仕事の生産性を高めるためにも、休日を楽しくすごすためにも、質の高い睡眠をとることが重要だという認識が広がっている。しかし、心地よく眠りに落ちて、爽やかに朝を迎えるのは簡単なようで難しい。まして、パンデミックによる生活の変化や不安で眠りの不調を訴える人が増えているという昨今ではなおさらだ。
不眠があまりに長く続く場合や、他にも身体の不調がある場合は、もちろん医療の助けが必要となるのだが、日常の心配事やちょっとしたストレスで、数日間思うように安眠できなくなった、そんなよくある悩みに、健康への関心が高い若い世代を中心に気軽に活用されるようになっているのが、様々な「音声コンテンツ」だ。
なかでも人気なのは、マインドフルネス・瞑想アプリ。瞑想という言葉から宗教的なものを想像する人もいるかもしれないが、ここでの瞑想は、目を閉じて心を鎮め、無心になることだ。瞑想はストレス軽減や生産性向上に効果が高いとして、Googleなどアメリカの有名IT企業が次々と取り入れたことで、ビジネスパーソンの間でも飛躍的に認知度と関心が高まってきた。
そんなマインドフルネスアプリは安眠モードも備えていること多く、このようなポッドキャストならぬ「スリープキャスト」機能を持ったアプリが、このところ次々とリリースされ、各国で人気を博している。
ストレス軽減、生産性向上に役立つとして、世界的に人気となっている睡眠のための音声コンテンツにはどんなものがあるのだろうか。
世界で人気、マインドフルネスを活用した睡眠アプリ
生活に取り入れる人が増えているマインドフルネス・瞑想(PIXABAYより)
マインドフルネスアプリの代表選手には「Calm(カーム)」がある。Calmは現在日本語版が出ていないため、日本にはそれほどユーザーがいないものの、世界的には5,000万以上のユーザーを誇る、睡眠、瞑想、リラクゼーションのための人気アプリだ。リラクゼーション音楽と、自然音、ガイド音声が、ユーザーが瞑想するのをサポートする。
Apple BEST OF 2018、Apple’s App of the Year 2017、Google Play Editor’s Choice 2018など多くの受賞歴があり、瞑想アプリといったらCalmというほどに知名度が高い。
瞑想というと山奥や寺院で修行といったイメージがあるが、下の紹介動画にあるように、Calmを使うことで、日常ちょっとストレスを感じた時に、立ったまま、歩きながらでも、気持ちをリフレッシュさせることができる。
Calmの紹介動画(Calm公式チャンネルより)
Calmには、メインの瞑想コンテンツに加えて、リラクゼーション音楽、ストレッチの動画レッスン、マインドフルネスの専門家によるオーディオプログラム、美しい自然の風景や自然音など多様なコンテンツがあるのだが、特に人気なのが、読み聞かせと雨の音とそよ風の音のような自然音を組み合わせた睡眠モードだ。
人気オンラインゲームの有名声優を起用するなどして、一般利用者だけでなく、ゲームファンからの支持も受けているという。
やはり世界的に人気が高い瞑想アプリに「Headspace(ヘッドスペース)」があるが、こちらにも読み聞かせに加えて、心地よく眠りにつくための瞑想や呼吸のガイダンスのほか、リラクゼーション音楽や身体をほぐすエクササイズなど様々なコンテンツで、ユーザーの眠りをサポートするベッドタイムモードがある。
また、専門家監修のもとデザインされた1,000以上の瞑想・音楽プログラムを備えた瞑想アプリ「Meditopia(メディトピア)」でも、睡眠改善モードは人気コンテンツとなっている。
どのアプリも、日本語対応していないのが残念だが、数年前からトレンドだった瞑想・マインドフルネスアプリに、睡眠のための音声コンテンツブームが訪れていることは間違いない。
幅広い展開をみせる睡眠のための音声コンテンツ
人気が高まる睡眠のための音声コンテンツ(PIXABAYより)
睡眠のための音声コンテンツの人気はアプリだけにとどまらず、ポッドキャストでも専門チャンネルが生まれている。
「Sleep With Me(スリープウィズミー)」は、大人のための読み聞かせポッドチャンネルだ。製作者の幼少期の不眠症体験から生まれたこのチャンネルには、これまでに600を超えるストーリーが用意され、世界中の熱心なファンが新しいストーリーがアップされるのを心待ちにしている。
個人がポッドキャストの配信により収益を得るのはなかなか難しく、それが配信を継続する障害となっているのだが、このSleep With Meにはスポンサーがついている他、グッズ販売、アフィリエイトなどを活用することで、継続的な運営を助けているようだ。
現状、広告収益が中心となっているポッドキャストのマネタイズだが、有料の睡眠アプリがこれだけ人気であることを考えると、睡眠コンテンツはサブスクリプションといった音声コンテンツ有料化においても有力な分野となる可能性を秘めている。
ちょっと寝つきが悪い、そんな時に気軽に使用できるのがメリットの音声コンテンツだが、その効果を科学的に検証する動きも始まっている。
イギリスの国営医療サービスを担う団体NHSは、イギリスにおけるカウンセリングなどの医療サービスへの負荷を減らし、睡眠薬の使用を減らすため、独自の基準で睡眠アプリの認証を始めており、効果のエビデンス、安全性、データ保護、セキュリティ他、ユーザビリティや技術面の要件をクリアしたアプリを、公式ウェブサイトで発表している。
現在は3つのアプリが承認されており、そのうちひとつ、PZIZZはリラクゼーション音楽と読み聞かせによる音声コンテンツアプリとなっている。
寝ていない自慢が過去のものとなりつつある昨今、質の良い睡眠を助けるツールはビジネスパーソンにとっても欠かせないものとなった。
起業家アリアナ・ハフィントンが「成功の鍵とは?もっと睡眠をとりましょう」とTEDでスピーチしてから10年。より良い睡眠のための音声コンテンツのニーズはこれからもますます高まっていくだろう。
文:大津陽子
編集:岡徳之(Livit)