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近年、時代の流れとともに働き方改革が進み、一人ひとりの生産性の向上が求められ、さらにイノベーション創出を目指した業務プロセスの改革が急務とされている。
その文脈のなかでも注目されているのが、オフィス環境の整備だ。
平成27年に経済産業省より発表された「 健康経営オフィスレポート」によると、20,000 名以上(所属企業 200 社以上)のビジネスマンの働き方と健康問題に関する調査を実施したところ、オフィス環境(空間・設備・情報・運用)を整えることは、従業員の生産性の向上や健康に結びつくという調査結果が出された。
大企業はオフィスの環境整備や働き方改革、健康経営などの施策に乗り出し、一定の成果を上げている一方で、国内企業の約8割を占める中小規模企業については、資金や人的リソースの関係で、その対応が遅れている現状がある。特に、10名未満のスタートアップなどの多くは、働く環境の整備に費やすコストや時間がなく、後回しになっていることが多いのではないだろうか。
野村不動産ではこうした従業員数10名未満の“U-10企業”のニーズに応えるべく、従来のオフィスでは実現が難しかった設備やサービスを備えたオフィスを考案。個人のパフォーマンスを大きく引き出す新たなオフィスブランドとして「
H¹O(エイチワンオー)」をローンチした。
創業して間もないスタートアップは、オフィスにそれほどこだわらないというケースも少なくない。しかし、自身も起業家であり、また多くのスタートアップを見てきたエンジェル投資家の有安 伸宏氏は、オフィスにこそこだわるべきというスタンスを貫いている。
経営者や従業員にとって、オフィス環境とはどのような影響をもたらすものなのか、またどの程度こだわるべきものなのか。H¹Oの開発に携わる野村不動産株式会社 都市開発事業本部の佐藤 夏美氏との対談を通して、有安氏がオフィスに求める価値と、H¹Oが“U-10企業”に提供する価値に迫る。(以下、人物の敬称略)
オフィスは経営者の「脳内」を映し出すもの
——スタートアップのオフィスというと、マンションの一室から…というケースも少なくないように感じます。有安さん自身、起業当時のオフィスはどのようなところでしたか?
有安 20代の時の起業の際、当初はオフィスは借りず、自宅をオフィスとして使っていました。ですが、会社設立から半年ほど経過したところで、気持ちがすごくつらくなってきて。
なぜつらくなってしまったのかを考えると、僕は自宅をオフィスにしているつもりで、実は「オフィスに住んでいる」状態だったんですよね。朝起きて歯を磨きながらパソコンの電源をONにする。寝る直前まで、時間を惜しんでディスプレイに向かう。そんな生活を何カ月も続けるうちに、新しい発想が生まれづらくなっていることに気づきました。その状況を打開するために、売上規模も相当小さい段階でしたが、最初のオフィスを借りました。
借りたのは自宅から徒歩圏の恵比寿駅前のビルの一室でした。スタートアップの創業期はとにかく時間がないので、通勤に時間がかかる物件は常に避けていました。
——自宅をオフィスと兼ねるのは、創業期ではよくある話ですが、気分の切り替え以外で困ったことはありましたか?
有安 オフィスは経営者の考えを映し出すもの、ある種のメディアだと思ってます。自宅兼仕事場へ誰かを招くと、アットホームな印象を与える一方で、自営業者感というか、会社として小さくまとまってしまいそうな印象を与えることがあると気づきました。
また、オフィスは、最大のユーザーである「従業員」の能力を引き出す、または、少なくとも邪魔しないものでないといけません。例えば、僕が最初に借りたオフィスは、恵比寿駅の東口から徒歩1分という近さ。訪れる人は必ず「近いですね!」と言ってくれましたし、大企業に勤務しながら副業で週末に手伝ってくれたエンジニアたちも「これだけ交通の便がいいところにあるなら、本業の後、仕事帰りに寄っても全然いいよね」と言ってくれました。
佐藤 確かに、駅からの距離は外回りのある業種などで特に重視されるポイントです。毎日通うことを考えると、駅近のオフィスはうれしいですね。
有安 そうですね。また通いやすさだけでなく、オフィスの広さそれ自体も大きな意味を持つと思っています。現場の従業員一人ひとりが会社の成長を肌感をもって感じるられるのは、「オフィスの広さ」の要素が大きいんですよ。
例えば、一気に4倍の広さのオフィスへ移転すると「うちの会社、これから一気に成長していくんだな!」って誰もが同じように実感できるんですよね。財務諸表に慣れていない現場スタッフ含めて、全員が同じように感じられる、というのがポイントです。
佐藤 どのような環境で働くかは、モチベーションにも直結しますね。H¹Oでも空間設計にはかなり力を入れています。
有安 オフィスにはあまりこだわらない、という経営者もいますが、ステークホルダーへ与えるメッセージ効果や、移転を重ねることの多大なコストも考慮すると、僕はオフィスにはしっかりこだわった方がいい派です。
多額の内装費をかけるべき、という意味ではなく、例えば、雑居ビルの中の裸電球一つのワンルームでも、立ち上げ期のストイックな社風を固めたいという創業者の意思と整合していれば、それが正解になります。何事も、経営の意思ありき。H¹Oはどういったところにこだわっているのか知りたいですね!
野村不動産が提供する小数精鋭企業向けサービスオフィス「H¹O」とは
——H¹Oは、2019年11月にオープンした「H¹O日本橋室町」が最初の物件となりますが、どのようなコンセプトで開発されたのですか?
佐藤 H¹Oは「ヒューマンファーストオフィス(Human First Office)」の頭文字をとったサービスオフィスのブランドです。10名未満で働く少数精鋭の方々向けのオフィスで、個人のパフォーマンスの最大化を目的としています。
特に少数精鋭で働くチームは、一人ひとりのパフォーマンスが組織の業績により大きく影響を与えます。ですから私たちには、そうしたメンバーの皆さんが心地よく働ける・本業に集中できる・空間から刺激を得てアイデアが浮かぶ…といった環境を作れたらという想いがあります。
元々私たちが展開していた「PMO(プレミアム ミッドサイズ オフィス)」というハイグレード中規模オフィスブランドがあるのですが、入居いただいているユーザーの方から「もっと人数の少ないうちから、企業規模にマッチしたスペースで、かつ上質でグレード感のあるオフィスに入りたかった」という声を聞くことがありました。
考えてみると、スタートアップやベンチャー企業はそのサービスやプロダクトは非常に革新的だったり、最先端の技術を扱っていたりしますよね。ですが、社歴が浅いと、わかりやすい実績がまだ出ていないことも少なくありません。AI技術について業界内でも先進的な研究開発をしているというテック企業が、古いビルの一室を借りているということも珍しくないんです。
求職者や取引先候補企業からみると、様々な情報からその企業が持つポテンシャルを判断すると思うのですが、「チープなオフィスしか借りられない資金力に乏しい会社なのかな?」「この環境で毎日働くのか・・・」といった印象を与えてしまい、本業である事業とは関係のないところで印象を損ねて、正当な評価を受けられないというお話もお客様から多くお聞きしてきました。その損失は大きいと感じますし、正直、もったいないですよね。
また、生産性向上という観点からも、大企業は自社のリソースを使ってラウンジを作る、健康経営に乗り出す…といった新しい取り組みが進んでいます。一方、中小企業はどうか、というと進捗度にギャップがあると思います。この差を生んでいる要因は、資金的な部分ももちろんあると思いますが、一番は人的リソース不足だと思います。社員数が少ない程、本業以外の部分に時間と労力を割きにくいはずです。やりたくてもできない。
イノベーションの源泉であり、起爆剤となるべきスタートアップやベンチャーが生産性を上げられないのは、大きな社会課題です。
私たちがこの課題を解決し、企業のポテンシャルの高さをありのままに伝えられ、経営ビジョンを体現するようなオフィス、そして、そこで働くワーカー一人ひとりの生産性を向上させるような、ハイクオリティな環境をセットアップしたオフィスを少数精鋭企業へ提供したい、と考えたのがH¹Oの始まりです。
本業に集中できる環境づくりへのこだわり
——他のレンタルオフィスやコワーキングスペースとはどのような違いがありますか?
佐藤 例えばコワーキングスペースに入居されている方からお話を聞くと、開放的でオープンな空間設計であるが故に、「落ち着かない」「セキュリティが心配」という声が聞かれました。
一席からでも借りられるようなところはオープンスペースが混みあっていることも多く、隣の人たちの会話も聞こえます。会議スペースを借りてもガラス張りで秘匿性に欠けるなど、集中して仕事に取り組める場を確保したいという声や、セキュリティ面を心配する意見が多かったんです。
有安 僕も海外でシェアオフィスサービスを利用していますが、オープン会員が多いと混んでいて使えない日もあって、残念な思いをしたことがあります。
佐藤 内装が素敵なレンタルオフィスやコワーキングスペースであれば、社内外の印象をよくすることは可能です。ですが、オフィスの本分である「本業に集中できる環境」にするためには、あと一歩サービスが進化する必要があると感じました。
H¹Oでは、専有の個室空間や、ストレスフリーなセキュリティシステムを導入して、入居者が安心して快適に仕事に取り組める場を設えています。また有人レセプションを置き、郵便の受け取りをはじめとした細かな雑務を請け負うなど、本業以外の部分の入居者の負担を減らす工夫も凝らしています。もちろん、開放感あるエントランスやホテルライクな廊下など、細部に至るまで雰囲気に気を配り、上質なグレード感を担保しています。
有安 先ほど少し見せていただいたラウンジも、カッコいい空間でしたよね。
佐藤 H¹O の共有ラウンジはABW(Activity Based Working…仕事内容に合わせて働く場所や席を選ぶ働き方。集中したい作業や打合せなど、それぞれの仕事に適した場所を選んで働く)に基づいて設計されています。また、人が自然と触れあうことで幸福度や健康を促進するという「バイオフィリア」の概念も取り入れていて、植物や水の波紋、せせらぎの音、木漏れ日や草木のにおい、石の触感などをデザインに取り入れ、五感を刺激する仕掛けがあります。
有安 水の音や植物も本物なんですね。
佐藤 ちなみに、IoTによってこのラウンジスペースの利用状況を見られるツールもあり、混みあっている時間帯を避けて利用することもできますよ。
有安 ああ、それ、すごく便利ですね!共有スペースに行ってみたけど混雑していて座れない、思ったより人が多くて落ち着かない…というような状況にならずに済むのは、小さなことだけど毎日のことなので、大きいですね。そこに向かう移動時間の節約にもなりますね。実際に入居しているのは、やはりスタートアップが多いですか?
佐藤 私たちも当初はスタートアップやベンチャー企業の方をメインの入居者として想定していましたが、意外だったのは、スタートアップなどの少数精鋭企業だけでなく、大企業の新規事業部や一プロジェクトを請け負うチームの入居も少なくないことです。
有安 大企業からも?
佐藤 はい、こうした刺激的な空間で、クリエイティブな発想やイノベーションを生みだしたい、従来型のオフィス環境から働く場を変えたいというお考えをお持ちの大企業のお客様からもお申込みをいただいています。
有安 確かに、大企業にとっても魅力的な環境かもしれませんね。大企業といえばセキュリティについてもかなり厳しいのではと思うのですが、セキュリティ面はどうなっていますか?
佐藤 H¹Oではビル1Fエントランス、共有ラウンジの入り口、各オフィスなど、3D顔認証による多段階のキーレスセキュリティ設計を導入しています。従来のカードキーと同等程度の認証スピードでパスできて、一方で写真などによる偽造はできません。もちろん、ご希望によってカードタイプとの併用も可能です。セキュアかつストレスフリーな環境には、特に高く評価いただけていますね。また、オフィスへの出入りも個人単位でログを取っているので、社内セキュリティについても安全性が高いといえます。
有安 先ほど、顔認証のセキュリティドアを体験しましたが、認識スピードが速くて感心しました。認証ゲートを通るたびにカードキーを取り出さなくていいのも、毎日のことを思うと絶対楽ですね。最近はベンチャーでも大企業と取引をするケースが増えていますから、オフィスのセキュリティへのニーズは高まっているでしょうね。
佐藤 野村不動産もやはりお取引先の情報管理についてはシビアにチェックしますから、自分たちの提供するオフィスもそうあるべきだと考えています。
オフィスの存在意義は、“作業場”から“居場所”へ
——いま、スタートアップのオフィス環境において、目立った傾向はありますか?
有安 僕の投資先でいうと、オフィスは様々です。でも共通しているのは、オフィスは社長の“脳内”を投影しているということ。デザインにこだわる、質素なタイプ、カラフルだったりシンプルだったり、社長の経営観やスタイルがそのまま表れるんですよ。
そういう意味でオフィスは、僕が投資家として投資するべき企業なのかを判断するための1つの要素でもあります。例えば、乱雑な印象のオフィスだったとしても背景に何らかの理由、社長のシビアな優先順位付けがあれば、気になりません。経営者の服装や髪型、話し方と並ぶような要素の一つですね。
佐藤 オフィスは企業の顔、と仰る経営者の方も多いと感じています。H¹Oはエントランスからオフィス内部まで上質でグレード感のある空間を意識して設計していますので、ご安心いただけそうです(笑)。
有安 そうですね。H¹Oはラウンジもオフィスも、ちょっと目をひく面白いところがいっぱいで「これは何ですか?」と、良いアイスブレイクにもなりそうですね。
——近年は、リモートワークを推進する動きもありますが、それでもあえてオフィスを構えることの価値はどのようなところにありますか?
有安 投資先を見ていると、マネジメント経験が比較的短い社長はリモートにしたがる傾向が見られます。ですが、僕はそれに反対するんですよ。「マネジメント側からしたら、対面の方が絶対楽だよ」と。
リモートという働き方は非常に先進的に見えますが、それでもなぜ未だに世界の全ての企業がリモートにならず、オフィスがなくならないかというと、対面の時間を増やすことが信頼関係を築くのに最も効果的だからです。
ましてや、スタートアップは毎日が変化の連続。精神的なアップダウンがとても大きいなかで、従業員のケアやマネジメントのしやすさを考えると、リモートよりも対面のほうが圧倒的に効率がいいはずです。
佐藤 共有や報告だけで会議をするような企業はさすがにオンラインでよいのでは…と感じますが、強固な人間関係を築くためにはやはり直接話すのが早いですね。コミュニケーションに質を求めるなら、オフィスという場は必須といえます。
有安 そうなんですよ。GAFAに代表されるようなグローバル企業で働いている友人から聞いた話なのですが、そんなグローバル企業のマネージャーも、ビデオ会議などではなく各国の拠点へ出向いて、対面のミーティングを頻繁にするんだそうです。顔を合わせてランチをとったり、インフォーマルな話をしたりという“場”をもつことの大切さが重視されているエピソードだと思いますね。
佐藤 信頼を築きたい、より強くしたい、微妙な表情の変化から相手の本音を知ってコミュニケーションをしたいというのであれば、対面に勝るものはありませんよね。そういった意味でも、オフィスはただ出勤する作業場所ではなく、会社のビジョンやメンバーの生き方みたいな共通項を見出すための場所になっている。単なる“作業場”というだけでなく“居場所”になっています。
——実際にH¹Oに入居することで、事業面によい影響が出たという事例はありますか?
佐藤 第1号物件である日本橋室町には、2020年1月から入居されているお客様がいらっしゃいますが、移転理由は、従前オフィスが手狭になったことによる拡張移転のためということでした。当初の人員に比べるとやや広めのオフィスをご契約いただき、そこから採用計画に沿って人員を増やしていく予定だったそうです。しかし、オフィスに入居されてから人材の採用が当初の見込みよりも順調に進んだようで、数年間かけて進める予定だった計画を既に達成してしまったということがありますね。
「もうすぐ手狭になってしまうので、今よりも広いところはないか」というご相談を、既に入居企業様から2件ほど受けています。H¹Oが直接の要因と言い切ることはできませんが、ある程度、企業の顔であるオフィスとして、採用面でも効果を生み出せているのではないかと感じています。
有安 広めのオフィスも魅力的ですが、先ほど見せていただいた2人用のオフィスもよかったです。自宅作業に限界を感じているリモートワーカーからニーズがありそうです。デスクなどが備え付けてあるところもいいですね。すぐに契約されてしまいそう(笑)。
佐藤 一部の個室にはデスクなどのオフィス家具付きで借りられる、家具サブスクリプションサービスも導入しています。入居したその日から仕事をスタートしたいというニーズに対応します。
従来の家具なしオフィスの場合、オフィス契約後、入居までに家具レイアウトの検討・家具選定・発注作業・工事立ち合い等々で、1カ月~数カ月程度、地味に時間と労力を奪われます。これが省略できることは少数精鋭チームにとっては大きいメリットなのではと考えています。
その他にも、購入ではなくレンタルなので家具代をBSに計上しなくてよいなど、細々としたメリットもあると考え、導入しました。H¹Oに入居いただくことで人員が集まる、本業に集中できる、といった効果があれば、そこから入居者様の生産性向上にもつながるはずです。
オフィスは“投資”。自分たちの生み出す価値に見合ったオフィス選びを
——これからのオフィスに求められるものは、何だと思われますか?
