変わる葬式市場の今「デス・コンシェルジュ」やミレニアル世代プロデュースの新葬式など

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卒業式や入学式、成人式、結婚式など、一生のうちに何度か訪れる「セレブレーション」や「セレモニー」。人生最後のセレモニーは自分が主役でありながら、その場にいることが出来ない葬式だ。年々増えつつある葬儀数。この葬儀にまつわる新ビジネスの潮流にいま世界各地で注目が集まっている。

増える葬儀数、縮小する市場

現在、日本をはじめとする世界中の先進国では「少子高齢化」が急速に進んでいる。深刻な社会問題である高齢化に悩まされているのは、欧米諸国も同様の状況なのだ。

世界全体を俯瞰すると、人口に対して65歳以上が占める割合は70年前(1950年)に5.1%であったのに対して、5年前には8.3%に上昇、さらに今後2060年までに18%を超えると言う試算も出ている。日本では世界平均が8.3%の2015年の時点ですでに26.7%と世界最高水準の高齢化社会であり、先進国の平均17.6%をも大きく上回る。

出典:内閣府HP

少子高齢化にともない、今後増えてくるのが葬儀数だ。飛躍的な革新を遂げた医療で、人生100年時代に突入。長寿を誇る日本だが、それでも100年後には寿命が尽きると考えると、死亡者数は今後間違いなく増え続ける。

年間100万人以上の死亡者があり、厚生労働省の試算では年々増加する数値は2040年にピークを迎え166万人に達するとしている。

数字で見る限り、死にまつわるビジネスは成長株にも思えるが現実はそうでもない。

人々や社会の価値観が変化していく中で、これまでのような葬儀のスタイルに変化が表れているからだ。昔ながらの大勢の人を集めて飲食を伴う通夜、葬式は下火になる一方で、よりパーソナルでシンプルなスタイルを希望する家族(孫子の世代)が増えている。

大規模な葬儀を経験してきたであろう「死ぬ側」の世代にも意識の変化が表れているという。これが「葬儀の数は増えるが、市場(売り上げ)が縮小」するメカニズムだ。

では海外ではどのような動きがあるのか。葬儀ビジネスに注目が集まるアメリカとフランスのケースを見てみたい。

量販店で購入する葬式セット

日本でも知られるアメリカの量販スーパーマーケット「コストコ」の通信販売に、このほど「葬式」のカテゴリが加わり話題となった。

ここで販売されているのは、棺桶と骨壺。海外ドラマや映画の葬儀シーンで目にする、重厚な家具のような棺桶と立派な骨壺のラインナップだ。アメリカでは、棺桶をそのまま地中に埋葬するケースが多いが、葬式は葬儀社が担当し棺桶も用意するのが通例だ。

アメリカで棺桶の価格相場は平均で2,000ドル(約21万5千円)、木目の美しいマホガニー製や銅製のものは1万ドル(約107万円)にもなるものもあり「人生最後の大きな買い物」と揶揄されるほど高価だ。

一方、コストコのホームページ上のラインアップは約900ドル(約16万円)から、最高で1,299ドル(約14万円)とリーズナブル。現在取り扱いの出来る州は限られているものの、中3日で配達可能。しかしながら生前の購入や取り置きは出来ないとして、購入時には利用者(亡くなった人)の氏名などの情報が必須だ。

Costco通販の「Funeral(葬式)」セクション

実はこの通販型棺桶と骨壺は、量販店「ウォールマート」の通販や「Amazon」でも取り扱いがある。導入された当時は、貴重な収入源を失った葬儀社が「持ち込み手数料」を課すという対抗策で、物議を醸したが、法律上「葬儀社は第三者から購入し持ち込まれた棺桶の使用を拒否してはならない」とあり、この問題は解消している。

実際に購入者が「葬儀社と全く同じ棺桶を3分の1の値段で手配出来て、葬儀社を驚かせた。次回もまたこの通販で買いたい!」とレビューを残しているサイトまである。

気の毒なのは葬儀社だが、販売価格が通販よりも割高なのは、突然やって来るその時に、すぐに手配できること、式全体をトータルで取り扱うといった点で、仕方のない出費、として人々が承諾してきたという背景もあるだろう。

なお、コストコで販売中の棺桶は通常の返品・交換のポリシーにも合致しているという。

変わりつつあるアメリカの葬儀

アメリカでは年間270万回の葬儀が行われ、市場規模は200億ドル(約2兆1,600億円)と言われている。団塊の世代が毎年1万人ずつ65歳になる近年、葬儀は成長ビジネスのひとつ。しかしながら、時代が流れ、社会が変わりつつある中でも、過去50年間葬儀のスタイルは驚くことに、ほとんど変わっていない。

半分開いた棺桶に故人を安置し、家族や友人と最後のお別れをする。生前にほとんどかかわりのなかった宗教的人物が訪れ、2,3祈りの言葉を捧げる。堅苦しく、パーソナルでない上に平均で8,000ドル(約86万円)という高価なものだ。

今後この団塊の世代を送り出すのは、ミレニアル世代だ。しかし、代々同じ業者を利用してきたであろう葬儀という分野において、ミレニアル世代になじみのある葬儀社の「ブランド」が存在しない。これを大きなビジネスチャンスと見る向きも多く、この世代をターゲットに式の形態も多様化してきている。

例えば火葬。アメリカでは1970年代にわずか5%だった火葬が2019年には55%にまで増加。今や新しい常識となりつつあり、北アメリカ火葬協会によると2030年までに71%が火葬になると試算している。

