パンデミックとフェイクニュース
世界各地で新型コロナに関する様々なフェイクニュースが出回り、人々を混乱させている。
BBCが伝えた英通信・メディア規制機関Ofcomの分析よると、3月23日に始まったロックダウンの1週目、同国インターネット利用者の46%がフェイクニュース/偽情報を見た可能性があるという。この割合は18〜24歳の層では58%に上昇する。
「塩水でうがいをすれば大丈夫」「冷たい食べ物・飲み物を避けるべき」といった誤解を招く情報が出回ったという。
一方Statistaのまとめによると、イタリアにおける新型コロナに関連するオンラインニュースのうちフェイクニュースが占める割合は、1月20〜26日の期間7.3%だった。これらのフェイクニュースが信頼できるニュースに混じって広く拡散された可能性がある。
多くの人がソーシャルメディアをニュースソースにしており、根拠ない情報を簡単にシェアしてしまっているようだ。英ガーディアン紙はこのほど「新型コロナ:なぜ親は多くのフェイクニュースを送ってくるのか」と題したポッドキャストを公開。高齢者がフェイクニュースを拡散しやすい傾向を伝えている。
こうした状況にうんざりしている人は少なくない。特にパンデミックという緊急事態下、信頼できる情報に対する需要は急速に伸びている。
この信頼できる情報への需要の伸びは、ニュースサービスへの加入希望増と実際この数カ月間に起こったニュースメディアの変化に如実にあらわれている。「フェイクニュースの時代」ともいえる昨今、信頼できる情報とそれを発信するニュースサービスの価値を見直す動きが強まっているのだ。
信頼できるニュースメディア需要、世界的に増加傾向
ニールセンが、米国、中国、英国、ドイツ、インド、韓国の6カ国9,100人以上を対象に実施したデジタルメディア消費に関する調査レポート(世界経済フォーラム委託)がある。調査期間は2019年10〜11月と、新型コロナ以前に実施されたものだが、すでにニュースメディアを見直す傾向が示されている。
これら6カ国の平均オンラインニュース/エンタメ視聴割合は96%だった。1週間あたりの視聴時間は平均23.6時間と、1日3時間以上オンラインメディアに触れていることが判明。
ほとんどの人がオンラインメディアを視聴しているが、現状その大半は無料サービスの利用にとどまっている。YouTubeプレミアムなど有料エンタメを利用しているとの回答は44%、有料ニュースは16%だった。
注目すべきは、今後有料ニュースサービスの利用を希望している人の割合だ。現時点の有料ニュースサービス利用割合は6カ国平均で16%。これに対し、この先有料ニュースサービス利用を検討しているという割合は53%に上った。
これは6カ国の平均であり、国ごとの数字は幾分異なっている。今後有料ニュースサービス利用を検討しているとの回答割合が最大だったのは中国。79%が料金を支払ってもよいと回答。これにインド(67%)、韓国(48%)、米国(45%)、英国(41%)、ドイツ(38%)が続いた。
米国、英国、ドイツは比較的低い数字だが、同レポートはこれら3カ国では、16〜34歳の層における有料ニュースサービス利用検討者の割合が55歳以上の層の2倍だと指摘。若い世代における有料ニュースサービス需要が高いことが示された。
CNNユニークユーザー数は過去最高、「堅い」メディアも有料購読者が急増
上記レポートが示す有料ニュースメディア需要の高まりは、パンデミックによる懸念増大と新型コロナ関連のフェイクニュース増によって、一層強まったことが想定される。このことは様々の数字になってあらわれ始めている。
ComScoreのデータによると、ニュース大手CNNでは同サイトを訪れたユニークユーザー数が2020年1月に1億4,800万人、モバイルユーザーが1億2,800万人となり、いずれも過去最高を記録した。
Niemanlabによると、このほかニューヨーク・タイムズが1月に1億1,800万人、フォックスニュースが1億400万人、ワシントン・ポストが9,200万人、デイリー・メールが8,900万人と米国では各メディア、ユニークユーザー数の増加が見られたという。
これらのニュースサイトは、有料・無料のコンテンツが含まれている。全体的にニュースサービス需要が高まっていることは確認できるが、有料ユーザーが増えたかどうかは確認できない。
信頼できるニュースであれば料金を支払ってでも視聴したいという需要の高まりは、米国老舗メディアである「The Atlantic」の購読者数の急増に見て取ることができる。
1857年に政治・社会・経済などのテーマを扱う月刊誌として登場したThe Atlantic。政治情勢の分析などを行う比較的「堅い」印象のメディアだ。
The Atlanticオンライン版のユニークユーザー数は2019年3月時点で3,370万人だったが、今回のパンデミック騒動で急騰。Niemanlabによると、その数は2020年3月、ニューヨーク・タイムズやフォックスに迫る8,700万人に達した。ページビュー数は1億6,800万回以上。特筆されるのは、有料購読者が3万6,000人以上増加したことだ。
The Atlanticオンライン版では月間5記事まで無料で読むことができる。それ以上読む場合は、年間購読が必要となる。選択肢は「オンライン版のみ」「オンライン・紙版」「プレミアム」の3つ。
オンライン版のみの年間購読料は49.99ドル(約5,382円)。オンライン・紙版が59.99ドル(約6,459円)、プレミアムが100ドル(約1万円)といずれも安くはない。しかし、記事の品質に定評がある同誌、信頼できるニュース・情報ソースとして価値が見直され、多くの購読者を呼び込む形となったようだ。
消費、仕事、学習などパンデミックをきっかけとして生活の様々な側面が変化している。メディア消費も例外ではない。ニュースメディアに対する価値見直しはどこまで広がりを見せるのか、またそれによってニュースメディア消費のあり方はどう変化していくのか、その動向から目が離せない。
[文] 細谷元(Livit)