新型コロナウィルスによるパンデミックが長期化の様相を呈している。日本でも「遅すぎる」と海外から批判されながらも4月8日、7都道府県に緊急事態宣言がされ、外出自粛が呼びかけられた。
東京の繁華街は、商店や飲食店がシャッターを下ろし、若者の代わりにネズミの集団が街を駆け回るという恐ろしいニュース映像も流れるなど、これまでにない世界が広がっている。
こうしたなか、テクノロジー化された社会から取り残された、と考えられてきた高齢者や団塊の世代、ジェネレーションXのオンライン利用が増加している。今回のパンデミックは、世界の人々のライフスタイルに変化をもたらすきっかけになりそうだ。
急増するスマホ、タブレットの所有率
このほどアメリカのシンクタンクPew Research Centerが2019年に実施した調査によると、アメリカの団塊世代のスマホ所有率は68%と、2011年の調査時の25%から大きく飛躍し、個人的なタブレット所有率は52%と、半数以上がスマートデバイスを所有していることが判明した。
テクノロジーのリーダー的ユーザーとされるミレニアル世代がほぼ100%スマホを所有し、ネットへのアクセスはスマホ経由が主流である一方で、団塊の世代やジェネレーションXは、在宅や大画面で利用出来るタブレットを上手に使い分けているのだと想像できる。
このようにテクノロジー利用環境の素地が整った状況下、世界的なパンデミック、外出自粛、ロックダウンが次々と発生し、さらなるスマートデバイスの所有や、利用頻度の高まりが注目されている。
パンデミックを背景にオンライン利用増加
新型コロナウィルスの感染拡大により、4月6日現在、世界人口の約半数にあたる39億人超が外出制限対象となっている。社会経済活動や市民生活にも徐々に影響が及び、日本だけではなく世界中で、マスク不足やトイレットペーパーや消毒液、食料品の買い占めやスーパーマーケットでの大混乱など、カオス状態が発生した。
特に日本で顕著だった光景は、毎朝ドラッグストアの店先に出現するマスクを求める人々の行列だ。恐らくこれまでネットショッピングの習慣がなかった人たちも、マスクを探し求めてショッピングサイトにアクセスしたことだろう。日本のネットショッピングではマスクの転売を政府が禁止するなど、異例の措置が取られたほどだ。
しかしながら、今回の騒動によって僻地の住民や頻繁に外出できない高齢者、生活弱者などが、日本で確立されている優秀な輸送網を使用したネットショッピングの便利さや手軽さに気が付くきっかけとなれば、今後大きなムーブメントになるかもしれない。
また、フランスなどの欧州各国では、週末に青空市場で生鮮食料品を生産者から直接買うのが通例であった。しかし今回の外出自粛等の措置により、市場の開催が大幅に中止となり、スーパーマーケットやオンラインでの買い物へと行動が制限されるという、これまでになかったライフスタイルを強いられる人が増えてきている。
今後この行動制限が長期化すれば、オンラインでの買い物が生活に定着し、伝統の青空市場そのものが消滅してしまう可能性すらあり得る。
その点、世界のどこよりもIT化が進んでいると言われている中国は、数歩先を行っていた。感染源として1月23日に封鎖された武漢や湖北省は、封鎖当初「春節」真っ只中、いわば正月に突然都市を封鎖されて移動ができなくなった。
しかしながら、各家庭では春節で集まる予定の親戚や客人に備えて、大量の食糧をすでに準備していたのが不幸中の幸い。
さらに、生活の基本がほとんどオンライン化されていたことも功を奏する。スマホ決済はもちろんのこと、生鮮食料品も生活雑貨も、すべてネットショッピングですぐ届き、出前もスマホで操作すれば人との接触も、会話も不要なのが現在の中国だからだ。
役所の手続きやタクシーの手配、公共料金や電話代の支払いもスマホを使用すれば1秒のうちに完了すると言っても過言ではない。人々はそれまで通りネットショッピングや、オンライン手続きで生活を維持していた。
ちなみに今回の感染拡大のさなか、北京の国際空港や駅では電話番号に紐づけられた個人情報と、健康状態を登録しなければならず、登録後に発行されるQRコードをもってして初めて越境が許された。
また、これまで本人が出向いて手続きする必要のあったビザや、居留許可証なども全てオンラインで申請できるよう驚くべき速さで対応転換していた。
