700年続いた「日本の家の常識」をアップデートし、新たな住宅のスタンダードをつくる。ヒノキヤグループ社長 近藤昭の挑戦

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日本の住宅は長い間、高温多湿な風土で快適に暮らす知恵として「風通しの良さ」が重視されてきた。

しかし近年、地球温暖化などの影響により、もはや日本の夏は窓を開放するくらいではやり過ごせない程の暑さになった。エアコンをフル稼働させても家の風通しの良さ故に、涼しさを部屋中に行き渡らせるには、非効率かつ経済的なデメリットも多い。冬の時期も同様に、温度ムラがヒートショックなどの健康被害を引き起こしてしまうことも。日本には未だそうした風通しの良い古い家が多く残っている。

そんな中、若い世代を中心に注目を集めているのが、「全館空調」という住宅スタイルだ。全館空調は近年のトレンドである住宅の断熱性を活かし、空気を逃さず循環させ続ける。この分野でトップを走り続ける住宅メーカーが、ヒノキヤグループだ。同社は従来、高級住宅に多く備わっていた全館空調システムを、「Z空調」によって低価格かつ一般家庭でも取り入れられるよう工夫を重ねてきた。

今回は、ヒノキヤグループの代表を務める近藤 昭社長(以下、近藤氏)にインタビュー。「日本の家、日本の暮らしをアップデートしたい」という強い信念を持つに至った経緯や、変革に向けた挑戦について訊いた。


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「最高品質と最低価格で社会に貢献」理念を引き継いだ経営で、売上高を8年で5倍に

2001年にヒノキヤグループに入社した近藤氏。入社のきっかけは、黒須 新治郎前社長(現会長)の娘さんとの結婚だったが、現会長から「上場を果たして、増税といった社会情勢に翻弄されない強い会社になりたい」という想いを訊き、自分の経験が役に立つかもしれないと感じたことが大きな理由だった。

近藤:「入社までは保険業界で長く働いていたので、金融での経験が活かせるのではと思いました。上場するには、ルールにのっとって緻密に手続きを重ねていく必要がありますが、それが当たり前だったので心理的には抵抗なく上場を目指すことができました。

金融業界と違い、建築や不動産業界は自由度が高い分、結果は自分たちの努力次第というプレッシャーはありましたが、ヒノキヤで頑張ってみたい。そう思って、日本の住宅事情について真剣に学んでいきました。

マイホームは、誰もが一度は思い描いたことのある身近な夢。自分が暮らす家もある意味実験台として、なるべく当社のお客様と同じ目線に立った家づくりを考えています」


株式会社 ヒノキヤグループ 代表取締役社長 近藤 昭氏

近藤氏が社長に就任したのは、入社して8年後の2009年。全社員の前で、黒須 新治郎前社長(現会長)から与えられたミッションには想定以上の数字が並んでいた。

近藤:「『2017年には売上高1,000億円、経常利益50億円を達成してもらいたい』と会長から告げられたときは、正直ピンと来なくて……当時の売上が200億円だったので、あと8年で5倍にするにはどうしたらいいんだと(苦笑)。社員もぽかんとしていたと思います。

会長の実家は、大手住宅会社の下請け工務店でした。そこで大手との価格差を実感した会長が、自分たちが元請けになりいいものを安く提供したいと考え、『最高品質と最低価格で社会に貢献』という理念のもと立ち上げた会社がヒノキヤグループの始まりなんです。

ただ、会長は、常に高い目標を掲げては達成してきた有言実行の人。挑み続ける会長の姿を入社以来見てきたので、途方もない数字だけど次は自分の番だ。後悔のないようやってみよう。それだけでしたね」

理念にもとづき、徹底した規格化で低コストを実現したり、事業を多角化してハードからソフトまで一手に担うことで品質を保ったりとさまざまな工夫を続けたヒノキヤグループ。既存事業の改革とともに近藤氏が進めたのが、会社を成長させるためのM&A(企業の合併・買収)だった。

近藤:「自分たちにない提供価値を持つ会社に対してM&Aを実施し、売上高や企業規模を拡大させてきました。ただ、私たちのM&Aは本業である建築業を着実に育てられるかどうかが大前提。別の会社で働いてきた方と仲間になるわけですから、相手方の社長とじっくり話しあい、考え方や社風がヒノキヤとマッチするかを重視してきました」

