社会に出てしばらくすると、どんなに素晴らしい仕事に就いているビジネスパーソンでも「自分はこのままで良いのだろうか」「この仕事を続けて、社会で通用するスキルは磨けているのだろうか」という漠然とした不安を抱えるケースは多い。
これからのキャリアを優位に進めるためにスキルを磨きたいという若者は、10年前と比較して増えているようだ。企業の人材育成を支援する株式会社リクルートマネジメントソリューションズ は、「2019年新入社員意識調査」を実施し、「社会人として働く上で大切にしたいこと」「職場や上司に期待すること」などを公表している。
令和最初の新入社員の「働く上で大切にしたいこと」は、仕事の成果に直結する“スキルや知識の習得”であることが分かった。終身雇用が崩壊し、個の時代と言われる今、自身の武器となるスキルを磨きたいという思いは高まる一方だ。
筆者はこれまでに3,000名を超えるビジネスパーソンから転職に関わる相談を受けてきたが、「スキルを身に付けたい」という思いには2種類の背景があると感じている。1つはこれまでの経験では特別な武器となる「専門性」がないこと。もう1つは、専門性が高すぎるが故に「汎用性」がないと思っていることだ。
春から昇進や転職で新たな目標を持ち、フレッシュな気持ちでいるビジネスパーソンも多いと感じている。そこで、ビジネスパーソンが磨くべき「専門性」と「汎用性」の考え方について話そうと思う。
誰にでもできる仕事はAIに取って代わられるという恐怖
単純作業や接客サービスなど、アルバイトや派遣での雇用も多い領域で仕事をすることは将来を考えると不安だと感じているビジネスパーソンは多い。都心のコンビニやファストフード店では今やほとんど外国人労働者が占めるようになった。飲食店や病院の受付は徐々にシステム化し、販売員の仕事はEコマースが、銀行窓口の仕事はATMやネットバンキングが果たすようになってきた。
社内では昇進の機会に恵まれることもなく、このままではキャリアアップできないという不安から転職を考えるようになる。そしてネクストキャリアでは多くの方が「専門性のあるスキルを磨きたい」「自分に武器が欲しい」と希望している。
しかし、まったく興味がない分野にも関わらず「専門性が高い」という理由だけで仕事を選ぶのはリスクが高いと感じている。また、彼らは本人が気づかないうちに実は最強のスキルとも言える「汎用性」を磨いていることがあるので、その点については後ほど解説していこうと思う。
専門性を身に付けるために勉強した人の末路
「専門性」とは、特定の領域に対する深い知識や高度な技術、職能のことを指す。医師や弁護士といった業務独占資格を取得するのであれば別だが、これから変化のスピードが加速する現代では中途半端な専門性を高めようとすると、10年後、20年後にそのスキルが不要となってしまう可能性がある。
例えば10年以上前は医療事務の資格は女性に根強い人気があり、一度取得しておけば一生使えると言われてきたので多くの女子学生が取得していた。しかし、現在はどうだろうか。病院はネットで予約し受付後にディスプレイに表示される番号と自動アナウンスにより診療を受けられる。診療報酬の点数もシステムが自動計算してくれる。さらには、オンライン診療までも注目されてきた。筆者も処置ごとの点数や計算方式について学生時代に学んだが、今となっては不要である。
また、仕事を辞めて専門学校や職業訓練に通うものもいる。経理や事務職などは、今後どんどんシステム化されていくことが予測されているため、業務設計や意思決定まで出来る人材であれば必要とされるが、与えられたタスクをこなすだけの仕事は沙汰されていくだろう。他にも、顧客を抱える敏腕セールスを除き、単に接客するだけの販売員であればECやAI、チャットボットに置き換わっていく。
最も問題なのは、その専門性を「好きになれなかった」「働き方が合わなかった」といった致命的なリスクが発生することがある。多くの者がその分野を抽象度の高いイメージで捉えており、実際の職務における大変さを理解しないまま職業選択をするため、専門性を磨く前に挫折してしまうのだ。
例えば、航空業界で勤務するCAや教員等はこれにあたる。専門性が高い領域であり、憧れから志願するものが後を絶たない。しかし、2〜3年のうちにその勤務スタイルや過酷さからキャリアチェンジをされる方が多いのも特徴だ。その道で10年、20年と極めれば専門性の高い素晴らしい職業ではあるが、軌道修正がしづらい職種である。
汎用性のあるスキルを磨いておくと、キャリアチェンジの武器になる
しかし、専門性の高すぎる業界から身に付けた「汎用性」を活かしてキャリアチェンジする人もいる。航空会社のCAを例に挙げると、同じ職務に就く人でも、転職で評価されるかどうかには天地の差があるのだ。
例えば、航空会社で勤務するAさんは、目の前のお客様へ最高のサービスを提供できる素晴らしいCAだ。マニュアルに従い、上司の指示に従って忠実に職務を全うしてきた非常に真面目な性格で、欠勤もなく、お客様から度々お褒めの声をいただくため、上司からの評判も良かった。
一方、同じく航空会社で勤務するBさんも、素晴らしいサービスを提供できるCAだ。マニュアルや上司からの指示にはなかったが、顧客満足や会社の業績にもつながると考え機内販売の促進に努めた。どうすれば、よりお客様への購買につながるかを考え、同乗するCAの協力を仰ぎアナウンスの頻度を上げた。また、国際線やファーストクラスへの乗務など次のステップに挑戦するため上司へ懇願し、同期の中で一番にその機会を得てきた。
AさんはCAとして素晴らしい職務を果たせる人ではあるが、それは航空業界のみで発揮されるマニュアルに沿った仕事だ。一方、Bさんはどうすれば顧客や会社へ貢献できるかを最優先に考え能動的な行動ができる。同僚や上司など周囲の人間を動かし仕事をつくっていくことができる人材だ。
Bさんのようなスキルは、営業や複数の関係者間で立ち回るディレクターやプランナー、秘書としても能力を発揮できる汎用性の高いスキルであり、実際に多数のオファーを得てキャリアチェンジに成功している。
自信がないビジネスパーソンは、過去の経験を「大したことがない」と語ることがある。しかし業務の本質を見極め能動的に動くことができていれば、キャリアアップに繋がる経験を詰むこともできたはずだ。
こうした汎用性の高いスキルは、圧倒的な実績を出せるだけでなく、0→1でサービスの企画ができること、課題抽出から改善まで行えること、問題解決能力の高さなど、総括して業界や職種を問わず必要とされるポータブルスキルなのだ。ファーストキャリアで王道エリートの道に進んだ人も、思うような会社に入れなかった人も、転職するときに評価されるのはこういった能力であることから逆転が起こることがある。
今の職場でしか通用しない知識ではなく、汎用性を磨く努力を
今、自分が身につけようとしているスキルはキャリアチェンジするときにいかせるだろうか?もちろん、その職場にいる以上は必要な知識を深め能力を発揮していくことは何より大切なことだ。しかし、会社に敷かれたレールに乗ってマニュアル通りの仕事をしていたら、今後多様化する社会には太刀打ちできなくなるだろう。
「自分はこのままで良いのだろうか」「この仕事を続けて、社会で通用するスキルは磨けているのだろうか」と漠然とした不安を抱える人は、専門性を磨くことを目的とせず、その先に待ちうける未来へと繋がる汎用性のあるスキルを身につけていって欲しい。
2030年、2040年、変化のスピードがどんどん加速していく世の中で、上手くキャリアを転じていけるビジネスパーソンであることが重要ではないだろうか。
文:えさきまりな