新型コロナで「大学オンライン化」促進の可能性、学校閉鎖で3億人以上に影響が出たインド

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国境封鎖、オフィス・モール・学校を閉鎖したインドの状況

3月27日、米国の新型コロナウイルス感染者が8万5,653人となり、中国を抜いたとして各国メディアが報じた。3月初旬、米国の感染者数は数百人だったが、この1カ月で指数関数的に増加。ピークの時期も不透明で、懸念が広がっている。欧州でもイタリア、スペインを中心に状況は深刻化している。

米国、欧州に比べ絶対数は少ないが、アジアでも感染者増加カーブはまだ緩やかにはなっていない。ジョンズ・ホプキンズ大学のまとめによると、3月27日時点、東南アジアで感染者数最多はマレーシア。その数は2,031人。宗教行事による集団感染が発覚した3月15日頃から1日100人前後で増加している。

非常事態が宣言され、外国人の入国ができなくなったタイでも3月15日頃から感染者は100人前後で増加し、現時点で1,000人を超えた。

人口13億5,000万人を抱えるインドの状況も気になるところだ。

インドの感染者数は727人、死亡者は20人。絶対数は少ないが、感染者増加カーブは依然緩やかにはなっていない。

インドの3月27日までの新型コロナ感染者数推移(ジョンズ・ホプキンズ大学、特設サイトより)

インドは2月28日に、日本と韓国の両国民に対する到着ビザ発給を停止。また日韓に加え、イタリアとイラン国民に対しオンラインのビザ発給をとめた。

これに続き3月13日には、全ビザの効力を停止(外交、就労を除く)。実質的な外国人観光客の入国禁止に踏み切った。この措置は4月15日まで続く。

また3月18日には、入国禁止措置をインド国民にも拡大。英国、トルコ、欧州全域からの渡航者は、インド・パスポート保持者であっても入国できなくなった。3月末まで実施される予定だ。

さらに3月22日には、3月29日までの予定で国際線定期便の発着を停止。この措置はこのほど、各国の感染拡大を受け4月14日まで延長されることが決まった。

インド・ムンバイのチャトラパティ・シヴァージー国際空港の様子(3月21日)

学校閉鎖で小中高2億8,000万人に影響、オンライン学習利用者急増

この状況を受け、インドでも他国同様にオフィスやショッピングモール、学校を閉鎖する社会距離戦略が導入された。

インド・デリーでは3月初旬頃から学校が閉鎖。3月末まで実施される予定だ。他州でも学校は閉鎖され、その範囲は全国に及んでいるようだ。

UNESCOの学校閉鎖マップでもインドは全国範囲の閉鎖に分類されている。影響を受ける子供・学生数は3億2,000万人に上る。内訳は、小学校前が1,000万人、小学校が1億4,300万人、中高が1億3,300万人、大学・専門学校が3,400万人。

学校閉鎖は3月末までといわれているが、閉鎖の延長もあり得る。一方、この時期はテスト期間であり、なんとかして自宅で学習を進めたいという学生は少なくない。

このところインドでは、様々なEdTech企業の登場によりオンライン教育の普及が進んできた。今回の新型コロナによる影響で自宅学習需要が急増、オンライン学習プラットフォームの利用者が爆発的に増えている。

「インドのシリコンバレー」と呼ばれるバンガロール発のVedantu。ライブ・チューターサービスを売りにするEdTech企業だ。ユーザー数は1,500万人。

同社バムシ・クリシュナCEOは地元紙Economic Timesの取材で、今回の新型コロナの影響で、登録者増加率が通常の10倍に跳ね上がったと述べている。特に大学の共通入学試験であるJEEやNEET(日本のセンター試験に相当)の対策コースでの増加が顕著という。

Vedantuウェブサイト

また1,000万人以上のユーザーを抱えるTopprでも学校閉鎖でユーザーが急増。3月のライブ授業参加者は前月比で100%増加したとのこと。

このほか、評価額80億ドル(約8,800億円)以上といわれるEdTechユニコーンのByju’s、また国内最大を謳うUnacademyなども広告施策を増やし、需要の取り込みを加速させている。

学生だけでなく社会人のオンライン学習も増加している。インドでは通勤ラッシュによる交通渋滞がひどく、何時間もかけて通勤する人は少なくない。

在宅勤務に移行したことで、通勤時間分の余剰ができ、その時間をオンライ学習でのスキルアップに役立てようという社会人が増えている。英語のオンライ学習プラットフォームSimplilearnでは、3月に入りサイバーセキュリティ、DevOps、AI、データサイエンスの登録者が15%増加したという。

新型コロナで、インドの大学オンライン・フルディグリー・プログラム創設の動き加速する可能性

EdTechへの投資拡大に加え、新型コロナによる学校閉鎖は、オンライン教育機運を高めている。これに伴い、インドの大学のオンライン化が一気に進む可能性がある。

インドでは2018年頃から大学のオンライン化議論が本格化。2018年5月には、インドの高等教育当局であるUniversity Grants Commision(UGC)が、大学のオンライン・フルディグリー・プログラムに関する新規則を承認。その後国内大学におけるオンライン経由のフルディグリー・プログラムに関する議論が活発化している。

これまでも大学はオンラインコースを提供することができたが、プログラム全体の20%に限られてきた。これが100%になる。

インドは大学入学者率を高めたい思惑がある。UGCは、大学でのオンライン・プログラムが増えることで、18〜23歳の層における大学入学者率を2018年の25%から2020年には30%に高めることが可能になると予想している。

この割合は、2012〜13年は21.5%だった。また、2035年には50%に高めるという目標を明らかにしている。現在大学に通う学生数は3,400万人ほど、これが2倍増加する計算になる。

このインド政府の決定に、CouseraやedXなど米国のオンライン学習プラットフォームが興味を示しているとの報道もなされている。新型コロナによるオンライン学習機運の高まりがこの動きを促進させるシナリオは十分にあり得るだろう。

新型コロナをきっかけに大きく変わる世界各地の教育事情。インドを含め各国の状況から目が離せない。

[文] 細谷元(Livit

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