視聴回数19億回超えのF1も中止・延期に、新型コロナの影響受けるモータースポーツ

ピークは過ぎたようだが、第2・第3波の可能性が拭えず、予断を許さない新型コロナショック。東京オリンピックの延期を含め世界各地では大型スポーツイベントが延期・中止に追い込まれている。

フォーミュラワン(F1)やNASCARなどのモータースポーツも例外ではない。

2020年、F1は過去最高となる22カ所でのレース開催を予定していたが、その半数近くを中止・延期にすることを決定。スポーツ専門チャンネルESPNが公表しているF1レース情報(4月14日時点)によると、3月15日のオーストラリアGPと3月22日のバーレーンGPは中止。4月3日のベトナムGP、4月19日の中国GP、5月3日のオランダGP、5月10日のスペインGPが延期となっている。

また5月24日に予定されていたモナコGPは当初延期となっていたが、このほど中止の決定が下された。このほか6月7日のアゼルバイジャンGP、6月14日のカナダGPが延期、6月28日のフランスGPが中止となっている。

F1グループのCEOチェイス・キャリー氏は、最良のシナリオとして、夏ごろの再開を想定、15〜18レースの実施を検討しているとのこと。ただし、これはかなり楽観的なシナリオに基づいた予測であり、難しいと見る関係者も少なくないようだ。

夏の再開可否に注目集まるF1

F1レースはこの数年、世界の観戦者数が右肩上がりに伸びており、今回の中止・延期は、その成長に水を差す形になる。F1グループによると、2019年のテレビとデジタルプラットフォームを合わせた累計観戦・視聴回数は3年連続の増加を見せ、19億2,200万回に達した。前年比では9%増になるという。

増加が著しいのは、ポーランド(前年比256%増)、中東・北アフリカ(228%増)、ギリシャ(75%増)、オランダ(56%増)、イタリア(29%増)、ドイツ(23%増)など。ユニークユーザー数は世界全体で4億7,100万人。全体では前年比でマイナス3.9%となったが、トップ20市場では0.3%増の4億550万人に増加した。

ニールセンの調べでは、2019年世界27市場におけるF1のファンベースは5億人以上。ソーシャルメディアやデジタルプラットフォームを通じた若い世代のファンの増加が顕著になっている。2017〜2019年の新規ファンのうち62%が35歳以下だった。

リアルの大会中止も、バーチャルで盛り上がるモータースポーツ

今回のF1レースの中止・延期は、世界中の多くのファンを落胆させたに違いない。

しかし、F1をはじめ複数のカーレースが「リアル」の大会中止・延期を発表するのとほぼ同時に、バーチャル空間における大会開催が決まり、違った形でファンの関心を集めている。

3月15日に予定されていたF1オーストラリアGP。中止が決まった直後、eスポーツ企業Veloce Esportsは、オーストラリアGPに代わるバーチャル大会「Not The AUS GP」を同日に開催することを発表。レース当日は現役のF1レーサーや有名ユーチューバーが自宅から参戦し、白熱した競争を繰り広げた。

同レースでの注目株は、英国マクラーレンに所属する20歳のF1レーサー、ランド・ノリス氏。2019年シーズンに19歳でマクラーレンに所属したノリス氏。同チーム初の10代ドライバーが誕生したとして話題となった。

ノリス氏はF1ドライバーであるとともに、YouTubeにも頻繁に動画を投稿するユーチューバーでもある。メインチャンネルの登録者は30万人、F1関連の動画を投稿している。Not The AUS GPではTwitchでその様子をライブ配信、観戦者は最大で17万人に達したという。後日、YouTubeチャンネルにも動画を投稿、82万回以上再生されている。

カーレースファンにとっての嬉しいサプライズはこれにとどまらなかった。Not The AUS GPが開催された直後の3月20日にF1グループがバーチャルGPシリーズの開催を発表したのだ。

延期・中止された大会を代替する形で、現役F1ドライバーらが多数参戦するバーチャルレースを5月まで実施することを明らかにした。このバーチャルレースの結果は、実際のレースのポイントには結びつかないものの、負けず嫌いなレーサーたちによる本気の走りが多くのファンを魅了しているようだ。

3月22日にはバーレーンを舞台にしたバーチャルGPが開催され、YouTubeなどでライブ配信された。YouTubeの再生回数は190万回を超えている。

F1バーレーンGPの会場(2012年4月)

佐藤琢磨氏もバーチャルレースに参戦、eスポーツの印象変わる可能性

北米最高峰といわれるカーレース「IndyCar」も新型コロナによって大会の中止・延期を余儀なくされたが、シミュレーターを使ったバーチャルレース「IndyCar iRacing Challenge」を開催している。この大会も知る人ぞ知る大物レーサーたちが自宅から参戦し、多くのファンの目線を釘付けにしている。

直近では4月18日に栃木の「ツインリンクもてぎ」を舞台に第4戦が行われ、フランスの著名レーサー、サイモン・パジェノー氏が優勝。日本からは佐藤琢磨氏が初参戦し、ルーキー勢の中では最上位となる12位完走と善戦した。

このほかにも米国で人気のカーレースNASCARや電動カーレースのフォーミュラEもバーチャルレースを開催。カーレースを取り巻く状況は大きく変貌しつつある。

興味深いのは、こうしたプロレーサーが参戦するバーチャルレースがeスポーツの文脈で報じられている点だろう。

これまでeスポーツといえば「スタークラフト」などのリアルタイム・ストラテジー・ゲームの対戦を指すことが多かった。そのため、eスポーツはゲームであり、スポーツではないとする主張が散見された。しかし、スポーツとして確立している「カーレース」もeスポーツになり得るとすると、eスポーツの印象は大きく変わることが予想される。

外出自粛・禁止で、人々のエキサイティングなイベントへの渇望は大きくなるばかり。それに伴いバーチャルレースの規模も大きくなっていくのかもしれない。

[文] 細谷元(Livit