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世界中で静かなブームを起こし続けているヨガ。マインドフルネスは今やミレニアル世代を魅了する、一大アクティビティだ。新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、家での時間が増えてきた昨今、家で簡単に実践できるヨガと瞑想は、ミレニアルを含めたより幅広い層からも注目されてきている。
IoTで広がる自宅エクササイズの輪
駅前やオフィス街にあるフィットネス施設に通うスタイルが健在である一方、急速に成長しているのが自宅で行われるエクササイズだ。
ミレニアル以前の世代や管理職以上の世代にとって、通うタイプのフィットネスは家庭や仕事に追われる毎日で継続が難しい。最近になって、働き方改革やフレックス制度が定着しつつある中で、時間をやりくりする人たちも増えてきたものの、時間が合わない、始め方がわからない、ジムやクラスでの交友関係が面倒だと感じる人も多く、課題は多い。
折しも日本では10年ほど前から空前のランニングブーム。街を走る人の姿が格段に増えたほか、都心部をランニングする人のためのロッカー施設が出来るなど、人気は衰えない。
なんといってもランニングは、シューズさえあればいつでもどこでも、すぐに始められる手軽なスポーツだからだ。健康志向の高まりとともに、低コストで気軽に、一人で始められるエクササイズとして浸透してきた。
ランニングにはまる人たちが多い一方で、挫折する人も少なくない。家の近所や公園の周りを走るエクササイズは、思いのほか体力が必要で天候にも左右されやすく、継続するのはなかなか厳しい。
そこで今注目されているのが、自宅エクササイズの潮流だ。インターネットの普及と、エクササイズ商品のIoT化によって自宅でもハイクオリティのワークアウトが可能になった。
例えばアメリカ発のスタートアップ、Pelotonやスマートミラーは最新テクノロジーを駆使し、アリシアキーズなどといったセレブリティが使用したこともあってブームとなったが、年間コストが10万〜20万円ほどかかるため、誰もがすぐに始められるものではなかった。
一方で、じわじわとブームを起こしてきたヨガ。2016年のハーバード・ヘルス・パブリッシングの統計でアメリカのヨガ人口は3,700万人、2012年から50%増加している。また、4人に1人が「ヨガをするのは有益」と信じているとし、市場規模は2020年までに116億ドル(約1兆2千億円)規模に拡大すると見られている。
そんな中で今、多くの人が実践しているのがYoutube動画などを活用したエクササイズだ。特に海外のミレニアル世代の女子の間で人気なのがバーチャルヨガ教室、多くのヨガ・インフルエンサーを生み出している。
海外の著名ヨギ
パンデミックが始まる以前から、VoxメディアがYouTubeセンセーションと称していたAdriene Mishler 氏(35歳)。
テキサス州オースティンから発信する『Yoga with Adriene』は、チャンネル登録者がなんと740万人を超えるヒットアカウント。インスタのフォロワー数は90万人近く、女優兼インストラクターの彼女は、親しみやすくナチュラルな美しさが人気の秘密。穏やかな口調で、約20分からのセッションはパンデミックを機により多くの人たちが視聴している。
Adrieneのヨガがユニークなのは、職業別に「看護師のためのヨガ」「シェフのためのヨガ」といったものから、症状別の「PTSDのためのヨガ」「偏頭痛のためのヨガ」、そして瞑想や気分に合わせたプログラムなどを取りそろえていること。
現在553のビデオが投稿され、YouTubeヨガ界のインフルエンサーの名にふさわしい、累計5億9,700万視聴回数という驚異の数字を記録している。
オーストラリア出身のShona Vertue氏はロンドンにベースを置き、パーソナルトレーナーとして知られている一方でヨガと瞑想を取り入れ、現在はヨガ講師として英語圏で絶大な人気を誇る。
YouTubeチャンネル登録数は9万人、視聴回数は3,800万回。氏が開発した独自のメソッドは、世界60カ国で実践され、デビッド・ベッカムも生徒の一人。「Shonaはヨガに対する見方を変えてくれた。試合の後にヨガをすることによって、痛みが消えた」と称賛している。
Jacob Manning氏は手だけで体を支えるポーズで有名な、インスタグラムのヨガ・スターとして知られるカリフォルニアのアスリートだ。フォロワー数は25万人、YouTubeチャンネルにも無料動画を公開している。
アスリートからホームレスへの転落経験がある氏が、人生を変えるために始めたヨガ。当初はトレーニングとは程遠い生ぬるい運動だと感じていたヨガによって、心身が健康になっていくのを身をもって実感し、特に手だけで体を支えるポーズに興味を持ったのがきっかけと語る。難しいポーズを次々と繰り出し、インスタにアップしている。
