営業妨害や嫌がらせ、増加する「自粛警察」 コロナストレスが生み出した恐怖

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「何で子どもが外で遊んでいるんだ。近所の学校の子どもだろう。学校に連絡するぞ、このコロナめ!」

休校中に自宅の前の道路で遊んでいたところ、知らないおばあさんに怒鳴りつけられたという小学生がいる。理不尽でとても嫌な思いをしたそうだ。

ドッヂボールをしていて通報されたという小学生もいる。「公園で子どもが数名で騒いでいると通報があった」と警察官が数名来て囲まれたそうだ。その小学生は、「ただドッヂボールをしていただけなのに、警察が来るほど悪いことなの」と落ち込み、それからは自宅に引きこもる日々だという。

新型コロナウイルス感染拡大を受けて、緊急事態宣言が発令された。37県は解除されたものの、東京都や大阪府など自粛要請が続く地域もあり、他県への移動は自粛対象。さらに店舗は休業や営業時間短縮、学校は休校状態となっているところが残る状態だ。

自粛要請が長期化するに従って、「自粛警察」がSNS上などで目立つようになってきた。自粛警察の心理と実態、問題点について解説したい。

自粛期間の外出で罪人扱い、子どもたちの現状

自粛警察とは、自粛しない店舗や人などを責める風潮だ。自粛要請とは、正確には禁止ではない。しかし、多くの人が休業や「Stay Home」を実践するようになったことで、それから外れた行動をしている人は攻撃してもいいと判断する人が出てきてしまった。

たとえば前述の例でも、人が少ない時間帯や場所を選んで外出することは悪いことではなく、運動不足を解消するためのランニングなどは良いとされている。しかし、子どもが外に出ているだけで、新型コロナウイルスを撒き散らす罪人扱いされることが少なくないのが実情だ。

「またマスクをしないで外出している子どもがいた。うつったらどうするんだ。市に通報したのに、対応してくれない。子どもならマスクをしなくてもいいのか」とSNS内に憤った様子で書き込んでいる人がいた。

最近は気温が高くなりマスクをしない人も増えている。当然、マスクをしないだけでは通報対象とはならないが、その人の感覚ではマスクをしないことはイコール悪であり、通報対象となってしまうのだ。

カラオケやジム、人が集まる場は目の敵に

今は、営業している店舗も目の敵にされている。カラオケ喫茶やスポーツジムなどはクラスターが起きたこともあり、特に厳しい目で見られているようだ。

「休業してください。通報します」

全国に自粛要請が出される前の4月頭、あるカラオケ喫茶は、店の前の「一日予約の一組のみ。店内消毒しています」という張り紙に落書きをされた。小さな文字で「コロナまき散らしたら殺すぞ」とも書かれていた。

確かに周囲には完全休業をしている店が増えていたが、家賃の支払いを考えると少しでも稼がないとまずいと考えての判断だった。しかし、落書きされたことで、完全休業を決めたという。

「書き込めるということは、近所の人。穏やかな土地柄と思っていたのに、そのような目で見られていたとは。再開したらどんな攻撃を受けるか怖くてたまらない」。

4月頭には、東京都港区の43歳の男がスポーツクラブのドアを蹴って壊して逮捕された。男は「緊急事態宣言が出ているのに営業している」と腹を立てたとしているが、クラブは翌日から休館を決めていた。このような事態は日本各地で起きている。

それだけではなく、人が集まることや移動すること自体への批判の声や、自粛傾向は強くなっている。

堀江貴文さんの北海道の会社が、5月上旬に予定していたロケット打ち上げを延期することになった。実は、これも「自粛警察」のせいだと言われている。「見に来る人がいるかもしれない」などのクレームが複数寄せられてたことで、町長が延期を要請したというわけだ。この延期によって会社には億単位の損失が出ることになるそうだ。

県外への移動も自粛対象となるため、他県ナンバーの車をチェックして批判する人も少なくない。和歌山県では県外ナンバー所有者対象に、「和歌山県内在住者です」と書かれた県内在住確認書を交付しているほどだ。