その背景は一般的な埋葬と比較して、費用が圧倒的に安くおよそ3分の1に抑えられることと、埋葬の土地や樹木を保護できるという環境保護の一面もある。

同じ埋葬でも、棺桶を使用しない「グリーン埋葬」なるものも19世紀からの潮流だ。遺体を生分解可能な棺桶、またはそのまま埋葬することによって、あとは自然の分解に任せるというもの。

「土に帰る」ことによって、棺桶資材を無駄にしないことや、遺体や棺桶から発生する有毒物質を削減できるうえに、費用は一般的な埋葬に比べると半分で収まる。

そのほか、すべて家族の手で済ませる「家族葬」や思い出の場所で執り行う「ロケーション葬」、あらかじめ計画しておいたボーリング場やサーフィンのスポットなどで遺族や友人たちが「故人が生きていたこと」を祝う「パーティー葬」といったものも登場する。

いずれも「デス(死)・コンシェルジェ」のような専門家がコーディネート。家の家具の整理や、家の売買、葬儀に使用する写真の編集、故人の携帯電話解約、銀行口座の閉鎖などトータルサービスを提供するのが、デス・コンシェルジェの役割だ。

フランスで生まれるスタートアップ

同じく社会の高齢化が深刻なフランスでは、ミレニアル世代が発する新しい葬儀サービスが同世代を中心に支持を集めている。

フランスの国家統計局の発表によれば、2000年に53万人強であった年間死亡者数が2050年には77万人に増加する見込み。2018年に発表された葬儀ビジネス市場は、25億ユーロ(約2,900億円)規模であり、2006年から10年の間に市場は25%成長している。

しかしながら、フランスでも葬儀はコンサバティブかつ、革新的なアイデアを受け付けないビジネスであった。そこにポテンシャルを見出したリヨンのビジネススクールの学生がスタートアップで始めたのがSimplifiaだ。

22人のスタッフで運営されるこのビジネスは、前述のデス・コンシェルジェ同様に、公共料金のアカウントを閉鎖したり、役所や年金の書類手続きを手伝ったりというコーディネーターを務める。

同じようにAdVitam社もスタートアップで、既存の葬儀社とは正反対に「すべてをオンラインで」受け付けている。同社のCEOは自身の父親の葬儀手配の経験から、スタートアップを決心。それは「ややこしくて思いやりに欠ける」プロセスでショッキングな体験だったと振り返る。

平均年齢30歳のSumplifia社 Credit: Maxime Nory

ミレニアル世代が嫌う伝統的な葬儀は、より高価な商品を売りたい葬儀社のセールスマンとの折衝、長時間にわたる葬儀の手続き、同時に故人を想い悲しむ気持ちと、残された家族の世話をしなければならない責任感、役所の書類手続きが一度に押し寄せる。どれだけ手いっぱいの状況に陥るか、経験者にしかわからない。

これを、AdVitam社はすべてオンラインや電話で受け付け簡素化。同社は葬儀に代表者を送り込むが、ほぼすべてがインターネットと電話で解決。伝統的な葬儀社よりも安価で、効率よく、故人の書類手続きや、ソーシャルメディアアカウントの閉鎖も承っている。

AdVitam社は2016年来、1,500件もの葬儀を手掛け、180万ユーロ(約2億1千万円)もの資金を集めヨーロッパの「最強インキュベーター」にも選ばれた。

革新的過ぎると受け入れられない、厚い伝統の壁

教会に併設するフランスの墓地 撮影:Y Posth

フランスでは他にも、葬儀のクラウドファンディングや親族の匂いを元に作る香水の提案、墓石にQRコードを埋め込み、スキャンすると故人の写真や好きな音楽をシェアできるサービスといった、若い人の感覚を活かした、イノベーティブなサービスが生まれている。

ただし、この動きにはまだ業界は懐疑的だ。イノベーションは歓迎するとしながらも、伝統的な産業においてあまりに過激なアイデアは人々から受け入れられにくいとしている。葬儀のビジネスは、最終的にデジタル化するに違いないが、今なおコンサバティブが主流で他の産業よりもゆっくりと進むとの見込みだ。

またフランスにはスタートアップなどの新参者が直面する別の問題もある。それはこの業界の既存の強力な3グループの存在だ。そのうちの1つは市場の20%を占め、積み立て年金を扱うグループでもあり、フランス国内で抜群の知名度を誇る。

また、スタートアップが簡単に参入しにくい、もう一つの原因は、フランスの役所の仕組みだとされている。未だにファックスでのやり取りや、小切手での支払いといった前時代的な作業が行われているため、ミレニアル世代にはその手続きや操作が逆に「難しい」と感じるようだ。

葬儀の将来

社会の価値観が変わりつつあり、ミレニアル世代が葬式ビジネスを作りだし利用する時代になるいま。伝統的な葬儀の価値観を変え、テクノロジーを駆使することによってよりリーズナブルでパーソナルなサービスが提供できると信じている世代と、伝統を重んじる業界や送り出される側の人々。

世界各国で高齢化が進み、日本でも樹木葬やおひとりさま墓、生花葬などとスタイルが多様化している一方で、人手不足や伝統的価値観の崩壊といった懸念事項も絶えない。タブーとさえ思われてきた死の産業に、ゆっくりとした革新の波が押し寄せていることに違いはなさそうだ。

文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit

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