新型コロナウイルス感染症の感染拡大で社会に閉塞(へいそく)感が満ち、深刻な経済危機にある現在。しかし日本は、大災害に襲われながらもその都度立ち上がってきた。本シリーズでは、逆境に負けない日本企業の技術力やマインドを取り上げ、「コロナ後」のビジネスのヒントを探っていく。

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、経済活動が急激に収縮している。小規模事業者や個人事業主・フリーランサーらを取り巻く状況は厳しさを増しているが、その中で、今、クラウドファンディングを通じた支援が注目を集めている。インターネットを介した資金到達という手法は、事業・活動を継続するための切り札となり得るのだろうか——。コロナ恐慌下のクラウドファンディング最前線の状況を、国内最大手の事業者「株式会社CAMPFIRE」の経営企画本部 大畑広太氏に聞いた。

開始から3カ月で31億円の資金が集まった

CAMPFIREは、2月28日、「新型コロナウイルス(COVID-19)サポートプログラム」を開始した。2月28日は国内での感染者数(累計)がまだ200人に達しておらず、事業者への支援としては、極めて早い動きだ。CAMPFIREの問題意識の高さと、インターネットというメディアの機動性に驚かされる。

大畑 「1月の下旬頃には『これは大変なことになるぞ』という感じが社内に広がっていて、社員のほぼ全員が『会社として何かしらのサポートをしなければいけない』と思っていました。サポートプログラムの立ち上げは、『今やるべきだ』という、代表、家入の決断です。幸い、過去に災害支援を行ってきた経験がありましたから、スキームは予想が付いていました。諸々の調整を一日で済ませ、その翌日に発表し、スタートさせました」

CAMPFIREの「新型コロナウイルスサポートプログラム」は、営業の自粛やイベントの中止などで困難な状況にある事業者やアーティスト、クリエイターらの資金調達や販路開拓などを、クラウドファンディングを通じてサポートするもの。通常12%のサービス手数料を0%とし、決済手数料5%のみという“破格の条件”でクラウドファンディングを実施することができる。

大畑 「5月18日現在、サポートプログラムに申し込みいただいているのは、約3,600件です。そのうち1,600事業者がすでに資金調達を開始していて、総計で約31億円の資金が集まっています。当初から大変な反響をいただいていましたし、その後、東京オリンピック・パラリンピックが延期されたり、営業自粛要請が拡大されたりしたこともあり、サポートプログラムの申請締切期限を2度延長し、7月31日までエントリーを受け付けるようにしています。

業種別では、現時点では圧倒的に飲食業が多く、お申し込み全体の4割を占めています。次に多いのが、アーティストやライブハウスなど音楽関係で、1割くらい。その次が、宿泊関係です。最近は、美容、製造業関係からのお申し込みも増えていて、時間が経つにつれて業種的にも広がりを見せている状況です」

クラウドファンディングは新しいファンをつくる

小規模事業者・フリーランサーは、クラウドファンディングをどのように捉え、どのような働きを期待しているのだろうか。大畑氏は、一時的な資金調達・販路開拓にとどまらない、クラウドファンディングだからこそ果たせる機能があると語る。

大畑 「新型コロナウイルス感染症の感染拡大が収束した後、特に飲食業では、以前と同じようにお客さまが来店するかどうかは分かりませんし、たぶん『厳しい』と見た方がいいだろうと思います。そうなると、この先、実際にお店に来てもらってお金を使っていただくという事業モデルが苦しくなって、『インターネット上で販路を拡大していかなければならない』と、皆さんが感覚として持っておられるのではないでしょうか。そのときの一つの“出口”としてクラウドファンディングが存在していて、これからもっとクラウドファンディングが選ばれていくと思っています。

事業者サイドの視点で申し上げると、ECは日々受注が来て納品していくというサイクルであるのに対し、クラウドファンディングは、一定の期間で集めた資金で、その後に納品していくというサイクルです。つまり、いくら集まったのかが確定した後に、どう進めていくかを計画でき、しかも、納期までの時間を長く設定しやすいため、事業計画が非常に立てやすいんです。

