人と人とのつながりは、社会的な生物として進化してきた人間にとって重要なものだ。しかし現況のような外出制限が引き起こす孤独感は、人々の心身に悪影響を及ぼす可能性が高い。
それを解決すべく、SnapchatやTinder、Facebookなどのテック企業から寂しさを和らげるソリューションが登場し、Z世代から高齢者まで多くの人々の関心を集めている。
今回は、外出制限による孤独の状況と共に、それを緩和するために続々投入される新サービスや新機能の最新動向をお伝えしたい。
隔離による孤独が今、懸念されている
世界各国で新型コロナのロックダウンにより、私たちの生活は、週末も平日も以前とは全く異なるものとなってしまった。世界各国で旅行はもちろん外出も制限され、私たちは皆、自宅にとどまり、長期間自己隔離するように呼びかけられている。
ウイルスの拡散を減らすには不可欠であり、多くの人がそれを遵守しているが、一方で隔離から来る孤独も重要な問題となってきている。外出制限によって、人々は社会から孤立して遮断されていると感じ、メンタルヘルスに大きな影響を与える可能性があるからだ。特に、思春期で不安定な感情を持ち合わす10代や一人暮らし率の高い独身者、介護施設や一人で暮らす高齢者にとって、孤独は極力避けたいものだ。
イギリスの医科学アカデミーから4月15日にリリースされた「コロナの影響によるメンタルヘルス調査」では、隔離による孤独は最も主要な問題の一つとなっている。
調査の回答者たちは自分たちの孤立、社会的距離、封鎖が自分や他の人のメンタルヘルスに与える影響について非常に心配していることを示唆している。孤独感は繰り返し提起され、隔離による閉じ込められた感覚に関する懸念が、調査では明確になっている。
この状況に応じて、テック企業や社会団体はサービスを拡大し、人々がつながり心地よく魅力的に感じるサービスをリリースしている。
不安やストレスを察知するSNS、医療従事者への寄付を募るデートアプリなど、若年層への新サービス
普段から多くの人々が人との繋がりに活用するソーシャルメディア。10代のユーザーが多いSnapchatは3月、新型コロナに対応して新たに「Here For You(あなたのためにここにいるよ)」機能をリリースした。
この機能は、ユーザーの検索ワードに基づいて、不安やストレスを感じる時期を察知し、それらの感情と戦うための専門家のアドバイスへのアクセスを提供している。
Snapchatは、WHOなどの世界的な保健機関やメンタルヘルスの寄付団体とのパートナーシップからのアドバイスを活用して、ユーザーの不安を軽減する手助けをしたいと考えている。
医療従事者への寄付から成り立つ「Quarantine Together(隔離を共に)」は、パンデミックに皆で打ち勝つ思想から作られた、仮想デートを新しいレベルに引き上げたアプリ。
今年3月に開始したこのデートアプリは、利用は午後6時以降、ユーザーはサービス利用前に手洗いをしたか尋ねられ、「はい」と答えた場合にテキストチャットで相手のユーザーが紹介されるという、ロックダウンの状況を考慮した仕様になっている。テキストチャット開始20分後、双方問題がなければ、ビデオ通話に進むことができる。
利用は無料だが、マッチングごとにフィードバックのアンケートと医療従事者への寄付リンクがユーザーに送られる。この基金は、医療従事者にマスクおよびその他のPPE(個人用保護具)の提供に使用される。
ウェブサイト自体はアメリカの慈善団体CAF Americaの代理Flexport.orgによって管理されている。パンデミック事情を考慮した設計と、独身者の孤独を軽減する役割、医療従事者への寄付という、現状ならではの社会的な工夫が施されている。
「Quarantine Chat(隔離チャット)」と名付けられた電話チャットサービスも、今回のコロナを機に無料で提供されている。孤立化した人のソーシャライズを促すことを目的に、アーティストらが立ち上げ設計したサービスで、アプリの目的は「ロックダウンによって失われている、見知らぬ人と自発的に話す現実世界のコミュニティ感覚を築くこと」だ。
ユーザーは電話番号とユーザーネームを入力してサービスに登録するだけ。登録後、会話したいときに繋げば、別のユーザーと会話が開始できる。会話は接続したい時にするだけでよいので、忙しい時は出なければよい。
アプリは話し相手が見つかるまで自動的にマッチングを続けてくれる。話し相手はユーザーネームが見れるだけなので、電話番号自体は知られない仕組みになっている。プライバシーを考慮し、すべての通話はエンドツーエンドで暗号化されている。
また、デートアプリ大手Tinderは、世界中の人とつながることができる「Passport」機能を4月末まで無料で導入した。Tinderは通常は近くにいる人のみとつながるサービスだが、新型コロナを受け、一時的に自分の場所を変更できるようになり、遠く離れている都市の人とでもバーチャルに繋がれることとなる。この機能によって、ユーザーは地球儀を回して適切な場所にピンを置くことで、その地域のデート相手を探せる。
実際に今年3月末から4月中旬にPassport機能を使って、ブラジルのサンパウロのユーザーがニューヨークへ、アルゼンチンのブエノスアイレスのユーザーがスペインのマドリッドへ、Passportを使ってバーチャルに行くことでオンラインでカップルが生まれている。
ビデオチャット機器の導入や高齢者向けクラス中継など、孤独を感じる高齢者たち向けサービス
一方、普段はあまりデジタル機器を使わない高齢者たちも、国営機関やテック企業の後押しにより、オンラインで交流できるアプリやサービスを活用してきている。
イギリスの国営医療サービス事業(NHS)とFacebookは、孤独と戦うため、介護施設やケアホームにFacebook社販売の機器「Portal」を配布する計画を立てている。
2018年に同社がリリースしたPortalは、Amazonが開発したAIアシスタント「Alexa」に対応しており、自動ズーム機能なども備えたビデオチャットやメッセンジャーサービスが使用できる。
声で反応するAlexaを使用すれば、高齢者でも簡単に起動を始めることができるため、家族や友人など訪問者が禁止されている介護施設で暮らす彼ら彼女らは、これを通じて簡単にビデオ電話をかけることが期待されている。NHSとFacebookは、2,000機の配布からパイロットとして始める予定だ。
また、介護施設に留まる高齢者は訪問者の禁止だけでなく、普段は定期的に開催されていたビンゴゲームや交流会などの、コミュニティの社会生活も多く禁止されている。そのため、彼ら彼女らをオンライン活動に招待することで、高齢者の孤独を食い止めるテクノロジーも導入している。
たとえばシンガポールの新聞社Zaobaoは、3月から高齢者を対象とした一連のビデオを公開している。これには、クッキングクラスやフィットネスクラスの中継、伝統的な歌のレッスンなど、高齢者に関心の高いコンテンツが含まれている。
宿泊施設・民宿を貸し出す人向けのウェブサイトAirbnbは、4月初めに「オンライン体験ポータル」を立ち上げた。これは本来ならば旅行時に体験する各国のホスト達の活動を、オンラインで体験できる形式に進化させている。
アメリカのSAGE、イタリアのAssociazione Nazionale Alpini – Sezione di Milan、スペインのAmigos de los Mayoresなどと新しいパートナーシップを樹立し、高齢者へ無料のサービスを提供している。
新型コロナにより、個人にとって物理的な社会が縮小してしまっているが、変わってテクノロジーは人とのつながりを別の形で提供することによって、その感覚を埋めるのを手助けしている。これらの人と人との交流を促進するテクノロジーは、孤独を感じる人々に、少しの光と喜びをもたらしている。
文:米山怜子
編集:岡徳之(Livit)