銀座の一等地でダイニングをシェア —— シェフのためのコワーキングスペースで生まれる新たな飲食ビジネス

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近年さまざまなサービスで活用されているシェア、サブスクリプションといったアイディアが、飲食業界においても利用され始めている。以前記事で紹介したTABETEなどは、フードシェアリングのサービスに含まれるし、レストランという“場”のシェアも考えられる。

ただし新しい試みであるだけに、まだまだ模索中といった段階のようだ。

2017年11月からサブスクリプションサービスを開始したのが野郎ラーメンで、こちらは好調のよう。焼肉の牛角は、2019年10月に導入するも、希望者が殺到しいったん中止。3月2日から再び試験的に始められた。

今回ご紹介するre:DineGINZA(以下、リダインギンザ)も、そうした飲食の新たなカタチを追求しているレストランだ。

運営を担うのはグルメメディアのfavy(以下、ファビー)。本業の傍ら、自ら飲食店を経営するほか、飲食業界の活性化や若手シェフの支援となる事業にも手を広げている。2018年12月に立ち上げたレストラン、リダインギンザのコンセプトは、「シェフのためのコワーキングスペース」だった。

re:DineGINZAは銀座並木通りに面したビルの9階に店を構える

イメージしたのは、AKB48の総選挙

同店が他の飲食店より少し変わっている点は、キッチン内に5つのブースを設け、それぞれ異なる料理ブランドを背負う5人のシェフが専用で使えるようにしていること。

客席はオープンなので、レストランの客はどのブランドの料理でも注文できる。同社飲食店事業部の高井佐和子氏は、当初の狙いについて次のように説明する。

「独立を考えているシェフや、レストランのスーシェフ(2番手のシェフ)に、銀座の一等地で自分の力を試してもらう場としてスタートしました。5人のシェフに3ヵ月単位で出店してもらう。食事後、お客様に気に入った料理に投票してもらい、最初と次の3ヵ月にわたって1位を獲得したシェフが独立支援を受けられる。最下位の店は別のシェフと入れ替わってもらいます。AKB48の総選挙のイメージです(笑)」(ファビー 高井氏)

シェフにはそれぞれ10万円の初期費用と、店に入るシフトによって異なる月額数万円の場所使用料を支払ってもらう。

つまり、レストランの厨房、客席、スタッフといったスペースと人員のシェアにより、短期間ではあるが安い費用で銀座の一等地に自分の店を持つことができる。同時に、人気投票というシビアな評価のもと切磋琢磨するとともに、銀座という立地特性や客の反応を見て、即座に柔軟に対応していく力を養うことができる。

「ただ、実際にはこちらが考えた通りには運びませんでした」(高井氏)

一つには、実際に応募してきたシェフが、想定のシェフ像とは異なっていたこと。すでに独立開業している人が2店目として利用したり、銀座で新しい顧客を開拓するために応募してくるなどが多かったそうだ。当初の狙いである、若手の支援とは大きくずれる。

またそれぞれコースで提供するスタイルのシェフだったために、「いろいろなブランドの料理から選べる」という客側のメリットであり、同レストランの目玉であった特徴も感じにくくなってしまった。

人気投票という数字による評価も、うまく受け止めて成長につなげられるかと言うと、シェフ自身の心情として難しい部分が多かったそうだ。

これまで15名ほどのシェフに利用してもらったが、結局、1位獲得のシェフに対する独立支援に関しても、利用がないままになっている。

「1年間を通した実施から、もっとシェフ一人ひとりに対し、ファビーからのケアとフィードバックが必要ということが分かりました」(高井氏)

個性的かつ多彩なブランドが競い合う

こうした課題を踏まえ、現時点ではランチとディナーをそれぞれ違うシェフに受け持ってもらうというスタイルに変更。このようにコワーキングとシェフ支援の仕組みは残しつつ、さらにサブスクリプションというシステムを実証実験中だそうだ。

現在同レストランを舞台に展開しているのは、台湾茶舗、鯛骨拉麺鯛、Hombino、SMART SARADA FACTORYなど7つのブランド。なお、うち4ブランドはファビーが運営している店舗だという。

