インドネシア発ヒーロー映画に見るアジアZ世代の「Localism」と域内映像産業の可能性

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アジア太平洋地域のZ世代、グローバルな感覚とローカルへの関心

海外の若い世代の間ではどのようなトレンドが起こっているのか、気になる人は多いだろう。

この「海外トレンド」という言葉が日本で用いられるとき、多くの場合それは経済的・政治的・文化的に影響力が強い国々のものである。米国、中国、英国、欧州などがそうだ。

より広い視野で世界を見るには、これら以外の国々の状況も知る必要がある。

Wunderman Thompsonの「Generation Z : APAC」はアジア太平洋地域のZ世代のトレンドを分析したレポートだ。

同レポートは、アジア太平洋地域4,500人のZ世代(1997~2007年生まれ)の価値観や消費動向を分析。地域・国別のZ世代の実態をあぶり出している。

Wunderman Thompsonアジア太平洋部門責任者のチェン・メイ・イー氏はアルジャジーラ紙の取材で、同地域のZ世代の特徴の1つとして「Seamlessness」があると指摘。

ショッピングにおいて、オンラインとオフラインという選択肢があるが、上の世代はそのどちらかの方法を選ぶ二者択一の傾向が強い一方で、Z世代はオンライン・オフラインをシームレスに行き来しているという。

たとえば「アジア発のファッション」を謳うPomeloというアパレルブランドがある。シンガポール、マレーシア、インドネシア、タイ、香港、マカオなどで事業を展開。このPomelo、スマホアプリで試着室を予約できるサービスを開始。試着で並ばずに済むとして、Z世代女性の間で注目されているという。

同レポートはこの「Seamlessness」のほかに、「Customization」や「Inclusivity」など複数の特徴をあぶり出している。その中でも、特に興味をひくのが「Localism」という特徴だ。

物心ついたときからスマホやソーシャルメディアに触れることが多く「デジタルネイティブ」と呼ばれるZ世代。ネットを通じて同世代間でグローバルな共通意識を醸成している。

昨年世界中で数百万人の学生が参加した「スクールストライキ」は、世界中のZ世代の間で気候変動に対する共通の認識・危機感が醸成されていることを物語る現象といえるだろう。


オーストラリアのスクールストライキの様子(2019年3月15日)

このようなグローバルの感覚を持ちつつ、自国の文化を支援・発展させようとするのがアジア太平洋地域Z世代の「Localism」だという。

インドネシア、脱・ハリウッド映画か? 同国発の本格ヒーロー映画が人気

アジア太平洋地域、特に東南アジアにおけるLocalismを代表するのが2019年夏に公開されたインドネシア発のヒーロー映画「Gundala」だ。

インドネシアも他国同様、映画に関しては米ハリウッドやインドのボリウッドなど影響力の強い海外映画に依存し、国内映画産業はほとんど育っていなかった。インドネシアだけでなく東南アジアのほとんどが同じ状況だ。特にそれはCGを駆使したヒーロー系やサイエンスフィクション系で顕著といえる。

しかし「Gundala」の登場と成功によって、この状況が変わる可能性が見えてきたのだ。

経済格差と汚職が蔓延するインドネシア、貧困の中で育った主人公が雷をコントロールする特殊能力を得て、悪行を働く親玉を倒すというストーリー。

プロット自体はよくあるものだが、インドネシア発であり、インドネシアの社会問題を描写していることなど新鮮なポイントはいくつかある。またカラーグレーディング(映像の色彩調整)やVFX(視覚効果)の完成度が高いことも映画の見栄えを高めており、成功要因の1つになったと考えられる。

YouTubeで同映画の予告編を視聴することができる。2019年7月に公開された予告編、その再生回数は1,600万回を超えている。注目度の高さを示す数字といえるだろう。

視聴回数1,600万回超え、インドネシア発のヒーロー映画「Gundala」公式予告編

インドネシアでは「アイアンマン」に代表される米マーベルコミックの映画が人気といわれているが、「Gundala」はそうした米国映画依存を脱する象徴的な作品と捉えられているようだ。

Netflixが人材育成に注力する東南アジア、世界の映像産業のハブになるか?

「Gundala」の映像クオリティを鑑みると、今後東南アジア発のVFX/CGを駆使したハイクオリティなヒーロー映画やサイエンスフィクション映画が増えてくる可能性が考えられる。

このようなジャンルの映画において、CGやVFXのクオリティは映画全体の見栄えを左右する非常に重要な要素。映画のプロットももちろん重要であるが、VFXやCGが「安っぽい」とオーディエンスに臨場感を与えることができず、映画体験を大きく損ねてしまう。

こうしたノウハウはこれまで米ハリウッドが独占していた状況だった。また、ノウハウに加え、CG/VFX映像を制作するソフトウェア/ハードウェア的な障壁も大きく、ノウハウ/資金が乏しい東南アジアの映画製作者には真似ができなかった。

たとえば、ハリウッドのVFX/CG映像制作でよく使われるコンポジションソフトウェアの「NUKE」。購入する場合、最も安いバージョンでも4,988ドル(約53万円)。もう1つ上のバージョンでは9,298ドル(約100万円)だ。

東南アジアの物価水準で見ると非常に高コストだ。もちろんソフトウェアを操作するスキルも必要となり、慣れた人材を雇うのにさらに高いコストを支払う必要がある。またCGのレンダリング(書き出し)には、ハイスペックなパソコンやレンダリングサービスを購入する必要がある。

しかしこの数年で、ノウハウギャップと障壁は大きく縮小。比較的低コストでハリウッド並のCG/VFXを再現できるようになった。

東南アジアの映画製作者も、良いプロットとハイクオリティなVFX/CGを組み合わせることで「アイアンマン」のようなヒット映画を制作することが可能なのだ。「Gundala」はそれを体現したパイオニア的存在といえるだろう。

東南アジアは映像制作人材の育成でNetflixが投資を開始するなど、映像産業のテコ入れが進む地域。Localismの高まりとともに、東南アジア発のハイクオリティ映像コンテンツが増えてくることになるだろう。

文:細谷元(Livit

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