始まりこそ自身のポーズを確認し、上達具合を残すために始めたインスタグラムだったが、その美しい肢体や難しいポーズに魅了されるファンが増え、ヨガをする人たちにとっての憧れの存在となっている。
ミレニアル世代に人気のヨガは、このようなインフルエンサーを生み出しただけではない。
カナダ発のヨガウエアブランド、lululemon(ルルレモン)の躍進も目覚ましい。2019年10月に発表された意識調査では、ティーンに人気のウェアランキングで前回の調査から4ランクアップの7位に浮上。アメリカでは、ルルレモンのヨガパンツ着用者を、街で見かけない日はないと言われているほど。
高機能ウェアでありながら、ファッション性が高く、新しいアスレジャー・ブランドとしての地位を高めている。近々シューズなど、これまでのラインアップに無かった商品や、ヨガやエクササイズを越えたラインの展開も計画しているという。
とりかかりやすいホーム・ヨガと講師陣の取り組み
世界的なパンデミックによる外出自粛で、自宅でのエクササイズの頻度が増えざるを得なくなった昨今。街のジムやスタジオが休業になり、意識の高い人たちはこれまでのルーティンを保つためZoomでのレッスンをすぐにサブスクしたことだろう。
それと同時に、これまでジムに通う時間の無かった人や、一歩を踏み出せなかった人たちにもチャンスとなった。
自宅で練習するヨガは、いきなり教室へ出かけて経験者と肩を並べ、見よう見まねでポーズを決めるよりも、はるかにハードルが低い。そして筋トレやランニングのように他人との競争や、コーチから厳しく追い立てられる心配もないのが良い。何よりも、今般の社会情勢を踏まえて、これまで有料だったレッスンや、アプリの使用も無料トライアルや無料動画を通じて体験できるようになってきたという背景もある。
例えば日本のナイキは、これまで紹介してきたエクササイズのルーティンを、毎週木曜日にライブ配信し、セッションの後に視聴者からの質問に答えている。クラスに参加している、という感覚を持てると好評だ。
同社のヨガ・セッションでは、コメディアンのゆりやんレトリィバァが出演し、この動画だけで97万視聴を記録している。なお、世界のナイキ・トレーニングクラブYouTubeチャンネルは、登録者数140万人を超えている。
他方で、ヨガ講師たちはこれまでのような対面式での呼吸法の指導や、生徒の腕や足の高さや向きを調整するといった指導法に転換を強いられている。そのうえ、クラスがキャンセルされたままでは収入の心配もある。
無料動画を通じて、より多くの人に目にしてもらうことにより、有料チャンネルへと誘導したり、Zoomやインスタライブによるプライベートレッスンを開催したり、アメリカではチップや募金を集める手法も一般的になりつつある。
何よりも、こうして既存の生徒だけでなく新規生徒となり得る人たちとのつながりを持つことが、将来の開拓となると希望を持って、ヨガの普及に一役買いたいと口にしている。
さらに注目が高まるマインドフルネス
自宅でのエクササイズ人口が急増する中で、注目が集まるヨガ。特にこのパンデミックの中、誰もが不安に駆られストレスを感じている。これまでの日常が奪われ、いつ終息して元の生活に戻れるかが見えない中、心身のバランスは知らないうちに崩れている。
この時期に、新しい語学を習得する人や資格取得に向けての学習に励む人など、今までは時間がなくて出来なかった新しいことに取り組む人も多いと聞く。しかしながら実のところ、ストレス状態で新しいことを始めるのにはそれなりに強靭な精神力や意思が必要だと気づいた人も多いだろう。
その点でヨガや瞑想は、心を落ち着かせながら体を動かすことによって、心身の健康が保たれるとして受け入れられているのであろう。
音楽配信サービスSpotifyの発表によると、パンデミックの影響で同サービスの有料会員が予想を上回る1億3千万人に達し、より多くのチルアウト音楽とウェルネスに関するポッドキャストの需要が高まり、週末向けのミュージックが平日にもストリーミングされているという。
友だちとは繋がっていたいけれど、知らない人との交友は面倒だと考えるミレニアル世代、オンラインでの会話や交流に慣れ親しんだ世代には、特別な道具も不要で、好きな時に自分の部屋で始められるバーチャルヨガも受け入れられやすいのだろう。
適度にファッショナブルでカッコいいヨガウェア、そしてインスタ映え間違いなしのヨガポーズ。パンデミックを心穏やかに、ヘルシーに過ごす自分をSNSにアップするのに持ってこいなのも、またヨガなのである。
文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit)