良いコラボレーションは、良いパフォーマンスを生むのだろうか?

自分にとって最高のパフォーマンスを発揮するために、必要な要素とは何だろうか。特にビジネスの現場においては、成果を出すために、チームや周囲の人間との”調和”が重要視される。周囲と良い関係性やコミュニケーションを構築できると、パフォーマンスが自然と向上していく、といったことも多分にあるだろう。

一方で、多様性と呼ばれる時代だからこそ、さまざまな価値観が混在する中での難しさもある。価値観が異なる者同士、衝突し合うことは往々にしてあり得るだろう。良い関係を築く、ましてやプロ同士が共同で何か一つの目標に向かって行動することは、この時代において、決して容易なことではない。

しかし、数多くのコラボレーションを成功させ、良いパフォーマンスを発揮し続ける集団がいる。日本を代表するスカバンド、東京スカパラダイスオーケストラ(以下、スカパラ)だ。ご存知の方も多いと思うが、スカパラはこれまで有名アーティストと多数のコラボレーションを繰り広げている。

彼らのコラボレーションの始まりは、1995年。竹中直人、石川さゆりなど、そうそうたる顔ぶれのコラボレーションアルバム『GRAND PRIX』。そこから、ボーカリストとコラボレーションした『歌モノ3部作』やバンドとコラボレーションした『25周年スペシャルプロジェクト バンドコラボ』などを展開。また、2019年にはデビュー30周年”歌モノ”シングルのボーカリストにMr.Childrenの桜井和寿を迎えてのコラボレーションが話題になった。

そんなスカパラのコラボレーション企画において作詞を担当しているのは、バリトンサックス担当の谷中敦氏だ。今回、同氏から魅力的なコラボレーションを世に出し続けるための企画力、多様な人たちと良い関係を築きパフォーマンスを高めていく方法など、ビジネスユーザーが良質なパフォーマンスを発揮するための4つのヒントに迫った。

“意外性”のある企画を生み出すために重要な“違和感”

なぜ、スカパラのコラボレーションは話題を生むのだろうか。その問いに対しては、彼らの持つ企画力の高さにヒントが隠されていた。スカパラがコラボレーションをする上で最も重要視しているのが、“意外性”だ。あえて想像できない相手を選定するという“驚きを生む仕掛けづくり”に徹しているのだ。

「誰かとコラボレーションするときは、意外性があった方がいい。完全に先が読めてしまう企画は心に何も残らない。心に残すためには、心を動かさないといけない。つまり、感動させる必要があります。そして、感動を得るためには驚きが必要なんです。

『なるほどね』と予想通りに思われるようなコラボレーションは目に留まることなく流されてしまう。逆に、驚きで心が動くと、喜びを感じられるから、目に留まる可能性が高まります」

そして、“意外性”のある企画の発想には、“違和感”が重要だった。スカパラが2001年に『歌モノ3部作』でコラボレーションした田島貴男の『めくれたオレンジ』、このコラボレーションはまさに“違和感”のある企画だったという。

「当時、スカバンドはアンダーグラウンドな音楽という認識があったのに対し、田島貴男はヒット曲を連発する人気アーティスト。本当に相性が良いのか自分たちも予想できず、コラボすべきかミーティングを重ねました。でも、違和感があるからこそ、立ち止まる人がいる。

最初のコラボの頃はあえてfeaturing表記をしていませんでした。『東京スカパラダイスオーケストラのめくれたオレンジ』としてラジオで曲が流れたとき、よーく歌声を聴いてみると『あれ、ORIGINAL LOVEの田島貴男じゃない?』と。そう気づいたら、気になって聴いてしまうじゃないですか」

良質なアウトプットは“イメージにとらわれない”こと

企画力の高さがあっても、最終的に良いアウトプットに必ずなる、とは限らない。おそらく、アウトプットの過程にも意識を向けなければならないだろう。

スカパラの場合、コラボレーション楽曲はすべて自分たちで手掛けている。ここでポイントになるのが、“相手へ意識を置きすぎない”ことだ。相手のイメージをアウトプット(楽曲)に置きすぎてしまうと、コラボレーションする意味がなくなってしまうという。そのため、谷中氏は作詞をする上で「イメージにとらわれないようにしている」と語る。

「コラボレーションする相手の楽曲を研究することはほとんどありません。コラボレーションする相手はみんな素晴らしい楽曲をつくれる人だけど、研究すればするほど、同じような楽曲に寄ってしまう。

だから、イメージや役割にとらわれないようにしているんです。会社員であれば肩書きや役職があるけど、人の本来の姿って役割をすべて外したときだと思っていて。役割も何もない一人の人間として接して、自分なりにとらえたコラボレーション相手のイメージを再構築しつつ歌詞を書くようにしています」

こうして、多くの人へ感動を与えるアウトプット(楽曲)が生まれていく。Mr.Childrenの桜井和寿をゲストボーカルに迎えた「リボン」の歌詞を作詞した際も、そうしたマインドを大切にしたという。

「桜井くん的な明るさを入れながら、普段のあり方とは少し違う歌詞を考えました。『大騒ぎしよう』『ここがParadise』これらのフレーズは、桜井くんなら使わない言葉だと思います。それより、ステージ上でスカパラのメンバーとして桜井くんがお客さんに掛ける言葉をイメージして歌詞に起こしたんです。そしたら、桜井くんからも『おもしろいですね』と言ってもらえて。桜井くんにはない部分を感じてもらえたのかなと」

質の高いアウトプットをするには、共につくり上げていくメンバーのモチベーションも重要だ。スカパラ主導であれば、自分たちよがりなアウトプットを出すことも可能だろう。しかし、スカパラはコラボレーション相手のモチベーションアップの努力も怠らない。

「とにかくコラボレーションする“相手に楽しんでもらう気持ち”を持ってものづくりしている」

この覚悟があるからこそ、質の高いアウトプットをし続けられるのだろう。今まで、コラボレーション相手から楽曲への指摘をされたことはないという。チームで良質なアウトプットを生み出すには、“イメージにとらわれない“、“楽しませる”この二つの意識が必要なのだ。

チームワークを発揮する鍵は、“真っ先に”苦手な人を克服する

一方で、“意外性”や“違和感”のある相手は価値観がバラバラな可能性もある。衝突し合うこともあるではないだろうか。ところが、衝突こそが新しい視点に触れるチャンスだというのだ。谷中氏は、チームの中でモチベーションの低そうな人ほど、真っ先に攻略すると述べた。

「集団の中にいるはぐれ者や志気の低い人って、みんなが見えていないモノが見えている可能性があるんですよ。例えば、一つの船に集団で暮らしているとして、多くの船員は仲良く会話をしている。同時に、みんなに背を向けて外を見てる人がいたとする。もし敵が来たときすぐに気づくのは、集団で仲良く会話してる人ではなく、一人で外を見てる人ですよね。そういう人ってかなり有用なんです(笑)。そんなはぐれ者が好きになる人や、心を開く人がどんな人なのか知ることも勉強になります」

苦手な同僚や上司、自分と意見が合わないと感じる相手は、意識的に避けてしまいがちだ。しかし、自分と合わない意見こそ、自分にはない視点かもしれない。排他的になるのではなく、しっかりと向き合うことで、新しい視点を発見できたり、価値観が芽生える可能性を秘めている。

また、谷中氏は「苦手な相手にこそ、自分のマイナスポイントを見ているかもしれない」とも述べた。

「似た者同士がはじき合うことってあるじゃないですか。だから、苦手な人ほど最初に消化しちゃおうという気持ちが結構あります。なんで苦手だと感じるんだろう? 自分にもそういう部分があるのかも?と、研究対象にするんです」

自分のマイナスポイントを鏡として映してくれる可能性が、苦手な人には備わっている。避けるのではなく攻略することで、自身の抱える短所を克服できるかもしれない。

チームで良いパフォーマンスを発揮するためには、“真っ先に”モチベーションの低い人や苦手な人の攻略を意識的にしてみると良いだろう。

“隙を見せること”が良いコラボレーションを生む

チームで良いパフォーマンスを発揮するには、相手の攻略だけでなく、自分自身の見せ方も鍵となってくる。自分自身を理解してもらうことこそ、円滑なコミュニケーションや信頼関係の構築ができるはずだ。その上で意識すべきは、自分に“見出しをつくること”だと谷中氏はいう。

「僕が友だちに誰かを紹介するとき、最初にプラスの面とマイナスの面を混ぜてプレゼンするんですよ。例えば、【彼は素晴らしいミュージシャンだけど、いつもは酔っ払いです】とか(笑)。印象に残りますよね?ただプラスの良い面だけ見せても隙がない人という印象を受けるけど、マイナス面が隙を演出してくれる。できる限り多くの見出しを持つ、多くなくても強い見出しを持つべき。見出しをつくるために意図的に行動していくと、後々役立つときがきます」

さらに谷中氏は、自分のマイナス面や間違いを認めないことが、チームのみならず将来的な自分自身のパフォーマンスにも大きな悪影響をもたらす可能性についても言及する。

「周りがあまり意見を言えないような態勢に陥ってる人は危険です。なぜなら、自分の間違いに気づけないんですよね。『みんなが否定しないなら、それで良いだろう』と甘えが出る。すると、だんだん時代と合わなくなってしまう。時代と合わなくなっていくと、アウトプットにも影響が出てきます。

もし自分がそんな人間になったら終わりだなと考えていて。どれだけ有名になったとしても、率直な意見を言い合えるような友だちや仲間が必要だと思う。分け隔てなく意見を聞ける人間でいなきゃ、そこから腐っていく。だから僕は、隙を見せていきたいし、誰からも意見をもらえるような人間でありたい。一人の人間として接してほしい」

得意不得意は誰しもある。あらかじめ自分の“見出し”を用意しておき、“事前に”しっかり相手に伝えること、つまり“隙”を作ることで円滑なコミュニケーションを生むのだ。それが、組織、チームを強くすることにも繋がっていく。一人の人間として接し、忌憚(きたん)のない意見が言い合えることで、チームとして良いパフォーマンスを発揮できるだろう。

「Paradise Has No Border」の精神が良い未来へと導く

スカパラは『Paradise Has No Border』という精神を掲げている。「音楽がある場所は全て楽園の領土、音楽で世界中の人と手を繋ぐ」という意味が込められているのだ。「一人の人間として接すること」を考え抜いてコラボレーションすること、「リスナーへ感動を与えたい」という想いは、この精神から来ているように感じた。

『Paradise Has No Border』の精神を置いている彼らはとても魅力的だ。スカパラ自身も楽園にいるかのように全力で音楽を楽しんでいる。

そして、コラボレーションしている瞬間だけが楽園ではないのも、スカパラならではだ。「お互いの未来をいい方向に変化させていきたい」と谷中氏は話す。アウトプットしたら終わりではなく、コラボレーションをキッカケにお互いが今まで予想もしなかった未来を生む。ビジネスにおいても、新しい価値観が芽生えるきっかけとなるかもしれない。

“コラボレーションで、良き未来を繋ぐ”

『Paradise Has No Border』にはそんな意味も込められているのではないだろうか。

谷中敦
1966年生まれ。東京都出身。
日本だけでなく世界各国で活動する、大所帯スカバンド、東京スカパラダイスオーケストラ(通称:スカパラ)のバリトンサックス担当。歌モノ楽曲の作詞も担当する。デビュー30周年を迎え、3月18日にデビュー30周年を記念したベスト盤「TOKYO SKA TREASURES ~ベスト・オブ・東京スカパラダイスオーケストラ~」をリリース。また、スカパラの活動の他にもモデルやプロデュースを務めるアパレルブランド“INSTANT FAME”も手掛けている。

東京スカパラダイスオーケストラ オフィシャルサイト

谷中敦 公式インスタグラム

取材・文:阿部裕華
写真:西村克也