人が集まったり移動したりすれば、感染が拡大するリスクも高まる。確かにそのとおりなのだが、あまりに他者に対して攻撃的すぎはしないか。

感染者は殺人鬼、うつした人は罪人

攻撃が及ぶ範囲はそれだけではない。そもそも周囲にうつせば重罪扱いなのはもちろん、感染しただけでも「殺人鬼」呼ばわりされることもある。

大阪府泉南市の72歳の市議は、4月10日に泉南市で初めて感染者が出たことを受けて、自身のFacebookに「泉南市でました。女子高生」と投稿。「市内の地域は、特定できないですが、接触者が何人かいるとしたら迂闊に歩けません。私ら高齢者にとっては殺人鬼に見えます」と投稿していた。

言うまでもなく、感染者はただ感染しただけであり、悪いのはウイルスだ。高齢者は重症化しやすいことがわかっているため、過剰な反応となったのかもしれないが、感染しただけの人に罪はないし、殺人鬼呼ばわりしていいはずがない。

しかし、感染者が少ない地域では特に、「◯◯家の娘が感染したらしい」「◯◯社の社長が感染者」などの噂が飛び交い、村八分状態になって引っ越す羽目になったり、不買運動につながったりすることもあるという。実際に、間違ったデマが広まったことで、売上が激減する店舗も出ている。

「感染させるかもしれない」だけで罪人扱いなのだから、実際に感染させた場合はどれほど攻撃されるか想像がつくだろうか。事実、周囲以外からも攻撃され、個人情報がさらし者にされる事態が起きている。

たとえば、海外旅行先で新型コロナウイルスに感染し、帰国後に卒業式やサークルの懇親会などに参加して感染を拡大させてしまった大学生等に対して批判が殺到した。大学側には、誹謗中傷や「殺しに行く」という脅迫などが電話やメールで数百件寄せられたという。

最近では、味覚・嗅覚に異常を感じながらGW中に山梨県の実家に帰省した東京在住の20代女性の例だ。しかも県内の20代の男性に感染させた上、陽性と判明した後に高速バスで帰京したため、おそろしい勢いでバッシングが起きている。

女性の個人情報はインターネット上に多数あふれている。一時的な検索数上昇をとらえてアフィリエイト収入を得ようとするトレンドブログやまとめサイト、Youtube動画などが多数投稿された状態だ。

正義感と鬱憤晴らしで攻撃性高く

では、なぜこれほど自粛警察が多く現れてしまうのだろうか。まず、攻撃する人たちは自分たちを「正しい」と思っている。自宅に引きこもっているから、休業しているから、マスクをしているから、「正しい」。

そして、自分たちが思う基準からはみ出たり、異なっている人たちは攻撃する。彼らはルールを守らない悪い人たちだから、攻撃してもいい対象としてとらえているのだ。もちろん、この行為が感染を広げないためや家族を守るために必要な正しい行為と本気で信じている人もいる。

多くの人が何らかの我慢を強いられており、感染の不安や収入減の心配と戦っている。なぜ突然このような理不尽な目にあわされたのか納得できず、誰かのせいにしたいという思いもある。行き場のない思いが攻撃性となり、犯人探しや糾弾となっている可能性もある。

また、いつの間にか感染したことは自粛しないせい、行動に問題があったせいという認識になっている可能性もある。しかし感染者はただ感染してしまっただけであり、それ自体に罪はないことは忘れてはならないだろう。

恐ろしいのは、自粛警察の雰囲気が拡大していってしまい、一般の人まで影響されてしまうことだ。「〜していない人は攻撃してもいい、個人情報をさらしてもいい」と思考が過激化していけば、人間関係も自分の心も荒んでいく一方だ。

いよいよ39県で緊急事態宣言解除が決まった。東京都や大阪府などの残る都府県も、感染者数は減少傾向にあり、解除が近づいてきたように思う。他人を攻撃したり足を引っ張り合うのではなく、協力して乗り切るべきときではないだろうか。

文:高橋 暁子

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