3月ダウンロード数が2,900%増加したチャットアプリ

外出自粛が続く中、チャット/オンライン会議アプリを使ったコミュニケーションが広く浸透している。日本で人気なのは、ZOOM、スカイプ、LINEといったところだろう。

ZOOMとスカイプは海外でもダウンロード数が増加。ファイナンシャル・タイムズが伝えたSensorTowerのデータによると、3月2〜9日週、ZOOMのダウンロード数は約150%、スカイプは約60%ほど増加。

ビジネス向けとしては、CiscoのJabberとWebexの人気が高く、Jabberのダウンロード数は約200%、Webexも約150%の伸びとなった。このほか海外ではGoToMeetingやグーグルMeetなども100%以上の増加となった。

上記アプリのダウンロード数の伸び率はいずれも目をみはるものだが、これらの増加率を遥かに超えるアプリが登場し、欧米ではこのアプリの話題でもちきりとなっている。

そのアプリとは「Houseparty」。上記SensorTowerのデータによると、3月2~9日週でダウンロード数は500%以上増加。とりわけ、欧州各国でのロックダウンを機に、ミレニアル世代やZ世代の間で話題となり、ダウンロード数が爆発的に伸びた。

3月15〜21日週、スペインにおける同アプリのダウンロード数は前年同期比2,360倍、イタリアでは423倍増となった。英国におけるダウンロード数は3月に1,120%増を記録。また3月16日、iOSアプリストアのダウンロードランキングで17カ国で1位を獲得するなど、破竹の勢いでユーザー数を増やしている。

欧米で爆発的な人気となったチャットアプリ「Houseparty」

ファイナンシャル・タイムズが伝えたAppAnnieのデータによると、3月16〜22日週、同アプリのダウンロード数は200万回と前月の週間ダウンロード数である13万回から大幅に増加。PocketGamer.bizなどによると、Housepartyの3月単月のダウンロード数は1,720万回。前月比では2,900%以上の増加になるという。

SensorTowerの最新データでも、Housepartyの躍進ぶりと人気ぶりを確認することができる。米国市場のアプリランキング(無料iOSアプリ)では、3月10日に619位という低位だった同アプリ、およそ10日ほどでトップ10内に達し、その後も上位をキープ。5月8日時点では19位に位置している。

米国における2月10〜5月8日までのHousepartyアプリランキング推移(SensorTowerより)

ビルトインゲームなど、Houseparty人気が爆発した理由

世の中には数多くのチャットアプリが存在するが、なぜHousepartyが海外のZ世代やミレニアル世代のトレンドとなったのか。

1つは、ゲームがビルトインされたエンタメ性の高さだろう。

Housepartyには「Heads Up!」や「トリビアゲーム」などがビルトインされており、チャットルームにいる複数人で遊ぶことができる。

Heads UP!はもともと、米国の人気TVパーソナリティ、エレン・デジェネレス氏がプロデュースしたモバイルアプリゲームで、同氏が司会を務める番組のコーナーになるなど、英語圏では広く知られたゲームだ。

遊び方はシンプル。スマホのディスプレイを、自分が見えないように頭に掲げる。ディスプレイには、単語が表示され、周りにいる人がジェスチャーや説明などでヒントを与え、単語が何なのかを当てさせるというもの。

Housepartyには、このゲームが組み込まれており、最初の数回無料で遊ぶことができる。その後は0.99ドル課金すれば継続して利用することが可能だ。

Heads Up!のイメージ(アップルAppStore、Heads Up!アプリページより)

Houseparty内のHeads Upゲームには多数のバリエーションが用意されており、これも人気の理由の1つになっていると考えられる。たとえば「Heads Up: Animals Gone Wild」では、動物の単語が表示され、その動物をジェスチャーと鳴き声だけで表現しなければならない。このほか、ソーシャルメディアでのトレンドに特化した「Heads Up: #Trending」などがある。

トリビアゲームに関しては、18種類ほどの無料ゲームが用意されている。その中でも曲の歌詞を問うトリビアゲーム「Trivia: Finish the Song Lyrics」などの人気が高いようだ。

またトリビアゲームでは、世界的人気のオンラインゲーム「Fortnite」と連携した企画が実施されたことも若い世代の注目を集めた要因と考えられる。

4月2週目に実施された同企画。Houseparty内の「トリビアゲーム:Fortnite編」でFortniteに関するトリビア問題が出題された。回答期限は4月16日。翌日Housepartyが同ツイッターアカウントで明らかにしたところによると、正解の回答数は2,000万件に達したとのこと。正解者らは、Fortniteゲーム内で、スペシャルアイテムを入手できるという。

Fortnite

このほかにも様々なゲームが用意されているHouseparty。昼は仕事でZOOM、夜はカジュアルチャットでHousepartyと使い分けるユーザーも少なくないようだ。

有名ゲーム会社のHouseparty買収、今後ゲームとの融合も?

Housepartyは、動画アプリスタートアップのLife On Airが2016年9月にローンチしたチャットアプリ。ローンチ直後の2017年1月に「Heads Up!」とのパートナーシップを発表。2017年第3四半期にはユーザー数は2,000万人に達していた。

この頃フェイスブックがHousepartyの買収に興味を示していたものの、独禁法違反などを懸念し、買収を断念したと報じられている。

フェイスブックに代わりHousepartyを買収したのが、Fortniteを開発した米国のゲーム会社Epic Games。2019年6月に買収したが、買収額は明らかにしていない。

近年、オンラインゲーム業界においては、コミュニケーション機能の充実を図る動きが加速している。ファイナンシャル・タイムズによると、専門家らはEpic GamesによるHouseparty買収はこのトレンドと軌を一にするものと見ている。特にFortniteをソーシャルプラットフォームとして維持する狙いがあり、Housepartyのようなコミュニケーションアプリの戦略的重要性は高まっているという。

欧米における一大トレンドとなっているHouseparty。一過性のトレンドなのか、チャットアプリ市場の勢力図を根底から変える存在になるのか、またオンラインゲームとの融合はあるのか、様々な面で目が話せないアプリといえるだろう。

[文] 細谷元(Livit