クルーズ売上高はマイナス40%以上、新型コロナの米国・欧州の観光産業への影響
欧州と米国における新型コロナウイルス感染拡大に歯止めがかからない。
ジョンズ・ホプキンズ大学の3月26日時点のまとめによると、世界中の感染者数は47万人を突破。最多は中国の8万1,726人だが、イタリアでこの数日感染者が急増し、7万4,386人に達した。米国も6万9,018人と7万人に迫っている。このほかスペイン4万9,515人、ドイツ3万7,323人など。
これ以上の感染を防ぐため、世界各国は渡航制限や入国規制など移動制限措置を導入。BBCの3月19日時点のまとめでは、移動規制を実施している国は世界100カ国以上に上るという。
この状況下、世界各地の観光関連産業は大打撃を受けている。特に海外旅行者に依存している観光地の損害は甚大だ。ホテルや航空サービスはキャンセルが相次ぎ、この先の見通しがたたず、大規模レイオフを実施する企業も続出している。
米国では、ホテル大手マリオットホテルがレイオフに踏み切る。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、マリオット・インターナショナルは新型コロナによる影響が2001年の同時多発テロとリーマン・ショックを合わせたよりもひどくなっているとし、レイオフを実施するという。
米国の観光産業の事態が深刻化していることは、消費者支出データに如実にあらわれ始めている。
消費者のクレジット/デビットカード利用分析企業Earnest Reserachのデータによると、米国オンライン旅行代理店の売上高は1月9〜15日に前年同期比で7.2%増、23〜29日も7.6%増と好調だったが、2月20〜26日に事態は急変し、マイナス7.4%を記録。
その後、2月27〜3月4日にマイナス19.6%、3月5〜11日にマイナス25.2%と悪化の一途をたどっている。
ホテルの売上高も1月16〜22日に11.3%増となり好調だったが、3月5〜11日にマイナス10.1%に落ち込んだ。
売上高の落ち込みが最も深刻なのがクルーズサービス。1月23〜29日に10.7%増を記録したが、2月20〜26日にマイナス9.9%、2月27〜3月4日にマイナス21.2%、3月5〜11日にマイナス49.3%と壊滅的な状況となっている。空港サービスも3月5〜11日にマイナス32.2%を記録した。
一方、アナリティクス企業ForwardKeysによる分析では、欧州の入域制限によって域内航空業界は今後4万8,200便、約1,020万席が影響を受けるとのこと。
航空会社別で見ると、エアフランスが81万席以上、ルフトハンザが57万席、エミレーツが54万席、KLMが50万席。Wizz Airが46万席など。欧州連合は3月18日、30日に渡る入域禁止を決定。域内全体が事実上の封鎖状態になっている。
新型コロナ、世界全体の観光産業に影響、7,500万人の雇用が危機に
観光産業の損失が拡大してるのは米国と欧州だけではない。観光産業の伸びがこのところ世界の中でも突出していたアジア太平洋地域における影響は、米国や欧州を超えるものだ。
世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)は3月25日、最新情報を考慮した世界観光産業の損失予測を発表した。
それによると、2020年新型コロナウイルスが世界の観光産業にもたらす損失額は2兆1,000億ドル(約231兆円)に達し、世界全体で7,500万人以上の雇用を脅かす可能性があるという。
地域別で最も影響を受けるのがアジア太平洋。影響を受ける雇用数は4,870万人に上る。域内GDP換算では実に8,000億ドル(約88兆円)の経済損失に相当。
一方他の地域では、北・中南米1,020万人、欧州1,010万人、アフリカ440万人、中東180万人となっている。WTTCは2週間前にも影響を受ける雇用数の予測を行っていたが、最新の予測はそれを50%上回る数値。
世界GDPに占める観光産業の割合は10.4%。成長率はこの8年間、世界経済を上回るものであった。その成長エンジンだったのがアジア太平洋地域の観光産業。その分コロナショックによる影響も大きくなることが予想される。
観光大国タイ、非常事態宣言で外国人の入国禁止、2020年はマイナス1,000万人のシナリオも
アジア太平洋地域の中でも特に観光産業への依存度が高いタイ。2020年は4,000万人以上が訪れると予想されていたが、新型コロナの影響により、その数は大きく減少することが見込まれる。
タイ観光庁(TAT)は、新型コロナ感染拡大が早期に収束しないという最悪のシナリオの場合、2020年の観光客は3,000万人にとどまるとの見解を発表。一方、早期収束が実現するなら、3,420万人になると予想。タイへの観光客は1月25〜2月29日の期間、すでに前年比マイナス40%を記録。この減少分のうち、81%が中国人客だという。
TATが予想するベストシナリオは、3月末までに感染拡大が収まり、4月に海外旅行者数が底を打ち、5〜7月にかけて回復するというもの。一方、底打ちの時期が5月にずれ込む場合、回復は9月まで遅れる可能性があるという。
タイ観光業への打撃はすでに深刻なものになっており、政府は支援策を打ち出している。しかし、地元メディアによると、実際に支援を受けている企業は少なく、すでに5,000社が廃業/業務停止に追い込まれている。タイ観光部門の労働者は400万人。3月はその半分が給与を受け取れない状況にあるという。
3月26日、タイは全土に非常事態を宣言。4月30日まで陸・海・空路すべてで外国人の入国を禁止する。駐在者は健康証明書の提示で入国できるようだが、旅行者は入国できなくなった。
新型コロナ対策では社会距離戦略が有効だ。海外からの旅行者を遮断し、国内で不要不急の外出を自粛させることができれば、新たな感染は発生しない。今後、タイ国内で社会距離戦略を徹底できるかどうかカギになるだろう。
[文] 細谷元(Livit)