「コロナデブ」解消にホームフィットネス。高価なジム機器とオンライントレーニングが盛況

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新型コロナウイルスの影響で家にこもりがちな毎日、「コロナ太り」「コロナデブ」という言葉がよく聞かれるようになってきた。スポーツジムが閉鎖されている上、家にいるとつい間食が増えてしまったり、運動不足に陥ったりしがち。

そんななか、自宅にハイテクフィットネス機器を導入したり、オンラインのトレーニングを受けたりする人が増えている。欧米で広がるホームフィットネスの現状をレポートする。

外出自粛で運動不足になりがちな毎日、自宅にハイテクフィットネス機器を導入し、ライブでオンラインレッスンを受ける人が増えている(写真:Peloton)

20万円のジム機器は高いか?

「ジムから毎月60ユーロ(約7,000円)でランニングマシンを借りているんだ」――というのは、オランダ南部・アイントホーフェン市に住むロバート・スケルプハウゼンさん。

彼はジムの一時閉鎖でトレーニング機器が貸し出されたため、早速自宅に導入した。機器は借りる時も返す時も、ジムの人が運送してくれるという。家族5人がマシンを使えるため、「5人分のジム会員費を思えばすごく割安だし、ジムの経営を助けることにもなる」(スケルプハウゼンさん)。

一方、レンタルではなく、恒常的に自宅をフィットネスにする動きも見られる。ハイテクトレーニング機器とオンラインのフィットネスクラスを提供する「Peloton(ペロトン)」は、新型コロナウイルスの広がりを受け、3月中旬から専用アプリをダウンロードした人に90日間無料でオンラインレッスンを提供している。

通常、アプリを使った同社のオンラインレッスンは月々12.99ドル(1,400円)。さらに同社が開発したWifi機能とディスプレイ付きの各種トレーニングマシンを買うと、月々39ドル(約4,200円)でオンデマンドのレッスンに参加することができる。

レッスン中はライブでインストラクターと繋がってトレーニングができるほか、参加メンバーのタイムやランキングが画面脇に出てきて、一緒に切磋琢磨している実感を味わうことができる。

エアロバイクとランニングマシンの価格はそれぞれ2,245ドル(24万円)、4,295ドル(46万円)。決して安くないが、これも家族全員分のフィットネス年会費を考えれば、さほど大きな投資ではないのかもしれない。実際にアプリの登録会員のうち10%がこうした機器を購入しているという。

CNBCによれば、同社の3月の登録会員数は、2月の5倍に増えた。無料トライアル期間を1カ月から90日に延長したことで会員数はさらに増加が見込まれており、アナリストらは「コロナ危機後に浮上する勝者となる」との見方を示している。

邪魔にならないトレーニング機器

「Mirror」は全身鏡の形状のスクリーン。自分の姿を映しながら、画面に映るインストラクターに合わせてエクササイズができる(写真:Mirror)

一方、トレーニング機器の自宅導入には、相当のスペースを必要とする。また、飽きて使わなくなった場合、これほど邪魔になるものはない。「ペロトン」の機器についても「家の場所を取る」点が成長を阻むマイナス要因として指摘されてきた。その点、米MIRRORの「MIRROR(ミラー)」は、家のインテリアに馴染みやすい形状をしている。

同社が提供するのは、全身鏡のようなスクリーン。壁に立てかけて、その前でトレーニングができるというものだ。価格は1,495ドル(16万円)で、月々39ドルでインストラクターとライブで繋がるオンデマンド・レッスンを受けられる。

鏡には自分の姿のほか、インストラクターの姿が同時に現れ、自分のフォームをチェックしながらエクササイズできるようになっている。また、スクリーンに埋め込まれたカメラで自分の姿をインストラクターに送り、個人レッスンを受けることもできる。

CNNビジネスによれば、コロナ危機以降、ミラーの売り上げは2倍以上に拡大した。同社スタッフは当初計画していた以上のデジタルコンテンツを提供するため、多忙を極めているという。

