ふるさと納税で地域支援をアップデート。新型コロナで広がる新たな応援のカタチとは

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新型コロナウイルスの影響により、日本のみならず、世界が厳しい状況に置かれている中、「助け合おう」「励まし合おう」という声が、SNS上や様々な分野で上がってきている。

日本の地方にも、そのような運動が芽生えはじめている。 その一つとして注目されるのが、「ふるさと納税」の活用だ。

平成20(2008)年度に導入されたふるさと納税は、所得税を地方自治体に寄付した場合、自己負担額の2,000円を超えた部分について、一定の上限額(年収などに基づいて計算される)までは、所得税や個人住民税から全額が控除されるという制度。

自分の出身地や応援したい地域に寄付できる上、使途を子育て支援にするなど、税金の使い道を自分で決められるという側面もある。

地域の側から見れば、ふるさと納税を集めるためには、地域の取り組みを積極的に地域外にアピールする必要がある。結果として、自治体間での競争が生まれ、地域活性化につながる。

しかし近年では上記のような主旨に反して、高価な食材などの返礼品をお得に入手する手段として話題となり、さらに現金化して納税負担を軽減しようという動きが出てきた。

これを受け、2019年の税制改革では、返礼品は「寄付額の3割以下」の地場産品と定められた。つまりふるさと納税の返礼品として、高額な品や地域の特産品でないものは認められなくなったということだ。

そして全国民が未曾有の危機に直面した今、改めてふるさと納税の意義が見直され始めている。

ふるさと納税の返礼品を紹介する各種のポータルサイトにおいて、新型コロナウイルス対策としての地域支援が始まったのだ。

今回は、参加自治体数がもっとも多く、地域支援に力を入れている取り組みとして「ふるさとチョイス」を紹介したい。

いちはやくコロナ支援策をスタート

ふるさとチョイスは参加自治体数1,500以上、返礼品掲載数は25万点(4月21日時点)と、ポータルサイトの中でもトップの実績を持つ。なお、同様にふるさと納税のサービスを展開している「楽天ふるさと納税」の参加自治体は879(4月17日時点)、「さとふる」は744(3月末時点)である。

全国約1,500自治体と契約を結び、約25万点の返礼品を掲載しているふるさとチョイスのサイト

運営を担うのはトラストバンク。2012年4月、「地域が自立し、持続可能な状態にする」ことをビジョンに設立した。

ポータルサイトとしてはいち早くスタートしたふるさと納税総合サイト「ふるさとチョイス」のほか、ふるさと納税を地域事業の資金調達に用いる「ガバメントクラウドファンディング」の仕組み、ふるさと納税を活用した被災地支援など、地域目線の取り組みに大きな特徴がある。

ふるさとチョイスでは3月4日より、新型コロナウイルスで影響を受けた事業者を支援する「新型コロナウイルスに伴う事業者支援プロジェクト」を開始。大きな反響を得ているという。

「4月1日時点で、同プロジェクトへの寄付が1万件を超え、約1ヵ月で多くの方から応援して頂くことができました。また個別の自治体様に話を伺う中では、ある事業者への寄付件数が平時より10倍近くになったというところもあります。寄付のほか、『いっしょに危機を乗り越えましょう』といった応援メッセージも多く寄せられています」(トラストバンク広報 齋藤萌氏)

災害支援の取り組みで認知度アップへ

同社ではユーザー数などの情報は公開していないが、地域貢献意識が高い人が多いと推定される。お得感を求めてというよりは、「社会のために何かしたい」という気持ちが利用動機になっているようだ。

というのも、ふるさとチョイスは独自の掲載基準を設けており、還元率や換金性などが高いものや、大手企業の商品はお礼品として掲載しないためだ。また、その自治体にお金が落ちない商品も、掲載品からは除外される。

こうした基準を設けているのも、地域支援がサービスの目的だからだ。他のふるさと納税サービスに先駆けて立ち上げたため、軌道にのせるまでにはさまざまな苦労があったようだ。

例えば当時、ふるさと納税はあまり活用されておらず、自治体にサービスのメリットを理解してもらうのに時間がかかった。さらに一般の人にとっても、ふるさと納税の制度が理解しにくく、利用はなかなか進まなかった。

インターネットで申し込めるようになるとようやく認知が広まり、災害支援で活用されるようにもなった。とくに反響が大きかったのは2016年の熊本地震の災害支援だ。

「メディアで取り上げられることも増え、広く一般の方に知られるようになりました。『現地にボランティアに行けない代わりに、少しでも支援になるなら』と、利用してくださる方も増えました」(齋藤氏)

同社では2014年より災害支援を開始し、2016年からは、被災自治体の代わりに他の自治体が寄付を受け付ける「代理寄付」の仕組みを構築。台風や地震など、これまで約30の災害に対し累計66億円超の寄付金を被災地に届けてきた。

