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新型コロナウィルス(以下:コロナ)感染拡大防止のための外出自粛・禁止により、私たちの生活は一変した。
映画館、劇場、遊戯施設などの娯楽施設は長らく営業を休止し、在宅時間が多くなったことで、楽しめる娯楽が少なくなった。そのような中、家で楽しめる新たな趣味・娯楽を見つけた人も多いだろう。
私の友人には、「テレワーク移行後は、毎日昼食を手作りして食べるようになった」という人がいた。私自身も、家で料理をする機会が増え、これを機に、今まで行ったことのない地元の飲食店で食事をしたり、そこのお弁当を購入したりしている。
娯楽が限られたとき、「食べること」は最大の娯楽になりえる。そんな娯楽を提供してくれる飲食業界の実態はどうなっているのだろうか?
大打撃を受ける飲食業界
人が来ない。このことによって大きな打撃を受けるのは、飲食業界も例外ではない。
5月に入ってから世界の多くの国々で規制が緩和され、飲食店の営業再開が可能になった。しかし、だからといって簡単に営業再開に踏み切れるかというと、話はそう単純ではない。
営業を再開しても、客足はすぐには元通りにはならないだろう。そして、その解決策として、デリバリーサービスやお弁当などの持ち帰り商品の販売などを行う飲食店もあるが、それらに対応していないところは、規制緩和後も営業形態について検討を重ねる場合も多いようだ。
特に、アメリカの飲食業界の今後は厳しいものになりそうだ。
専門家によれば、自営業飲食店のうち75パーセントは、このコロナの状況下で生き残ることは難しいだろう、と言われている。また、The National Restaurant Association(全国レストラン協会)の予測では、今後3ヶ月間の飲食業界全体の損失は、2,250億ドル(約24兆3,000万円、1ドル=約107円)にも上ると言われている。
感染予防をしながらの営業再開
5月4日に、日本では厚生労働省による「新しい生活様式」が発表された。
人から人への感染を防ぐ策として、自分と他人との間に十分な距離を取る「ソーシャル・ディスタンス」の実践、こまめなうがい・手洗い、日常生活では「3密」(密集、密接、密閉)を避けるなど、感染拡大初期にも呼びかけられていた事項も含めて、まとめられたものだ。
また、オーストラリア、イギリスなどでも、飲食店の営業再開にあたり、コロナ対策についてのガイダンスを発表している。二国とも「新型コロナウィルスは、食べ物を介しての感染はない」と前置きをしたうえで、アドバイスを掲載している。
そして、営業再開後は多くの飲食店がそれらを踏まえて、予防策を実践しながら営業を行っている。当面の間は、来店客の体温測定、スタッフはマスク着用の上で接客、客席を減らしてテーブル間は十分な距離を取る、などの解決策を行うところが多いだろう。
また、中国政府は、健康状態をチェックできるアプリの導入を発表した。現在では、中国国内の多くのレストランやカフェで、入店前にそのアプリを使用して健康に問題のないことを確認してから入店するようお願いするところも増えているという。
厳しい状況もアイデアで乗り切る各国のレストラン
<香港>
人気エリアである上環(ションワン)にあるアジア料理店Yardbird Hong Kongは、4月に営業を再開した。再開後は、各客席の間にアクリル板の仕切りを置き、30分に一回は店内消毒を徹底して行っている。また、1グループ最大4名までの入店制限も設けている。
共同設立者のリンジー・ジャン氏は「店内の雰囲気、パワーはこれまでよりも弱くなってしまいました。ですが、スペースが保たれていることで、お客さんたちが安心して当店を利用してくれるだろうと思います」と語った。
<タイ>
バンコクにあるKay’s Boutique Caféは5月3日より営業を再開している。ここは、各テーブル2メートルの間隔を空け、入店時の体温測定、店内消毒も実施している。スタッフはマスクと顔を覆うシールドを着用して接客を行っている。会計時にも接触がないよう注意を払っている。
このお店にはバラの花の「フラワー・トンネル」があり、このスペースも営業しているが、同時入場は3名までと制限を設けている。
同じくバンコクにある鍋料理店Penguin Eat Shabuでも、それぞれのテーブルをビニ-ルのカーテンで仕切っている。また、1グループ最大2名までの入店に制限して、営業を行っている。鍋料理店などの大人数で楽しむレストランは、今後営業を続けるうえで、見直すべき点が多くありそうだ。
<オランダ>
アムステルダムにあるレストラン、Mediamatic ETENはその独特の外観で現在注目を集めている。
ここは川沿いに建つ温室内のレストランで、元々は大きな温室の中に大テーブルが置かれていたが、休業期間にその姿を一変させた。
各テーブルを、それぞれ小さな温室内に置いて独立させ、より安全かつ、親密な雰囲気になれる空間になった。5月21日より営業再開予定であったため、その週に予約を開始したところ、現在6月末まで予約でいっぱいになるほどの人気ぶりである。
営業再開後しばらくは様子を見る期間とし、その後、この独立した温室を本格的に継続するか決定するようだ。Mediamatic ETENのホームページには以下のように書かれている。
“In these times we are reinspired by contamination precautions and the redesign of togetherness.”(この機会に、感染予防という観点、そして共に過ごすことの再設計から新たにインスピレーションを受けました)。
「これまでの状態」はもう戻らない。飲食業界が変わるとき
コロナ感染拡大によって、状況は大きく変わった。デンマークのコペンハーゲンにあるレストランnomaは、世界のレストラン ベスト50で現在2位にランクインしている有名店だ。
デンマーク政府は、5月中旬に営業再開の第二段階へ移行した。これにより、レストランやカフェなどの飲食店も営業が可能になったのだが、今一度経営について考え、再開を焦らないレストランも少なくない。
nomaもそのうちの一つであり、自社ホームページにて「営業再開は6月2日から」とすることを早々に発表していた。コロナにより状況が変化した現在、「人々が外食という選択をするとき、彼らは何を求めるのか」ということについて再考しなければならないという理由からであった。
これを機に、今後のビジネスモデルを考え直す飲食店は多いだろう。
前述のように、デリバリーサービスやお弁当販売、自家製パスタや手作りパンの食料品販売を行い、店内での食事以外にその店の味を楽しんでもらうことも新たな策のひとつだ。
今後数ヶ月で、優れた策を打ち出すレストランも生まれるだろう。
そして、状況が変わった今は、飲食業界自体が変わるときでもある。
飲食業界は、特に欧米では移民や有色人種など、安い労働力を酷使して成立していることは、すでに皆が知るところである。コロナ後に必要なのは、労働組合を通して労働者が声をあげること。それが、飲食業界の非倫理的な産業構造を打破するきっかけになるかもしれない。
業界内の良い面=本当に残すべきものと、悪い面=悪しき風習などのそうでないものを見極めて、前に進むときである。
文:泉未来
編集:岡徳之(Livit)