コロナ学校閉鎖でゲームを活用した学習コンテンツが増加。マインクラフトは無料公開へ

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世界的な学校閉鎖、教育機会の損失防ぐためマインクラフトは学習コンテンツを無料公開

新型コロナの影響で世界中の学校は閉鎖を与儀なくされている。UNESCOのデータによると、3月23日学校閉鎖措置を実施する国の数は124カ国、影響を受ける子供の数は12億5,400万人だった。

4月15日時点では、この数は191カ国、15億7,500万人に増加。世界全体の就学者の91.3%に相当する数だ。

オンライン学習導入が求められるところだが、リソースが揃っている学校は少なく、多くの学校は実質的に休暇状態になっていることが想定される。

この状況下、子供たちの自主的な学習を促したいと考える親は多いはずだが、ゲームに夢中になっているというのが現実だろう。

しかしゲームは活用次第で非常に優れた学習ツールとなる。大人がうまくナビゲートすれば、普段以上に学習を進めることが可能になるかもしれない。

日本でも人気の高いオンラインゲーム「マインクラフト」。世界的な学校閉鎖を受け、学校に行けない子供向けに学習コンテンツを拡充している。プログラミング、歴史、生物学、エネルギーなど様々なトピックを無料で学ぶことが可能だ。

これらの学習コンテンツは、マインクラフトのマーケットプレイスで入手できる。3月24日、学校閉鎖による学習機会損失の影響を緩和する目的で無料公開された。6月30日まで無料でダウンロードできる。

単なるゲームだから大したことはないだろうと思う人もいるかもしれないが、各コンテンツの質や学習領域を鑑みると、未来の教育のあり方を示す試金石として見て取ることもできるため、侮ることはできない。

たとえば今回無料公開されたコンテンツの1つ「Lumen: City Challenge」。ベルギートップ大学の一角ルーベン・カトリック大学とエネルギー関連研究組織EIT InnoEnergyが開発に携わった本格的なサイエンス系学習コンテンツだ。街づくりを通じて、化石燃料と代替可能エネルギー、汚染、財政収支について学べるようになっている。

無料公開されているマインクラフトの学習コンテンツ「Lumen: City Challenge」

プレーヤーは街を大きくしていくとともに市民の健康や幸福度も高めるミッションを担う。街を大きくするとエネルギーが必要になる。その際、安い化石燃料を選択することで、支出を抑え、エネルギーを供給することが可能となる。しかし、汚染度が高まり市民の健康パラメータは下がってしまう。

代替可能エネルギー源と化石燃料のバランスを取り、エネルギー需給をマッチさせ、財政のバランス、市民の健康を維持させる、多角的な視点を養うことができる学習コンテンツになっているのだ。

また同じシリーズである「Lumen: Power Challenge」は、風力、太陽光、原子力など様々な発電の種類とそれぞれの発電メカニズムを学ぶことが可能だ。

このほかNASAとの連携によって開発された宇宙ステーションについて学べるものや海洋生物学を学べるもの、またプログラミングを学べるものまで多用な学習コンテンツが無料公開されている。

最新テクノロジーやクリエイティブスキルを学べる「ゲーム」、大人の発想転換必須

このところ日本では香川県の「ゲームは1日60分条例」をきっかけに、ゲームに関する議論が白熱しているようだ。

賛否様々あるようだが、「ゲーム」に関する議論をするとき注意すべきは、ゲームと様々な領域の境界線がなくなりつつあること。それを知らずゲーム利用を抑制してしまうと、多くの機会を失ってしまう可能性がある。

たとえば、上記のマインクラフトの事例が示すように、学習ツールとして機能するゲームもある。条例を適用してしまうと1時間しか学習できないことになってしまう。

このほか、ゲームにまつわる境界線の不明瞭化で挙げられるのが「開発と消費」「ゲームとシミュレーション」「ゲームと映画」など。

どういうことか。

かつてゲームといえば、ファミコンやプレイステーションといったコンソール型のものを指し、開発と消費の境界線は明確だった。しかし、ネットとパソコンの普及でその様相は大きく変わった。その変化の1つとして挙げられるのが、比較的容易に消費者も開発者になり得るということ。

かつてゲーム開発には開発企業独自のシステムが使われ、ノウハウを持っていたのも一部の人のみ。ゲーム開発は一般消費者にとっては遠い存在だった。しかし、今ではプロの現場でも使われるゲーム開発エンジンが無料で公開され、ゲーム開発ノウハウを教える動画やウェブサイトも多数存在する。一定スペックのパソコンがあれば、誰でもゲームを開発し、世界市場に向けて発信することができるのだ。

たとえば中毒性が高いといわれ人気を博したモバイルゲーム「フラッピーバード」。インディー向けに無料で公開されているゲーム開発エンジンUnityやUnreal Engine4を使えば簡単に開発できる。

YouTubeでは「Unityでフラッピーバードを3時間でつくる(英語)」という動画が公開され、現時点で122万回以上再生されている。この数字から分かるように、ゲーム開発エンジンを使ってゲーム開発に挑戦する人は少なくない。

「Unityでフラッピーバードを3時間でつくる」(YouTube Renaissace Codersチャンネルより)

Unity自体プログラミング言語C#で構築されたエンジン。ゲーム開発にもC#を用いる。日本でもプログラミング学習が導入されたようだが、プログラミングを学ぶ上でゲーム開発はこれ以上ない題材といえるだろう。

グローバル競争に勝てるクリエイティブ人材の育成という観点からいうと、子供のゲーム利用を1時間に制限するのではなく、1時間ゲーム開発エンジンでのプログラミング学習や好きなゲームの再構築を課す、といった政策のほうが評価されるのかもしれない。

ゲーム開発エンジンは、ゲーム開発の領域を超え、物理・AIシミュレーションや建築デザイン、また映画/映像、アプリ開発、VR/ARなどの分野でも使われているという視点も重要だ。

たとえば、UnityではAIを組み込み様々なシミュレーションができる。YouTubeでは、UnityとAIを使った自動運転システムや信号システムの実験動画が公開されている。物理シミュレーションも可能であり、物理現象の可視化で、物理学を楽しく学ぶこともできる。

一方、映像クオリティに定評のあるUnreal Engine 4は建築デザインや映像制作での利用が増えている。映像制作に関しては、ハリウッドのCGアーティストらがその可能性を見出し、様々な試行錯誤を行っている。また、ハリウッド映画でよく使われるCGソフトウェアとの連携も進んでおり、映像制作ツールとしても大きな進化を遂げているのだ。

こうした視点を持っていれば、ゲームをきっかけとしてAI/科学やクリエイティブスキルに対する子供たちの興味を喚起し、学校閉鎖状態でも自ら率先して学習する状況をつくることができるのではないだろうか。

文:細谷元(Livit

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