3.11の災禍から生まれた「LINE」が、コロナ渦の日本で今、担っていること

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新型コロナウイルス感染症の感染拡大で社会に閉塞(へいそく)感が満ち、深刻な経済危機にある現在。しかし日本は、大災害に襲われながらもその都度立ち上がってきた。本シリーズでは、逆境に負けない日本企業の技術力やマインドを取り上げ、「コロナ後」のビジネスのヒントを探っていく。

国内でのアクティブユーザーは8400万人を超え、日本において日常的なインフラと言っても過言ではないコミュニケーションツールに成長した「LINE」。新型コロナウイルス感染拡大により日本中が大きな混乱に見舞われる中、LINEは感染症に関する情報提供や、感染対策のために生活に影響が及んだ人々への支援を展開している。

実は、コミュニケーションツールという枠組みを超えて社会貢献に取り組む背景には、間もなく10年を迎えようとする東日本大震災がある。社会的な逆境から立ち上がったサービスは、コロナ渦の今、何を目指しているのだろうか。

切実な“安否確認ニーズ”が生んだ「既読機能」

今となっては家族や友人との日常の連絡ツールとして広く利用されているLINE。もはや定番サービスとなっているが、改めて誕生の経緯を振り返ってみると、そのきっかけは2011年に起こった東日本大震災だったという。

LINE 「東日本大震災では、家族や知人の安否確認をしたくても電話が繋がらずメールも届かないという状況を多くの人が経験しました。震災の余波が続き多くの人が不安を抱える中で、大切な人との連絡手段をいち早く確保して1人でも多くの人を安心させたい。その思いから急ピッチで開発を進め、誕生したのが『LINE』でした。

LINEの特徴的な機能である『既読機能』は、相手が『メッセージを見た』という事実を知らせ、安否確認の手段ともなります。被災地の惨状を見て、必要とされているものを届けたいという気持ちが、LINEのサービスを形作っていきました」

その後の日本のコミュニケーションを劇的に変えることになるアプリが誕生したのは、震災からわずか3カ月後、2011年6月のことだった。現在に至るまで基本的には変わっていないメッセージサービスの骨格を、この短期間で実現した背景には、当時の日本が直面していた“アゲインスト”な状況があったことは間違いない。

災害をきっかけに誕生したLINEは、その後も各地の震災や災害で存在感を発揮してきた。

LINE 「東日本大震災から5年後に発生した熊本地震では、実際に熊本市職員が自らのスマートフォンでLINEを利用して連絡を取り合い、災害対応活動をされていました。これをきっかけに、LINEと熊本市は『情報活用に関する連携協定』を締結し、共同で防災訓練も実施しています。LINEを使用することのメリットとしては、普段から使い慣れているツールであるため教育コストがかからないこと、伝達内容の同報性・記録性による情報共有の迅速化や伝言ミスの防止などが挙げられます。

一方で、大人数のグループでは特定のメッセージが埋没し見逃してしまうなどのケースもありました。そのため、ノート機能やアルバム機能、リプライ機能などといった諸機能の有効活用や、組織の指示命令に適した階層的なLINEグループを作るなど、運用フェーズでのアイデアを集約しながら、改善を図っています」


LINEと熊本市は共同で防災訓練を行うだけでなく、今後の防災計画に活用するため訓練に関する報告書も公開している

LINEに実装されたノート機能、リプライ機能などは、災害時の応用的活用も視野に入れて設計されているものだ。普段何気なく使っている機能だからこそ、災害時にも迷うことなく活用できる。非常時には、これほど心強いことはない。

利用者一人ひとりに最適な情報を届ける「AIチャットボット」を開発中

LINEが災害対策として行ってきたのは、コミュニケーションツールの改善だけではない。東日本大震災から8年が経過した2019年、LINEはAI防災協議会を設立。技術革新が進むAIを防災にも活かそうと、研究機関や企業、有識者、自治体と協働し、災害時の情報の提供・収集を迅速に行うための自動対話プログラム「防災チャットボットSOCDA」の開発などに取り組んできた。