現在、ヒノキヤグループの主力である断熱材事業を担う、株式会社日本アクアに対するM&Aも「人重視」で実現したそうだ。

近藤:「出会った当時の日本アクアは売上高10億円に満たない会社でしたが、日本アクアの中村社長は『われわれは売上300億円、上場を目指したい』と熱く語っていました。

彼らは『アクアフォーム』という素晴らしい断熱材を持っていて、これからは省エネ住宅の波が来るに違いないと思っていたヒノキヤにとっては最高のパートナー。その上、成長に意欲を燃やすマインドも当社と共通していたので、お互いの強みを活かしあって市場を拡大できました」

2018年には、「アクアフォーム」が戸建住宅吹付断熱材のシェア11%を獲得するまでになり、2013年に東証マザーズ、2018年には念願の東証一部上場も果たした日本アクア。2018年にはヒノキヤグループも、急成長の証となる東証一部上場を成し遂げた。2015年に経常利益50億円、2017年に売上高1,000億円という目標を達成。現在は、個性的なテレビCMでも知られる全館空調システム「Z空調」などのオリジナル商品に注力し、さらに成長を続けている。

趣味のゴルフや筋トレで健康体をキープし、バイタリティにあふれた語り口が印象的な近藤氏。常にお客様目線を忘れないように、SNSの活用も積極的に推進している。

近藤:「今は、SNSでの家探しや住宅会社選びが当たり前。その現実から目をそらして『昔じゃ考えられないこと』とは言ってはいけないと思っています。毎年、新卒社員も採用しているので、若手の声も取り入れながら、さらに活用していきたいですね」

「快適な室温」が、家庭内ストレスをぐっと減らす。Z空調開発物語

2020年1月時点で受注実績10,000棟を超えるヒノキヤの「Z空調」は、一年中家の温度を快適に保ち、身体にも家計にもやさしい冷暖システム。
なぜヒノキヤグループは住宅メーカーとして「空調」に注目したのだろうか。

近藤:「私自身、初めて建てた家がとにかく寒くて家族から大不評でした。二軒目を建てるときは断熱材『アクアフォーム』を使うことにしたのですが、断熱効果の高い家をより快適にする方法がないか調べたところ、1台の機械で家全体の空調を管理する全館空調にたどり着きました。

しかし、非常に高価なシステムなのでこれまでお客様におすすめしたこともほとんどありませんでした。住宅メーカーの代表として、一応知っておいた方がいいのでは……と自宅に導入したのが、全館空調を体感したきっかけです」

ものは試し。と導入した全館空調の心地よさは、今まで味わったことのないものだった。さらに、海外出張を機に海外の住宅事情に触れたことも、全館空調への熱をさらに強めることになる。

近藤:「先進国の建築物の多くは、建物全体を冷暖房しています。日本のように、部屋ごとにエアコンと室外機を置いて、点けたり消したりしている国はどこにもない。日本はなぜこんな不便な暮らしを強いられているんだろうと愕然としました。しかも、日本の気候は年々過酷になっていますよね。1年の中で、空調を使わない時期がどんどん短くなっている。日本の家をなんとかしたい。本来のあるべき姿を考え直したいという想いがわいてきました」

空調は家電メーカーの商品であり、住宅メーカーが関わるものではない。そんな業界ごとの切り分けが、理想の空調に近づけない理由ではないのか。そう考えた近藤氏は、大手空調メーカーのダイキン工業、24時間換気を支える協立エアテック、そしてヒノキヤグループの既存技術を掛け合わせた全館空調システムの開発に乗り出した。

近藤:「実は、開発にかかった時間は短く、アイデア出しから1年ほどで試作品が完成しました。その後1年は検証期間として実験を繰り返しました。

『Z空調』と他社の全館空調との一番の違いは、コストパフォーマンスの高さ。一般的な全館空調は、非常にパワフルなエアコン1台を使って複数階に張り巡らせたダクトで冷暖房するため、イニシャル・ランニング両方のコストが高くなります。『Z空調』はワンフロアに1台ずつエアコンを設置し、ダクトもワンフロアずつなので、エアコンのパワーが市販のエアコンレベルであっても十分冷暖房できます」

