コロナ疲れによる「鬱」や「ストレス」、在宅勤務だからこそ感じるフラストレーション

日本において、新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。

4月7日、東京都など7都府県に対して政府は緊急事態宣言を発令。その後、4月16日に緊急事態宣言の適用地域が、全国へ拡大した。

当初は5月6日までとのことだったが、状況を鑑み、政府は緊急事態宣言をおよそ1か月程度、延長する構えだ。

これにより、現在、多くの人が外出を自粛しリモートワークに切り替えている。

リモートワークは確かに人の往来や交通量を減らし、感染の拡大に歯止めをかけるかもしれないが、その一方、人々の日常的な活動量を減らし、その結果、心身共に不調をきたしている人も少なくない。

特に若い世代は会社や学校に行くという習慣がなくなり、なかには、日中はソファで眠って夕方に目を覚ますという生活を送る人もいる。こうした生活を続けることで、体力が失われて免疫力が低下すれば、新型コロナウィルスだけでなく風邪やインフルエンザにもかかりやすくなる。

株式会社クロス・マーケティングは、新型コロナウイルスが消費者の行動や意識に与える影響を把握することを目的として「新型コロナウイルス生活影響度調査」を実施。全国47都道府県に在住する20~69歳の男女2,500人を対象に、2020年3月から4月にかけて、計3回調査を行った。

それによれば、「自粛することに疲れている」と回答したのは全体の45%。緊急事態宣言前は36%であったのに対し、緊急事態宣言後の4月13〜14日にかけて行った第3回調査では9%上昇している。

また、「自粛ストレスに対する対処法」を尋ねたところ、「掃除」「音楽」「動画サービスの鑑賞」の順番で1〜3位を独占。これに続き、「自宅でできる筋トレやストレッチをする」「散歩・ランニング」の回答が上がった。

現在、全国のフィットネスクラブやトレーニングジムには休業要請が出されている。そのため、普段ならそうした施設を利用してトレーニングに励んでいる人も、施設が休業しているため利用できない。

こうした事態を受けて、急遽オンラインでのトレーニング指導に切り替え、会員の退会防止や収益の確保に尽力しているジムやスタジオも多く、人々のトレーニング場所は、ジムから自宅へと変わりつつある。

だが、現在は休業しているとはいえ、クラスター感染を引き起こした場所として、フィットネスクラブやヨガスタジオに対する社会的イメージは、すでに大幅ダウンしているのが現状だ。

たとえ、ウィルスの感染拡大がある程度鎮まり、フィットネスクラブへの休業要請が解除されたとしても、以前と同じだけの人数がジムに復帰するかは疑問だ。

本人はジム復帰を望んでも、家族からの反対にあい、断念せざるを得ないケースもあるだろうと専門家は見込んでいる。

外ではなく「自宅でフィットネス」、外出自粛によって見直される運動

従来のフィットネスクラブやトレーニングジムが、新型コロナウィルスの感染拡大でピンチに陥っている一方、同じトレーニング関連の事業者で、勢いよく業績を伸ばしているところもある。ライブ配信や動画コンテンツにより、自宅でできるフィットネスサービスの需要が伸びているためだ。

従来のように、フィットネススタジオという“箱”を構えるスタイルではなく、はじめからオンラインでのトレーニング指導やエクササイズメニュー提供に特化した事業者は、明らかに好調なのだ。

たとえば、双方向型ライブ配信フィットネスサービス「ソエル(SOELU)」は、2020年2月以降、コロナウイルスの感染拡大により入会者数が急増。会員全体の約30%が直近1カ月の新規入会である。

ソエル(SOELU) ウェブサイトより

同社のサービスは2種あり、メインはライブ配信によるヨガレッスンなどで、朝5時から深夜24時まで、1日平均100本の授業が行われている。もう一方は、撮影動画の配信であり、隙間時間でも試聴できるよう5分程度の短時間動画から用意されている。

会員数の増加に伴い、今年3月中旬には同社のレッスンの総受講回数は25万回を突破。1月時点と比べてほぼ2倍、成長した。

また、フィットネス音声ガイドアプリ「ビートフィット(BeatFit)」では、2020年2月以降、ダウンロード数と会員数が急激に増加。既存会員のアプリ利用動向も、ランニングマシンなどを使うジムでの利用から、自宅での筋力トレーニングや屋外でのウオーキング、ランニングなどに比重が移動していることからも、ジムの営業自粛を受けて、自宅や自宅近辺でできるトレーニングに対する需要が高まったことがわかる。

BeatFit ウェブサイトより

確かに、こうしたサービスを活用することは、“自粛疲れ”の解消には非常に有益だ。

オンラインによるフィットネスサービスが好調に推移しているのは、何も日本だけの話ではない。世界で一番はじめに新型コロナウィルスの感染が確認された中国では、いち早く外出禁止やリモートワークへの切り替えを実施した。