有安 オフィスは企業が価値を創造するための手段のひとつです。企業が創造する価値は様々なので、その“創造したい価値”に合わせてオフィスもフレキシブルに使えるようになっていけばと思います。
佐藤 H¹Oも、スタートアップやベンチャー企業の方、既に入居されている企業の方からのご意見を反映して、より自由度高く利用できる“フレキシビリティ”を追求しているところです。働き方も多様化し、組織の形も変わっていくなかで、全てのお客様にとって「ヒューマン・ファースト」なオフィスを目指したいと考えています。
有安 21世紀は「個人」の時代ですから、テクノロジーによって個人一人ひとりがエンパワーメントされて、大企業と同じようなことができるようになっていく流れは止まらないですよね。佐藤さんから“少数精鋭”というワードが何度か出たように、「大きな仕事をしている小さなチーム」ってここからも世界中にどんどん増えると思うんです。
そうしたチームがオフィスに求めるのは、選択の幅=フレキシビリティ。例えばオフィスを借りると会議室を作る企業も多いですが、会議がない時間帯は空き部屋になってしまうことも多いですよね。であれば、多くのシェアオフィスで採用されているように、会議室は「必要なときに借りる」スタイルがいいはずです。これからのオフィスは、どれだけ“かゆい所に手が届くか”が重要だと思います。
佐藤 なるほど。オフィスの供給側として私たちは「あらゆる方々に、最適な商品が過不足なく用意できる」という状態がベストだと考えています。その点についていえば、大企業向けのオフィス開発というのはずっと取り組んできた分野でもありますから、ある程度「どのようなものがあればよいか」が洗い出されていて、供給も行き届いている状態です。
ところが、スタートアップやベンチャーが求めるものはそれこそ多様ですし、私たちにとっては未知の分野でもあります。そうした様々な価値観から示される“使いやすさ”というニーズを分析し、オペレーションや設備、サービスによって実現できる道を探すことはH¹Oを通じて私たちが取り組んでいきたい課題でもありますね。
有安さんは、投資先のオフィス選びについてはどのようなアドバイスをされているんですか?
有安 オフィスは社長の思想を表す、会社にとって一つのメディアなんですよね。創業期は資金に余裕がないからとあまりこだわらずに安い物件を選ぶこともありますが、後々の採用や事業の拡張を考えると、オフィスはコストではなく「投資」であると考えたほうがいいんですよ。
どんな人をどれだけ採用したいのか、どんな金額感のビジネスを動かしたいのか…。経営戦略から逆算して、それに見合うオフィスを選ぶよう伝えています。
佐藤 その選択肢の一つとしてH¹Oを検討いただけるよう、現在稼働している物件や今後オープンする物件でも入居者様の声を聞きながらアップデートしていきたいです。まさに、一緒にオフィスを作っていただいている感じかもしれません。
スタートアップがいわゆる「マンションの一室」から始まる例は多い。オフィスにはこだわるべきと語る有安氏ですら、初めての起業の際には自宅をオフィスとして使っていた。
しかし、コストを重視するあまり、事業とは関わりのない雑務に時間を奪われていたり、オフィスが原因で従業員のエンゲージメントの低下や、採用面での機会損失に繋がっていたりすると、それは企業にとって大きな損失となる。
「H¹O」はまさに「個人のパフォーマンスを最大限に引き出す」ための設備やサービスが揃ったオフィスだ。これまでオフィスを重視しなかったスタートアップの経営者にとって、新たな価値を見出すきっかけとなるかもしれない。
取材・文:藤堂 真衣
写真:西村 克也