバー上に常にボタンが表示される予定であり、同社がいかにこの新機能に注力しているかが表れている。
さらにブランド企業やクリエイターは、ライブストリーミングツールを使用して動画内の製品にタグを付けさせることで、フェイスブックやインスタグラムで通販スタイルのショッピングチャネルができる予定だ。インフルエンサーがスポンサー商品をライブストリーミングしている際には、視聴者にスポンサーに繋ぐ役割も果たす。
Shopsは今回フェイスブックとインスタグラムで実現するが、同社傘下のメッセージングアプリMessengerとWhatsAppにも追加する予定だ。さらに同社は、ユーザーが企業のフェイスブックプロフィールにロイヤルティプログラムをリンクする方法を模索しているようである。
メンタルヘルスのアドバイスを発信するインスタグラムのGuide
インスタグラムはパンデミックによるメンタルヘルス問題などに対応する「Guide」という新機能も追加した。Guideはガイドと読み、日本語の「ガイド」と同じように「案内する、誘導する」という意味だ。
Guideはもともとはインスタグラム内のお気に入りのクリエイター、著名人、組織、出版社などからのおすすめ、ヒント、その他の関連コンテンツを、より探しやすくするために開発された機能だ。インスタグラムはそのGuideを、パンデミック文脈で活用できる新機能として5月18日にリリースした。
活用事例第1段として各国の「自殺防止協会」などのコンテンツを積極利用している。パンデミック下ではアメリカの若者のメンタルヘルス問題に悪化しているといわれている。そうした若者たちにとって役立つ情報を、米国自殺防止協会のGuidesから探しやすくしている。アメリカだけでなく、ブラジル、ドイツの自殺防止協会も参加している。
アメリカのメンタルヘルスグループHeads TogetherはGuidesで、ビューアーがお互いに親切になり、セルフケアを実践し、自分の気持ちについて話すことを気づかせるようなインスタグラムの投稿を収集・投稿しているという。その他、インドネシアの非営利いじめ対策団体sudahdongや、フランスのインターネット上の未成年者保護協会などの組織が情報を提供している。
Guideは自分のプロファイルのページに新しいタブとして追加されており、組織やクリエイターが収集しまとめた投稿や動画に、役立つヒントやアドバイスが加えられて表示される。
そこで見た特定の投稿について詳しく知りたい場合は、画像またはビデオをタップすると、元のインスタグラム投稿が表示される。もちろん右上の共有ボタンをタップすると、ストーリーやダイレクトメッセージとしてGuideを他のユーザーに共有できる。近いうちに検索タブにも表示させる機能を、同社は計画している。
今のところGuideは、厳選されたメンタルヘルスや健康志向のクリエイターと組織に限定されているようだが、インスタグラムが今後、さらに多くのトピック、そしてそれに通ずるビジネスに、ツールを展開することは容易に想像できる。
小規模ビジネスや個人に、販売や希望を与えるきっかけとなるソーシャルメディア。Eコマースはコロナの時期でも需要が伸びている分野ということに加え、広告収入に依存しているフェイスブックのビジネスモデルを多様化させるのに大いに役立つだろう。個々の繋がりを活かし、社会にインパクトや経済活性化のきっかけを与えながら、自社もその波に大きく乗っていく様子が窺える。
文:米山怜子
編集:岡徳之(Livit)