台湾茶舗はタピオカミルクティーで人気が高まったキッチンカーが前身の実店舗。火〜土のランチ・カフェ時間帯を担当する。台湾の茶葉を使った本格的なタピオカミルクティーはもちろん、炭焼き烏龍茶、高級茶として知られる高山茶などを揃える。ルーローハンや角煮なども本場の味で楽しめるそうだ。

台湾茶舗の人気メニュー、ルーローハン(favy提供)

ディナータイムでは、鍋ごと蒸し上げたホンビノス貝をたっぷり味わえるhombino(ホンビーノ)が人気。素材からして実験的な雰囲気が強く漂うものの、食べて見ると白ハマグリに似たうまみの濃い味だそう。西京味噌、濃厚きのこクリームなどテイストが25種類と幅広いことも好評の理由だという。

29ON(ニクオン)は完全会員制の焼肉店で、低温調理など肉の新しい調理法を追求するブランド。こちらもファビーの運営による。

「2016年からスタートしたサービスで、会員制ということが付加価値になっています。年会費をお支払い頂き、同伴者も含めておまかせコースをご注文頂けます。年会費や料理の価格は店によっても違うのですが、値段以上の料理を楽しんで頂けます」(高井氏)

なお、29ONは銀座店を含め現在4店舗。会員の追加募集が出た場合はクラウドファンディングにて発表される。

その他、銀座という立地もあり、ディナータイムにはお酒に合う料理の注文が多い。カナダ産のハイライフポークを使用したプレートがおすすめだそうだ。

ハイライフポークは、食肉メーカーからの「ブランド豚の知名度をアップしたい」という依頼を受けて提供しているものだそう。

そのほか、なぜか外国人の間で口コミで広まっているのがパフェだという。「インスタ映えでどれだけ客を呼べるか」をコンセプトに原宿で出店したブランドだが、予想外の好評を得たため、リダインギンザで提供し始めた。

なぜか外国人客を呼ぶCOISOFのスイーツ。

サブスクリプションの訴求力

このように、リダインギンザでは、それぞれが個性的なバラエティに富むブランドを一つのレストランで楽しめる。常に何かしら新しい試みが繰り広げられている、雑多とも言える活気が大きな魅力とも言える。

ただ多彩なあまり、一つの店舗として知名度を考えた場合は、印象がぼやけてしまうのが難かもしれない。一定期間でブランドが入れ替わるのも、客にとっては分かりにくい。

その点で、分かりやすくキャッチーと言えるのがサブスクリプション方式だ。この方式を導入しているのは、ランチのサラダビュッフェ、とディナーのワイン飲み放題。日に1回、毎日利用できるというもので、ランチ時間帯のサラダビュッフェは月額5,400円、ワインは月額4,800円だ。

サラダのサブスクリプションは口コミで評判が広がり、非常に好評とのことだ。ランチ時間帯の来店動機としても有効に機能し、日に200〜250名の客が訪れるという。同店は席数120なので、ランチ時間帯にほぼフルで2回転している計算になる。

「ディナータイムに関しては、お酒が好きな人に対しては、さらに食事をして頂けるので+αのメリットがありますが、飲まない人の来店動機となり得るものが必要です」(高井氏)

なお、ワインのサブスクリプションは3月末でサービス終了。代わって、会員制の「角打ち」(日本酒の飲み放題)をスタートする。いろいろな味わいの日本酒を楽しめることがコンセプトで、通常角打ちというと立ち飲み業態がイメージされるが、同店では椅子に座ってゆっくりと味わえる。

実はファビーはサブスクリプションにかけては業界内でも早い時期に着手。2016年からスタートした会員制カフェによって実績とデータ、ノウハウを積み重ねてきているのだそうだ。

「サブスクリプションは今、いろいろな業界で取り入れられるようになっていますが、飲食で成功させるのは案外難しいと思います。もとのビジネスのスタイルと、サブスクリプションの形式が合致していない場合はもとがとれなくなってしまうことも考えられます」(高井氏)

ファミリーを対象とした焼肉などはその顕著な例だそうだ。同社ではこの蓄積したサブスクのノウハウを、飲食店に提供するビジネスも行っている。

このように、リダインギンザは「流行っているレストラン」という紹介の仕方はできないが、「ここに行けば食の最先端が分かる」という意味で興味の尽きないレストランと言える。飲食業の新たな働き方を模索している人にとって、刺激的な場なのではないだろうか。

取材・文:圓岡志麻

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