また平時では各自治体からトラストバンクに手数料が支払われるが、災害支援では契約の有無にかかわらず被災自治体に無償でプラットフォームを提供する。

23日で1千万円の目標額を達成したプロジェクト

今回の新型コロナ禍に関しても“災害”と捉え、いち早く支援の体制を整えた。

「2月下旬、新型コロナウイルスの影響による事業者倒産のニュースが報道されました。そして2月末には一斉休校。当社では早くから、返礼品を提供してくださっている事業者に大きな影響があるだろうと懸念しておりました。3月1日には自治体や事業者への個別ヒアリングをし、2日にプロジェクトチームを発足。3日に契約自治体1,500以上に事業者支援プロジェクトへの参加を呼びかけました。そして翌4日には支援プロジェクトを開始しました」(齋藤氏)

支援の仕方は大きく分けて3つある。

一つ目は、休校や外出自粛の影響で打撃を受けた、観光や外食産業、給食などの事業者の返礼品をもらうことで支援する方法。注文がキャンセルとなった食材や観賞用の植物、客足が途絶えた観光地の宿泊施設のチケットなどを返礼品として受け取り、事業者の収益支援を行う。

二つ目は、ガバメントクラウドファンディングで新型コロナウイルス対策の取り組みを支援する方法。治療薬やウイルス検出法の研究、学生への減ウイルスマスクインナー配布、医療体制整備などの資金に寄付金をあてる。

三つ目は、自分が受け取るのではなく、誰かのための返礼品「思いやり型返礼品」で、経済的に厳しい子育て家庭に食材を送る方法。給食が停止したことで、子供に食べさせるものがなくなり、困っている家庭に対し、麵、米などの返礼品を寄付することができる。

特に注目されるのが、同社のオリジナルである、クラウドファンディング型の支援だ。

感染拡大阻止を目的とする、佐賀県NPOのプロジェクト。マスクや防護服といった医療物資や、待合室・診察室のためのトレーラー、テントなど医療体制の整備に、クラウドファンディング型で支援する

すでに目標寄付額に達し、終了したプロジェクトもある。最先端技術を用いたコロナ対策を行う神奈川県の事例だ。県が開発や展開を支援してきた治療薬アビガンの治験・臨床研究を国に提案する取り組みや、ウイルスの迅速検出法の開発、AIを活用した情報提供サービスの開設などが挙げられる。

このプロジェクトには返礼品は設定されていなかったものの、大きな期待が寄せられ、3月9日〜31日の間に目標金額を超える1,200万円以上が集まった。

コロナ禍を乗り越え、持続可能な社会への扉を開く

また、これまでの災害支援とは異なる傾向も見て取れるという。ふるさと納税は自治体支援や災害対策など、寄付者が地域を支援するために活用されるのが普通だが、今回は支援を行う寄付者の側もまた、同様に困難な状況に置かれているためだ。

危機に直面する時期には、個人と地域、相互に支援の交流が高まる。

「今回の新型コロナウイルスの感染拡大では、いうならば全国の誰もが当事者です。その中で1万件の支援を頂いたということはありがたく、地域を応援する気持ちや寄付の文化が少しずつ定着してきているのかなと実感します。思いをつなぐことができているということで、改めて支援プロジェクトの意義を感じました」(齋藤氏)

非常事態だけでなく、普段からの取り組みも実を結んできており、地域を元気にしていることも、付け加えておこう。

北海道上士幌町では、ふるさと納税の基金によって認定こども園の10年間完全無料化を実施。また返礼品が全国的に人気を集め、各事業所が加工場を新設したことで、地域に雇用が生まれた。これらにより、13年ぶりに人口増を実現したという。

また2019年には、香川県三木町の地元産品がふるさと納税をきっかけに、売上げをV字回復させた。

支援を地域の未来につなげた、香川県三木町の事例。地域産品の桶がふるさと納税を機に大ヒット。伝統の担い手も地域に呼び戻した。

「桶をつくっている小さな工房でしたが、職人が県の伝統工芸士に認定されただけでなく、東京で働いていた息子さんがお父さんの活躍を見て跡継ぎとして帰省するなど、地域の未来につながる取り組みとなりました」(齋藤氏)

同事例は、トラストバンクが年1回ふるさと納税の優良事例を表彰している「ふるさとチョイスアワード」の2019年総合大賞として選ばれている。

地域支援においては、自分の寄付がどのように役立っているか、経過や結果を知ることも大事だ。

同社ではこうした表彰の仕組みを設けるほか、毎年秋には参加自治体と寄付者が直接交流できる「ふるさとチョイス大感謝祭」を開催している。2019年11月にパシフィコ横浜で開催された第5回感謝祭では127自治体が参加し、2日間で約1万2,000人が来場した。

2019年11月16日・17日の2日間、パシフィコ横浜にて開催された「第5回ふるさとチョイス大感謝祭」。127の自治体と約1万2,000人の来場者を集めた

地域の自立に向けて、同社では引き続きサポートを続けていきたいとしている。

今回の記事では、各種ふるさと納税サイトの中でふるさとチョイスを主に取り上げたが、前述のように、他のサイトでも新型コロナウイルスに関する支援の取り組みが次々にスタートしている。

今は世界規模で、誰もが苦難に直面している状況だ。経済縮小の影響も将来に影を投げかける。こんなときは自分本意になってしまいがちだが、むしろ他者を支援してお金を回すことが、社会を活性化し、全体を潤すことにつながる。そう思えば、この困難は持続可能性の高い理想的な社会に向けての試金石とも言えるかもしれない。

取材・文:圓岡志麻

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