しかし、クラウドファンディングの一番の特長は、“熱量の高いお金”が集まるというところだと思います。ECでは提供する商品やサービスの対価としてお金を受け取るのに対し、クラウドファンディングでは自分の思いの分も上乗せして支払う人も出てきたり、リターンよりも多くのものを提供したいと支援者側も思いやすい。その意味では、お金のつながりだけではなく心のつながりがあるのがクラウドファンディングであり、新しいファンをつくる機能があるのだといえます」

ブログであり、ニュースメディアであり、資金調達手段である

新型コロナウイルス感染症という不幸な出来事がきっかけであったとしても、クラウドファンディングを活用して新たなファンを獲得できれば、事業者側にとっては大いに力になることだろう。では、その機会を提供しているCAMPFIREは、どのような思いを持っているのだろうか。

大畑 「サポートプログラムの申請件数は、日を追うごとに増えています。その中で興味深いのは、地域で有名な店やアーティストの方がクラウドファンディングを立ち上げると、連鎖してお申し込みが増えるということです。特に、飲食店の場合、7割くらいのお店が、このサポートプログラムを知ったきっかけが『知人の紹介』だったと答えています。

つまり、これまで私たちがどんなに頑張ってプロモーションを仕掛けても届いていなかった層に、今回のことをきっかけにして届いたというわけです。実際、申請した人の約80%が、『クラウドファンディングは初めて』でした。

日本のクラウドファンディング市場はまだまだ小さく、インターネット調査によると、クラウドファンディングで起案したことがある人が人口の1.8%、支援したことがある人は6.6%程度にとどまっています。その中で、サポートプログラムを実施してクラウドファンディングの裾野が大きく広がったことは、弊社にとってもプラスになると考えています」

さらに、大畑氏は「今、クラウドファンディングの持つ“情報発信機能”の重要性を再認識している」と、次のように語る。

大畑 「今回のような非常時にあっては、クラウドファンディングを立ち上げることで、注目されにくい地域の課題を発信して支援を呼びかけるという動きが活発になります。クラウドファンディングを通じて問題意識が広がり、それをマスメディアが後追いで報道するようなケースも見られます。クラウドファンディングが、ブログであり、ニュースメディアであり、資金調達手段になっているのだと感じています。

クラウドファンディングが、そして、私たちCAMPFIREが、社会に対してもっと重要な役割が果たせるようになれるのではないか。そのためにも、1人でも多くの人にクラウドファンディングを利用してもらい、1円でも多くの資金を事業者に届けなければならない。——そう思っているところです」

マスに届けようとするメッセージは失敗のもと

クラウドファンディングを始めたいと思っていても、「敷居が高い」と感じている事業者も多いのではないだろうか。最後になったが、クラウドファンディングを成功させるには何が重要なのか、大畑氏にアドバイスしてもらおう。

大畑 「クラウドファンディングがインターネット上の発信だということで、『広くマスに向けて届くメッセージにしなければならない』と思ってしまいがちですが、意外とそれが失敗の原因になったりします。

これまで普段接していたお客さまをイメージして、その人に刺さる言葉や、その人に向けて伝えたいことから考えていくのがいいでしょう。『ちゃんと伝えなきゃ』という熱量を持ってページをつくり、画像をつくり、必死な姿勢を見せることが一番大事です。

そして、諦めないこと。一度やってみて成功しなかったからといって諦めずに、何回もチャレンジしてください。その中で、きっと『こうやればいいんだ』というものがつかめるはずです」

「熱量を持って伝える」ことで、「熱量を持ったお金」が集まる。大畑氏が使っていた、この「熱量」という言葉は、「意志」という言葉に置き換えることができるのではないか。

意志を持ってアピールしたいことがある事業者が、意志を持ってお金を出そうとする支援者と出会う——、それがクラウドファンディングなのだろう。

そして、意志を共有した事業者と支援者の関係性は、従来の生産者と消費者の関係性とはまったく別のものとなり、“次の展開”さえ予感させる。クラウドファンディングが切り開こうとしているのは、新しい経済の仕組み、新しい社会の在り方なのかもしれない。