変化を求めるミレニアル世代ミッドキャリア人材、高給から最低賃金になってもインターンシップをする理由

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ミッドキャリア+インターンシップ=「ミンターンシップ」

日本でもすっかり定着した「インターンシップ」という言葉。もともと医療分野で使われていたものだが、現在では企業、NGO、政府機関などさまざまな分野で使われるようになっている。

インターンシップは実務環境で学ぶことを意味し、新しい知識・スキルを効果的に習得することができる。求職者にとっては面接でのアピールポイントに、企業にとっては有能な候補者を選定する手段になる。

多様なインターンシップ・プログラムが登場しているが、そのほとんどは就職活動中の大学生を対象にしたもの。

一方、海外では20代後半〜30代のミッドキャリア人材のインターンシップが増えているという。仕事における目的と変化を求めるミレニアル世代。上級役職や高給を捨ててまでも、インターンシップから始め、新しい職業に就く人が増加中というのだ。

ミッドキャリアにおける新しいスキル・知識習得というと、日本では大学院進学や資格取得という手段が一般的で、インターンシップから始めることを考える人はほとんどいないだろう。そもそもミッドキャリア向けのインターンシップ・プログラムを提供する企業や機関がなく、選択肢に入らなのかもしれない。

BBCは、このミッドキャリア人材のインターンシップ・トレンドを「Minternship(ミンターンシップ)」と呼び、特集記事を公開。その記事はLinkedinなどで大きな反響を呼んだ。

同記事では、ミンターンシップを行った複数人の事例を紹介している。

メキシコの大手複合企業で働いていた32歳の男性は、ビジネスクラスでの出張や手厚い手当など大手企業ならではの優遇された環境にいたが、今はその地位を捨てスペイン・バルセロナのテックハブでインターンとして働いているという。

月給は500ユーロ(約6万円)と、現地最低賃金の半分以下。出勤にはかつて社用車を利用していたが、今では電車代を節約するためにローラーブレードで通勤しているとのこと。世の中に何かインパクトを与えたいと考えバルセロナの大学院に進学。大学院のプログラムの一環でインターンシップを実施している。

同記事では、ロンドンの広告代理店でインターンをしている34歳女性の事例も紹介。この女性は、大手IT企業のマネジャー職に就いていたが、一念発起し、広告代理店の門を叩き、ミンターンシップを開始。

IT企業時代には、高額給与を得ていたが、ミンターンシップでは最低賃金となり、金融街シティ近くの高給住宅からハックニーのシェアハウスに引っ越した。お金をモチベーションとする働き方から幸福を求める働き方にシフトしたことは、この女性の人生で最も良い意思決定になったとのことだ。


ロンドン・ハックニー地区

このほか、ウォールストリートの金融会社を辞めミンターンシップに従事する女性や貿易会社からミンターンシップを通じてスポーツライターになった男性の事例が紹介されている。

ミレニアル世代が「ミンターンシップ」に注目する理由

BBCの「ミンターンシップ」記事は大きな反響を呼び、さまざまな企業やメディアも同テーマの記事を公開している。

米国の企業レビューサイトGlassdoorは、なぜミレニアル世代の間でミンターンシップが増えているのか、その理由を探る記事を公開。理由の1つとして、他の世代と異なるミレニアル世代の仕事観を挙げている。

たとえば、団塊の世代では1つの職に定年まで従事するというのが一般的であったが、ミレニアル世代は働く意味と幸福を見いださせるのであれば、1つの職に固執する必要はないと考える傾向が強いという。

また変化にオープンであり、それをポジティブに捉える傾向が強いのもミレニアル世代の特徴だ。

BBCの記事よると、「ミレニアル世代」という言葉を作り出したニール・ハウ氏は、ミンターンシップをミレニアル世代のコアバリューを表現するものであると指摘。変化にオープンで、新しいスキルを学べる環境やメンターを持つことに価値を見出しているという。

一方、1つ上の世代であるX世代では「インターン」と呼ばれることに侮辱感を覚える傾向があるとのこと。

英語メディアFastCompanyもBBCのミンターンシップ記事に呼応し、米国などでのミンターンシップ事例や専門家の意見を紹介している。

その中で、人材マネジメント・ソフトウェア会社HiBobのCEO、ロニ・ゼハビ氏は興味深い議論を展開している。

ゼハビ氏によると、ミレニアル世代やZ世代など今日の若い人材の中で、キャリアトラックを求める人は少ないという。求めているのは「経験」と「学びと発展」であり、これが新しい仕事を探すときの最大条件であるというのだ。

オンラインコースなどで新しい知識やスキルを学ぶことはできるが経験がともなわない。一方、インターンシップでは、メンターやコーチのもとで経験を得ながら、実践で使える新しい知識・スキルを習得することができる。ミンターンシップが注目される理由はここにあるという。


メンターからの学びを重視するミレニアル世代(写真はイメージ)

ミンターンシップの欠点?

ミンターンシップには、賃金が下がったり、ライフスタイルをダウングレードしたりといった欠点がある。FastCompanyの記事では、このほかにもいくつかの欠点が指摘されている。

人材会社WinterWymanのパートナー、ニコレット・ディグラシ氏は、チーム内での年齢に関する違和感が発生する可能性を指摘。30代でミンターンシップをする際、上司が自分より若いという場合が多く、お互いに違和感を感じることになる。しかし、そのような違和感は一時的なもので、すぐに解消できるとも述べている。

賃金が下がるという欠点も見方を変えると、それほど大きな欠点にはならないかもしれない。たとえば、大学院に進学するか、ミンターンシップをするか、という二者択一の場合、大学院進学は学費がかかり、フルタイムの場合収入はゼロになってしまう。

一方、ミンターンシップでは、少ないながら給与が支給され、かつ実践経験を積むことができ、転職を優位に進められる可能性が高まる。

流動化する世界の労働市場では、今後もミンターンシップのトレンドが強まっていくことが考えられる。新しいことに挑戦したいミッドキャリアの人々はこのミンターンシップを次のステップのリストに入れてもよいのではないだろうか。

文:細谷元(Livit

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