2016年に発売を開始した「Z空調」。提供価値に自信はあったものの、目に見えない「室温」にどれだけの人が関心を寄せるかは未知数だった。近藤氏は「Z空調」の体感シーンを増やすことに注力。全国にある住宅展示場だけでなく、実際に販売する住宅もつくって「Z空調」を備え、今住んでいる家との違いを実感してもらうことにした。

近藤:「夏場に家のドアを開けると、もわーっとした空気にげんなりしますよね。それが、『Z空調』の家ならさわやかな冷風が吹き抜けてきます。肌に触れる風が、言葉で説明する何倍もの力強さで『Z空調』の魅力を語ってくれるんです。

ドアを開けた瞬間に輝くお客様の表情を知っているからこそ、当社の営業社員も現場監督も自信をもって『Z空調はお客様の暮らしを豊かにできる』と言い切れる。それが、高い実績につながっているのかもしれません」

30代のファミリー層から支持を受けている「Z空調」の家。ユーザーから集めたアンケートには、空間の心地よさだけではなく「Z空調によりなくなったストレス」が多く記されていたこと印象的だったという。

近藤:「例えば『子どもの寝相が悪くて夜中に布団をかけなおしていたけど、今は寝冷えする室温にならないので、ぐっすり眠れるようになった』というお母さんの声や、『冷暖房している部屋のドアを子どもが開けっぱなしにするので『電気代もったいないでしょ!』といつも怒っていたけど、『Z空調』はどこも同じ室温なのでイライラしなくなりました』といったご両親の声とか……。

家の中が快適な温度になるだけで、潜在的にあったストレスがなくなるんだと知りました。特に今はテレワークの方も増え、家庭内ストレスの軽減が急務。快適な空間は、家族が仲良く過ごすための助けになるのではと感じています」

マイホームが命を奪うことがあってはならない。ヒノキヤの挑戦は全国へ

激しい寒暖差が室内にまで影響する日本の家を変えたい。そんな強い想いから開発されたヒノキヤの「Z空調」。オリジナル商材として育ててきた「Z空調」だが、2019年からは外販もスタートした。会社の成長に直結する全館空調システムを独占せず、全国の工務店や建材店に販売を委託する意図はなんだろうか。

近藤:「もちろん、『Z空調』を全国に広め、日本の暮らしを快適に変えていくという大義はあります。加えて、『Z空調』を独占しないことが、ヒノキヤにとってプラスになると信じているんです。

かつて、日本アクアの断熱材『アクアフォーム』を、ヒノキヤの家にだけ使うという決断もできました。グループ会社ですからね。しかし、ヒノキヤで独占しなかったことで『アクアフォーム』の価値が全国に知れ渡り、日本アクアもヒノキヤも成長できた。

開発元として自信を持ち、まずは市場を広げる。家族の思い出が生まれやすくなる快適な家をご提案していけば、必ず会社の成長につながると思っています」

最後に、ヒノキヤグループ、そして近藤氏が描くビジョンについて伺った。

近藤:「建物を通して、健康的な生活を送っていただきたいという強い思いがあります。ヒートショックで亡くなる方は年間1万9,000名といわれ、世界でも圧倒的な数。熱中症で亡くなる方も後を絶ちません。

この悲しい状況には、住宅メーカーにも責任の一端があるんじゃないか。夢だったマイホームが人の命を奪うことがあってはならない。私はそう思っています。30歳で家を買ったとして、数十年その家で暮らすとしたら……。家を建てたいと思った方には、将来を見すえた選択をしていただけたらと思っています。

『Z空調』は、コストパフォーマンスに優れているだけでなく、省エネなシステムです。暮らしからもう少し視野を広げると、『Z空調』の家は、資源のない国である日本にふさわしい建物だと思っていますし、地球温暖化防止にもつながるはずです。

今は、個人的なビジョンと会社のビジョンが一致しています。ヒノキヤの家が、日本の住宅のスタンダードになること。今はそんな未来を思い描き、「最高品質と最低価格」の両立に取り組みたい。そのポテンシャルは十分にあると思っています」

日本の家のあるべき姿を思い描き、建物の性能を高め続ける。「Z空調」をはじめとしたオリジナル商品で快適な空間を生み出し、家族の思い出をつくり出してきたヒノキヤグループは「日本の住宅のスタンダードになる」というビジョンのもと、これからも成長を続けていく。

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取材・文:岡島 梓
写真:松井 サトシ

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