それに伴い、自宅での運動不足が課題となるや、中国オンラインフィットネス大手の「Keep」は動画共有アプリ「抖音(ドウイン)」でレッスンを配信。

Keep ウェブサイトより

上海にあるオフラインジム「ジャスティンジュリーフィットネス(JustinJulieFitness)」も抖音や「虎牙直播(Huya)」などのアプリでレッスンのライブ配信を開始した。

こうしたオンラインフィットネスは、新型コロナウイルスの影響を受けて急激に成長したが、この先、ウイルスの感染拡大が収束したあとも、オンラインフィットネスに対する需要はますます高まるだろうと見られている。

時間や場所を問わず、また、5分程度の隙間時間でも運動をすることができ、しかも多くの場合、“箱型”のフィットネスクラブへ通うよりも安価だ。

今後、オンラインフィットネスを活用することを考えている生活者にとっては、まさに今がチャンスと言える。「ソエル」をはじめ、多くのオンライフィットネスサービス事業者は、現在、緊急事態宣言による運動不足解消や気分転換のためとして、無料でプログラムを開放している。

また、個人事業主としてパーソナルトレーナーやヨガインストラクターとして活動している人のなかには営業自粛に伴い、YouTubeやInstagramなどを活用し、無料あるいは有料でオリジナルのエクササイズプログラムを公開しはじめた人も多い。

その動画を見ながら自宅でエクササイズに励み、コロナ疲れやストレス解消に役立てているユーザーも多く、「動画を見ながらホームエクササイズをする」ということが以前よりずっと生活に身近なものになりつつある。

今回、その価値や楽しさに気づいた人は、新型コロナウイルスが収束したあともそのペースを継続をすると見込まれており、エクササイズのあり方自体が見直されていくものと思われる。

次なるブーム、最新テック活用の「ホーム・ジム」

日本では、「家でエクササイズする(ホーム・エクササイズ)」の動きが今後も進むと見られているが、アメリカではさらに一歩進み、「家をジムに変える(ホーム・ジム)の動きが見られている。

その代表が、自宅の壁に取り付けられるスマートミラー「Mirror」だ。これは、鏡がディスプレイとなって、自宅にいながらグループレッスンに参加したり、個人トレーニングなどのサービスが受けられるというもの。トレーナーは鏡のなかに映し出され、その様子を見ながらユーザーはトレーニングを行うという仕組みだ。

Mirror ウェブサイトより

Mirrorは本体が1,495ドル、月額使用料が39ドル。さらに個人トレーニングは別途費用が発生し、1回あたり40ドル必要だ。

同様に、一見どの家庭にもある鏡のように見えるが、実は、最新テクノロジーを搭載した「リフレクトタッチ」も話題だ。

ECHELON ウェブサイトより

鏡を通じてさまざまなライブクラスをオンデマンドで受講することができ、クラスの種類はヨガ、ピラティス、コアトレーニング、ボクシング、バレエ、メディテーションなど多彩だ。

本体価格は1,639.9ドルであり、メンバーシップ料金が月額39.99ドル必要になる。

また、エクササイズ・プログラムが搭載されたオールインワンのトレーニングシステム「TONAL」も注目の最新テックだ。

これは、オンデマンドのワークアウトとパーソナルトレーニングが自宅でできる、次世代型の筋力トレーニングマシンで、壁にとりつけるだけで自宅がトレーニングジムに早変わりする。本体の価格は2,995ドル で、毎月のコンテンツ&データの購読が毎月49ドル必要だ。

今後このような、最新テックを活用した「ホーム・ジム」のサービスが、日本でも展開していくのは間違いない。

配信される動画を見ながら体を動かしたり、ダンベルやチューブなどのアナログなギアを使ったりする従来型のオンラインフィットネスではなく、最新テックを活用した「ホーム・ジム」は、品質や価格よりも“体験”を重視するという現在の社会的なトレンドに合致する上、サブスクリプションというビジネスモデルで多様なニーズを効率よく掘り起こすことができる。

しかも、1on1のトレーニングは本人のモチベーションを刺激することができ、さらに、本体に組み込まれたSNS機能を活用すれば、他者と繋がる感覚も持てる。

通常、アメリカのフィットネスブームは3年遅れで日本に持ち込まれると言われるが、新型コロナウィルスの感染拡大を受けて、日本でも“自粛疲れ”やストレスに悩む人が急速に増えている現在、最新テックを活用した「ホーム・ジム」が日本へやってくる時期は早まるか。これからの動きに注目したい。

文:鈴木博子