もはや逃れられないテクノロジーへの適応
今回のパンデミックにともない、注目されているのがテレワークだ。在宅でのリモートワークに欠かせないのもこのコミュニケーションツールだ。
従来のEメールやファックスでのやり取り、郵便での文書のやり取りにこだわっていた企業は、今まさに大混乱であろう。特に自分の上司が団塊の世代で、デジタルテクノロジーに疎い人間だったとしたら、今回のテレワークは相当な負担となり、恐らく大多数の日本企業が抱える共通の頭痛の種と察する。
いまや、感染予防のために出社せず、パソコン上でビデオ会議をしたり、グループチャットによる即時即答で話を前に進めたり、ということ基本中の基本だ。
しかしながら、決裁書に捺印をして、書類をファイルキャビネットへ分類して保管する、という形式で歴史を重ねてきた企業や社会では、感染リスクを冒し、公衆衛生を危機に陥らせてまで出社し、手続きをしなければならないらしい。このパンデミックを通して、本当に生き残れるのはどちらの企業か、大きく問われることであろう。
ただ、必要に迫られて、団塊の世代がこうしたコミュニケーションツール、ウェブ会議を使用できるようになり、その使い勝手の良さに目覚めれば、勤務先だけではなく家庭での活用も広がる、というサイドエフェクトもありそうだ。
ショッピングにとどまらない利用増加
今般の新型肺炎に感染すると、最も悲惨なのは親族すらその最期に立ち会えないということ。火葬場にも同行できないばかりか、故人の顔を見ることもなく、ようやくお骨となってから家族の手に渡るという恐ろしさだ。
一方で都会の若者が地方の実家へ帰省したり、富裕層がリゾートにある別荘へと移動したりという動きを控えるよう呼びかけがなされている。フランスでは、パリジャンがこぞって地方の別荘地へと移動し、地方で感染が拡大、村の医療が崩壊するという悲惨な状況も発生している。
精神的にも不安定なうえに、家族のつながりすらなかなか取れない状況で、活躍するのがSkypeやFaceTime、Zoomなどのコミュニケーションツールだ。これまで、こうしたツールにあまりなじみのなかった団塊の世代も、会社での必要に迫られ、基礎知識を取得したことであろう。
元よりジェネレーションX以降が友人や同僚などと利用しているこれらのコミュニケーションツールは、一度我慢強く実家の父母、祖父母に使い方を教えさえすれば、遠く離れていても顔を見ながらの会話が楽しめるという優れもの。
団塊の世代同士で利用しているという話はこれまであまり聞かなかったが、離れて暮らす親子間での連絡に欠かせないツールとなりつつあり、団塊の世代同士でも気軽に利用する日が来ることだろう。
また、これまで好きな時間に好きなテレビをゆっくり見られる団塊の世代に、エンターテイメント系のオンライン登録やサブスクは関係ないと思われてきたが、外出自粛が長引くにつれ動画や音楽配信に興味を示す流れもあるだろう。またジェネレーションXは働き詰めだった日々に、在宅による余裕が生まれ新たなサブスクを考慮する動きもあるだろう。
劇場や映画館が閉館し、カラオケを熱唱できる場も閉鎖している中で、全世代それぞれに向けたエンターテイメント需要が生じている。
ソーシャルメディア時代のソーシャルディスタンス
ソーシャルディスタンスがしきりと呼びかけられている中、ソーシャルネットワークに没頭していた若者たちの生活には、さほど影響がないと思われてきた。しかしながら、学校に行けず、友だちにも会えないとなると、焦燥感にかられるようだ。
インスタグラムの「ライブ」機能を使う人が爆発的に増え、アプリを開くと同時にいくつもの「ライブ」が繰り広げられていることや、日本では外出自粛が呼びかけられる中、若者が依然外出する動きがしばしば問題になっているように、若者が人とのつながりを求めている。
皮肉なことにソーシャルディスタンスが、ソーシャルメディア世代にも試練を与えているのだ。
ジェネレーションXと団塊の世代には、新たなテクノロジーを習得しなければ生き残れないほどの試練を与えている今回のパンデミック。世界各国でのライフスタイルがどのように変化していくのか、パンデミックの終息を祈りつつ世界が注視している。
文:伊勢本ゆかり
編集:岡徳之(Livit)