LINE 「産官学が協力し、AIやSNSなどの先端技術・ITインフラを活用することによって、防災・減災に関する課題解決を目指しているのがAI防災協議会です。これまでの枠組みにとらわれず、各者それぞれが保有する強みを持ち寄り、組み合わせることによって、災害対応能力の高い社会を早急に実現できると考えています。

近年、全国において多発している地震や豪雨等の自然災害では、消防機関が災害状況をリアルタイムで把握するには限界がありました。その問題を解決するためにAI防災協議会と共同で開発したのがLINE版防災チャットボットSOCDAです。SOCDAによって、災害時にSNSを介して被災者と双方向で対話をすることや、避難行動や救助活動を適切に行うために必要な情報収集、情報を整理・集約してリアルタイムで共有することが可能になります。


LINE版防災チャットボットSOCDAのシステムイメージ

2019年には神戸市、三重県、伊勢市、国土交通省などと共同でSOCDAを使用した実証訓練を実施しました。まだ実証実験段階ではあるものの、ユーザーから情報を迅速に収集でき、『災害発生直後に生じる情報空白を埋めることができる』『地図上に情報を可視化することができるため災害活動における迅速な判断ができる』など、一定の効果を見いだせています」

SOCDAには、各種災害情報や利用者の発信する情報を融合処理し、利用者一人ひとりに適切な避難支援情報を提供することが期待されている。実用化されれば、災害時の混乱の緩和はもちろん、被災者の命を救う可能性も秘めているといえるだろう。

社会課題の解決に向けて、サービスをどう活用するかが重要

これまでさまざまな災害を目の当たりにし、その度に課題解決に向けた取り組みを行なってきたLINE。現在、新型コロナウイルスの感染拡大という未だかつてない危機に現在進行系で立ち向かう中、まず取り組んだのは厚生労働省と提携して行う情報提供だった。

LINE 「私たちは日頃から、社会課題解決のために協力できることはないか、省庁や自治体などの行政機関とコミュニケーションを取っています。その中で厚生労働省から要請を受け、最初に行ったのが『新型コロナウイルス感染症情報 厚生労働省』LINE公式アカウントの開設でした。まずは新型コロナウイルスの発生状況や予防法などの正しい情報を広く提供することが必要だと考えたからです。

その後も厚生労働省とは連携を続け、さまざまな取り組みを行なってきました。ダイヤモンド・プリンセス号の乗員・乗客に対しては、健康相談や薬の申込などが行えるLINEアカウントを開設し、スマートフォンを提供しました。また、3月から4月にかけては、LINEを使って新型コロナウイルス対策のための全国調査を行いました。国内で最も多く使われているコミュニケーションアプリという特性を活かすことで、多くの方からの回答が得られ、社会実態を把握する一助となったと考えています」

LINE 「その他新型コロナウイルス関連のCSR活動の一つとして、休校中の学生を対象に学習支援も行なっています。これはLINEの教育におけるCSR活動を推進している『LINEみらい財団』と教育関連事業を行なっている事業者とが提携して行っている活動で、臨時休校中の自宅学習支援として中学生・高校生向けの学習動画などの無償提供を行なっています。

新型コロナウイルスの脅威はまだ去っていませんが、『LINEなら何ができるか』を考え、省庁や各自治体とも連携のもと、社会課題解決の一助となれるよう、取り組んでいきたいと思っています」

3.11の逆境で生まれ、逆境のたびに強みを増すLINE

LINE誕生のきっかけは東日本大震災発生だった。あれから9年。新型コロナウイルスの脅威が未だ去らない中、行政との迅速な連携による情報提供やサービス支援を、スピード感を持って実行するLINEの姿がある。LINEの強さは、災害や災厄など、人々のつながりやコミュニケーションが脅かされるたびに、それを跳ね返し、培われてきた。

社会インフラとしての役割を持ち、常に「社会課題の解決」を指向するLINEは、このコロナ渦を越え、さらに重要な役割を担う存在となっていくだろう。

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