進化するUber —— コロナ禍で実現性が高まるドローン配送や自動運転車など、新たなビジネスモデルとは

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COVID-19の感染拡大による自粛生活で様々なサービスがスポットを浴びるなか、フードデリバリーサービスの「Uber Eats(ウーバーイーツ)」は全国規模で利用を拡大させ、知名度をアップさせることにも成功している。

Uber Eats は個人ドライバーとユーザーをマッチングするライドシェアサービス「Uber」で知られる、米国カリフォルニア州サンフランシスコのスタートアップ Uber Technologies Inc.(以下、Uber)が運営するサービスだ。

2014年8月にロサンゼルスのサンタモニカで「UberFRESH」という名称でスタートした後に名称を「Uber Eats」に変更し、2015年12月にカナダのトロントからビジネスを拡大し、世界36カ国500都市以上へと市場を拡げている。

スマホアプリを使って飲食店と配達パートナーをマッチングし、フードデリバリーを行うという仕組みは、行き先を検索して個人ドライバーに送迎を依頼できるライドシェアサービス「Uber」と基本は同じ。ユーザーは幅広い飲食店から所要時間と費用を確認した上でオーダーができ、支払いまでアプリ上で完了できる。

日本では Uber の日本法人である Uber Japan が、2016年9月29日から渋谷や六本木など東京の一部エリアからサービスを開始した。今年4月の時点で全国14都府県へとサービスエリアを拡げ、2019年11月から Uber Portier Japan 合同会社がアプリおよびプラットフォームを提供している。

ギグワーカーという新しいワークスタイルを確立

出前館やLINEデリマ、楽天デリバリーといった既存のフードデリバリーサービスとUber Eats の大きな違いは、配達員を雇わずサービスのプラットフォームだけを提供しているところにある。

飲食店は必要なときだけ配達パートナーを雇って出前を依頼し、配達パートナーは空き時間を使って働きたいときだけ働いて収入が得られる。配達ドライバーが使うUber Eats のロゴ入りバッグは街中でも目立ち、単発仕事を請け負うギグワーカー(Gig Worker)という新しいワークスタイルを確立させている。

飲食店と配達パートナーを最適にマッチングする独自のシステムは、デリバリー料金を時間帯やエリアによって細かく変動させており、配達パートナーが利用するアプリでは、基本料金に上乗せするインセンティブが得られるエリアをヒートマップを使ってリアルタイムでわかるようにしている。

アプリの使いやすさや仕様変更もニーズにあわせてきめ細かく行われており、COVID-19対応では配達で「置き配」が指示できたり、家族や友人の代わりに食事をオーダーした場合に状況を追跡できる機能などと搭載している。

日本では非常事態宣言を出した自治体がデリバリーサービスの利用クーポンを発行したり、神戸市との事業連携協定の締結といった後押しもあり、全国各地で急速にサービスエリアが拡大している。Uber Eats 側もCMプロモーションに力を入れたり、飲食店のサービス開始手数料を無料にしたり、寄付ができる援機能を提供しており、具体的な数字は非公表だが配達パートナーの数も増えている。

2020年1月に開催されたCES 2020のヒュンダイ・モーターのブース(撮影:野々下裕子)

DXで宅配ドローンやエアタクシーを開発中

Uber Eats を運営する Uber はIT企業であり、既存の業界にDX(デジタルトランスフォーメーション)をもたらす企業だと言える。シェアライドやフードデリバリー以外にも、運送会社と貨物をマッチングする「Uber Freight」、法人として利用した Uber のサービスを一括管理できる「Uber for Business」、米国限定で患者を医療機関に送り届けるB2Bサービス「Uber Health」を運営している。

研究開発部門にあたる「Uber Advanced Technologies Group」では、自動運転車を開発しており、将来的にドライバーレスカーによるライドシェアサービスを実現しようとしている。2019年4月にはトヨタ、デンソー、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの3社殻計10億ドルを出資しており、米国内ですでに試験運転を行っている。

さらに「Uber Elevate」部門では空のシェアライドという新しい市場開拓に着手している。N.Y.のJFK空港とマンハッタンのダウンタウンを7分間で移動する「Uber Copter」をはじめ、エアモビリティを開発する航空パートナーと提携してエアタクシー提供する「Uber Air」も立ち上げており、今年1月にラスベガスで開催された国際エレクトロニクス展示会の CES(シーイーエス)では、韓国の現代自動車(ヒュンダイ・モーター)との提携で開発したeVTOL機「S-A1」とのコンセプトモデルを披露して大きな話題となった。

Uber Eats に利用するドローンも開発しており、2019年7月に香港で開催された「Future of Food Summit(食の未来会議)」で、自動車とドローンを組み合わせた最初のコンセプトモデルを披露した。同年12月には米国デトロイトで開催された「Forbes Under 30 Summit」では新たにデザインされたドローンを発表し、2020年に米国サンディエゴで試験運用を始める予定だ。

発表直後の反応は“突拍子もないアイデア”というものだったが、COVID-19で世界情勢が大きく変わった今では、”先見性のあるアイデア”として注目が高まっている。

規制緩和を成長につなげられるか

Uber は COVID-19により主要ビジネスであるライドシェアが大打撃を受けていることから、成長拡大が見込める Uber Eats の展開にさらに力を入れると見られている。グローバルでは生鮮食品を含むグローサリー配達や法人向けサービスを強化したり、地域サービスとの連携や撤退も含めた市場の見直しに力を入れている。

そこで課題になるのが、”新しいビジネスモデル”の運営方法だ。たとえば Uber Eats のサービスは、宅配パートナーの登録が簡単で誰でも収益が得られる一方で、慣れない配達で事故やトラブルを起こしたり、その場合の補償が Uber Eats で行われないことが、世界でたびたび問題視されている。

「アプリを提供しているだけで配達に対する問題は一切責任が無い」という Uber 側の対応は現在も一貫しており、それに対して米国とフランスに次いで日本でも Uber Eats の宅配パートナーが加盟する労働組合「ウーバーイーツユニオン」が設立され、対応を求めている。

その影響もあってか、日本では一部労災保険の対応を見直したり、COVID-19の感染または自主隔離を求められた場合に最大14日間の経済的なサポート、フリーランスワーカーの支援団体「プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」の賛助会員に加盟するなどの動きがあり、今後の動きが注視されている。

また、競合が激化する増えるフードデリバリー市場で、ドローンや自動運転車の導入という革新的な取り組みができるかは、COVID-19以降の世界情勢によるだろう。たとえば日本で Uber のライドシェアはタクシー会社と連携しているが、規制緩和により Uber Eats のデリバリーを名古屋や広島で始めるといった対応が行われている。対応は9月末までの限定的なものだが、状況によっては継続されるかもしれない。

こうした動きは世界各地でも行われているが、いずれにしても今後の Uber Eats の動きについては、Uber 全体のグローバルな対応も含めて変化を見ていく必要がありそうだ。

文:野々下裕子

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