4月の新入社員を迎えるにあたって、管理職に就くみなさんが抱える悩みの種は「部下との向き合い方」ではないだろうか。そして、中でも筆者がよく耳にする悩みは「女性部下との向き合い方が分からない」という、特に男性管理職の方が直面しやすい問題である。
女性の社会進出が加速したことにより、これまで以上に女性部下と接する機会が増え、それまでとは全く違った難しさを感じているのではないだろうか。
今回は、筆者が多くの女性部下と向き合う中で経験した過去の失敗談を交え、絶対に知っておきたい女性部下のマネジメントについて3つのポイントを紹介していく。
これから管理職を目指す人にも、現在管理職として部下のマネジメントに苦戦している人にも明日から実践して春の新体制に備えてほしい。
競争心を煽るのは逆効果
まず、仕事に対する価値観や考え方に理解を示すことが重要である。
2020年にリクルートマネジメントソリューションズが発表した調査では「現在の仕事や職業生活に関する強い不安、悩みを抱えストレスになっている20代労働者」の割合は57.6%に及んだ。
近年のマネジメントでは競争心を煽ることで逆効果となってしまったという声があったり、リーダーや管理職になるといった出世を自ら強く望んでいないと話す女性もいる。しかし、スキルを磨くことや周囲と協力し合うことには関心があるため、そのための役割や手段として、結果的に管理職になる道を選んでいることもある。
今の30〜40代以上のビジネスパーソンが新卒の頃に求めていた事と、今の若者が求めている事に差があるという事実を、共感はできなくてもまずは理解を示すことが大切である。
いつの時代も10年経てば世の中の空気や価値観は変わるものであり、近年は変化のスピードが加速しているということを忘れず、自分たちの世代の価値観や当たり前を押し付けてはならない。
そして、この10年で最も影響を与えたのは、女性ビジネスパーソンによる社会進出の増加ではないだろうか。
顕著な例としてリーダー像の変化がある。従来、リーダーに求められているのは圧倒的カリスマ性や強いリーダーシップといったイメージが強かった。
しかし最近はどこか頼りなくとも周囲が助けてあげたくなる、チームで協力しあい心理的安全が保たれる環境をつくれる、そんなリーダーが信頼を集めていたりする。リーダーにも女性ならではの気遣いが活かされるようになったのだ。
それを「リーダーとはこうあるべき」と押し付けては誰も生きいきと働けず、物事は前に進まない。彼女達は確実に未来の社会を支え、どの会社でも重要な戦力となるポテンシャルを秘めている。それを生かすも殺すも、上司次第なのだ。
「大丈夫」に隠されたサイン
2つ目に、女性の表面上の言葉を鵜呑みにして安堵してはいけないと筆者は考える。弱音を吐いてはいけないという責任感から「大丈夫です」と答えるが、それでも放置せず業務遂行において問題はないか、気にかけてもらえることが嬉しいと私は感じることが多い。
仕事の遂行能力が高い人は責任感や、我慢強さゆえに本心を吐露することで迷惑をかけると思っている節があり、信頼のおける相手以外には自分の思いを積極的に語ろうとはしない。その結果、出てくる言葉は必ず「大丈夫」だ。しかし、筆者は女性の「大丈夫」はほとんどの場合言葉通りではないと感じている。
「大丈夫」と答えてしまう理由は2点ある。1つはそれを伝える事で「仕事が任せられないやつ」「こんなこともできないやつだ」と思われてしまうことを恐れているからだ。もう1つは、自分でなんとかしなければいけないという責任感の現れだ。
そうした「本音を相談できない」状況を長期化させた末、本人の中で問題が深刻化してしまい、突然の退職やドロップアウト、身体を壊す等取り返しがつかないことになってしまうことがある。これは上司部下に限らず、恋愛や夫婦関係でも起こりがちなトラブルである。
恐らくこうした状況になると多くの上司はこう思うであろう。「悩んでいたなら、もっと早く言ってくれ」と。しかし、相談できなかったのは本人の性格だけでなく、上司との日頃の信頼関係がまだ築かれていなかったことにもある。恐らく「そんなことで悩むな」と言われる可能性が高いと判断したのだ。
だからこそ、常日頃から本音で話せるような関係性を上司からもつくる必要がある。その方法は様々にあるが、些細な頑張りを日々みつけて賞賛や労いの声をかけることが最も効果的である。そのような上司であれば少しずつ信頼し、悩むことがあっても相談してくれるようになるからだ。
悩みが解消されて仕事に夢中になっている女性ビジネスパーソンは本当に強い。圧倒的な能力を発揮し、周囲の男性が驚愕するほどの高いパフォーマンスを出すことがある。過去、筆者が属した営業組織で圧倒的な成果を出す人は女性に多い。
時代の変化とともに上司へ求められることは変わりつつあるが、そのニーズに応えられるかが今後の組織づくりを左右するのではないだろうか。
仕事を大幅に減らしてあげようとする勘違い
3つ目に、特に優秀な女性が長期就業できるイメージを持ってもらうためには仕事を大幅に減らすことが逆効果になることがある。
例えば、産休や育休の制度は整っていたにも関わらず、育休明けに職場復帰して1年も経たず退職するという状況がどの会社でも起きている。これだけ制度が整ってきているにも関わらず、こういった事例が後を絶たないのは何故か。
答えは、優秀なワーママは復帰後にこれまで自分が積み上げてきたやりがいのある仕事を「手伝ってほしい」「効率よくできる環境整備をしてほしい」のであって、決して「減らしてほしい」と思っているわけではないからだ。
育休明けに退職をした女性社員に話を聞くと、上司が大変だろうからと気遣って部署移動や業務を減らす提案を受けたが、実は不本意であったという葛藤を抱えていることが多い。
育児をしながら責任ある仕事をする上でどうしても切り離せないのが時間制約だ。9時に出社し、16時か17時には帰宅することが求められる状況では、確かに上司や会社のサポートなく仕事を遂行することはできない。
しかし、度が過ぎたサポート体制は仕事へのやりがいまでも奪ってしまい、さらに給与ダウンで自信や気力さえ奪ってしまう。
それを避けるために、こちらが心配になるほどに仕事に精を出す育休明けの時短社員は多い。しかし、結果的にオーバーワークになってしまったり、時にフルタイム社員よりも高い成果を出しているにも関わらず評価や給与につながらず、不満を募らせて辞めてしまう、という女性社員を多数見てきた。
こうした社員に対しすべきことは、実は仕事を減らすことではない。最大限仕事でパフォーマンスが出せるような柔軟なサポート体制を作り、勤務時間や場所の拘束のみで評価や給与を決めるのではなく、成果を鑑みて評価をすることだ。
世の中ではリモートワークや裁量労働が認められていない会社も増えているが、そうした「出社」や「時間拘束」で給与評価される会社の体制では、いずれ能力の高い女性社員は去っていくだろう。
本音で話せる状況をつくることが大切
これまでの男性社会で当たり前としてきた価値観が、女性の社会進出によって確実に変わりつつある。その過渡期とも言える現在、若き日に自分が受けてきたマネジメントを同じように実行しようとしても、通用しないのは当然なのだ。
もちろん個体差があり、筆者もゴリゴリの体育会系の会社で揉まれてきたことで鍛えられた。こういった女性も多数いるが、それは少数派であると実感している。
春にフレッシュな新入社員を迎え、新たな組織体制をつくっていく管理職の皆さんが世代を越えたメンバーと本音で話せる関係性になれば、良いチームがつくれるのではないだろうか。
文・えさきまりな