「Tonal」が提供するウェイトマシンも従来の大仰なマシンのイメージを覆す、画期的なデザインとなっている。

壁掛けテレビのような形状で、そこから伸びる2本の腕が全身のワークアウトの際の支柱となる。マグネットと電気の力で、最大200ポンド(約90kg)の負荷がかけられる仕組みだ。マシンには24インチのスクリーンが内臓されており、ここでさまざまなメニューからレッスンを選択できる。マシンの価格は2,995ドル(税引き、約32万円)。さらに月々49ドル(5,200円)を払えば、オンラインレッスンのメンバーになれる。

壁掛けテレビのようなデザインの「Tonal」のウェイトマシン(写真:Tonal)

オンラインレッスンは「双方向」を意識

もちろん、こうした機器を導入せずとも自宅でエクササイズをするのは十分可能だ。コロナ危機でジムが閉鎖されるなか、多くのインストラクターが「フェイスタイム」や「Zoom」などのアプリを使ってオンラインレッスンを提供している。

オランダ・ユトレヒト在住の吉田雅世さんは、これまでユトレヒトのスタジオでピラティスレッスンを提供してきたが、新型コロナウイルスの影響で、4月から有料のオンラインレッスンに切り替えた。

消費者の反応は上々で、これまで遠方だったり子供が小さかったりでレッスンに通えなかった人も参加しているという。レッスンの時間帯によってはオランダだけでなく、日本からの参加もあり、市場拡大の可能性も広がった。

「YouTube」などで多くのエクササイズ動画が視聴可能ななか、吉田さんが大切にしているのは、「インタラクティブなレッスン」。

画面だけだと実際に参加者の体を触って体勢を直したり、分かりやすい角度でデモンストレーションをすることができないため、よりイメージしやすい言葉を使ったり、画面越しでも一人一人に目を向けてポジションを直すよう声がけしたりして工夫している。「こちらも注意を向けているということを意識してもらうことで、一方的なレッスンにならないよう心掛けています」(吉田さん)。

レッスンを受けているある女性は、有料のオンライン・レッスンについて初めは少し懐疑的だったが、「画面を通じてもインストラクターの熱量が伝わってくるし、一緒にやっている仲間もスクリーンに写し出されるとモチベーションも上がる。YouTubeだと絶対に長続きしないだろうが、有料だからちゃんと定期的に参加しようという気になる」とコメント。

移動の手間も省けるし、運動不足解消のほか、いいストレス解消にもなっているという。

コロナ後も根付くホームフィットネス

こうした自宅フィットネスは、コロナ危機が収束した後も続くのだろうか?

吉田さんは、スタジオが再開してもオンラインレッスンを継続する予定。「スタジオレッスンがメインになると思いますが、オンラインレッスンもそれと並ぶひとつのオプションになると思います。コロナ以前よりオンラインレッスンの質も向上しているし、レッスンを受ける側も慣れてきて、以前より違和感や抵抗感が薄れ、人によってはより便利なツールに進化しています」と語っている。

英iTVによると、世界中でフィットネス施設を運営するLes Milles欧州CEOのマルティン・フランクリンさんもコロナ収束後の在宅フィットネスについて、「確かに続く」との見方。「それは変革でしたが、(コロナ以前にも)すでに起こっていた変革が加速されたのです」と語っている。

ただ、フランクリンさんは、ジムは身体を鍛える場であるという以外に、エンターテイメントや社交の場であることを指摘。「生の体験は決してオンラインに置き換えられるものではない」との見方を示している。

リモートワークとともに、自宅でのフィットネスもコロナ収束後には「ニューノーマル」になる可能性が高いが、社交やエンターテイメント、そしてモチベーションを高める場としてのジムやスタジオも運営され続けるのだろう。選択肢が増える消費者としては、コロナ期間中にぜひ運動を習慣化したい。

文:山本直子
編集:岡徳之(Livit

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