「Instagramといえばインスタ映え」と思い込んでいる大人は多いだろう。

しかし実は、最近の10代の子たちは「インスタ映えは古い」と考えているみたいだ。そもそも、Instagramに写真を投稿した際に見栄えすることをさす「インスタ映え」は、「2017ユーキャン新語・流行語大賞」に選ばれるなど、社会現象となった言葉。

2017年に初めて新語・流行語対象となった「インスタ映え」

Instagramに載せる映える写真を撮るために、流行りのスイーツの店に数時間並んだり、ナイトプールが流行したりと、インスタ映えが若者世代の行動の根幹にあったことは記憶に新しい。

また、インスタ映え写真を撮るための消費、「インスタ消費」が話題となっていたほどだが、本当にインスタ映えはもう古くなってしまったのだろうか。

若者の間のブームの移り変わりは早いものではあるが、今この「インスタ映え」という言葉にどのような変化がおきているのか? 最新の利用状況や価値の変遷について探っていきたい。

キラキラ感は薄れている。手垢がついてしまったインスタ映え

10代に人気の高いモデルの藤田ニコル 氏は、20歳だった2019年4月に、「インスタ映えってワードはもう個人的に古いと思っててこれ映えるよね?って言われると萎え萎えしちゃうようになりました」とツイートして話題となった。

実際にニコルさんのInstagramを見ると、目立つような加工をした写真はなく、友だちと遊んだ写真や日常のスナップ写真がほとんど。キラキラしたカラフルなスポットやグルメ、コスメなどは登場せず、全体の色味も落ち着いている。

先程のツイートに対して、ニコルさんより2歳年長であるモデルの池田エライザさんは、「えっっおばちゃん最近知ったよ…ちなみにこの間10代の子にそのカメラアプリ古いっすよって言われて泣きそうになったよ」と返信しており、すべての若者が同じ感覚というわけではなさそうだ。

しかし、ツイートを見た10代のファンからは、「それめっちゃわかるかも」「流行りすぎて普通になってしまったよね」など、共感の声も多く寄せられた。周囲の中高校生にも聞いてみたが、「わかる。まだ言ってるのって感じ」「別にもう映えは意識していないと思う」という声が返ってきた。

当初は20代女性に特に人気が高かったInstagramだが、現在は若者世代だけでなく、30〜40代以上のユーザーも大幅に増え、利用者の年齢層は拡大している。同時に、インスタ映えが社会現象となったことで、オトナ世代も広く使うようになった。主婦層が子育て情報や毎日のお弁当写真などを投稿する例は多く、かつてのキラキラしたイメージからは遠くなってきている。

もともと若者世代は、オトナが自分たちの使っているSNSに入り込んでくることを好まない傾向にある。たとえば、Facebookは当時大学生だった共同創業者兼会長兼CEOザッカーバーグが作った学生向けSNSだったが、オトナ世代が利用するようになると次第に若者は利用しなくなり、現在では利用している若者は少数派となっているなど、前例は多い。

オトナ世代が使うようになると、「古い」「ダサい」と別のSNSに移ってしまうことが多いのだ。オトナ世代が当たり前にインスタ映えと言うことで、インスタ映えを狙うことが古く、かっこ悪いと感じるようになった面もあるのではないだろうか。

消えた“いいね”が生み出した、映えない日常の投稿

Instagramの使われ方も、次第に変化してきている。たとえば、24時間で消える動画を投稿する機能「ストーリーズ」の人気だ。Instagram社によると、2018年10月時点で、日本のデイリーアクティブユーザーの70%以上がこの機能を利用しているという。

Instagramでは、あいかわらずグルメやコスメ、ファッションなどのインスタ映え写真も多く投稿されている。一方、「いいね」数がスマホからは非表示となっており、映えを競っていたところに水をさされた状態だ。それと同時に、ストーリーズにはリアルな日常を撮影して投稿する人が多くなっている。

たとえばある女子大生は、「今この講義に参加しているよ」と動画を投稿、他のユーザーからのコメントで同じ講義を受けている人がわかり、合流できたという。「自炊したご飯とか、映えないものもたくさん投稿している」。24時間で消えることで、日常も気軽に投稿できるようになったというわけだ。

「このメンツで遊んでるよ」とツーショットのストーリーズを投稿したときには、別の友だちから「この子も友だちだよ。次は一緒に遊ぼう」というメッセージをもらい、次に遊ぶ約束につながったこともある。

ストーリーズに対してメッセージを送ると、ストーリーズが紐付いた形でメッセージが送られるので、連絡が取りやすいし、話も弾みやすいという。それ故、Instagramでの話をあえて他のSNSで送ることはないため、LINEの利用頻度が下がったそうだ。

ある女子大生は、気になる男子がバスケ好きなことを知り、あえてNBAについて勉強してから投稿して、彼から「え、バスケ好きだったんだ」というコメントをもらったこともある。「フォロワーの中で誰かを狙った投稿は当たり前。ストーリーズで告白している子も見たことがある」といったこともあるそうだ。

「ナチュ盛り」「チル」など映えの定義を変化させるワードたち

映えからの脱却には、若者間で「チル」が人気となってきていることも影響しているかもしれない。チルとは、ヒップホップ用語で使われる「Chill Out(チルアウト)」から派生した言葉でもあり、冷静になるとか落ち着くという意味だ。SNSでは、「まったりしている」「のんびりしている」「くつろいでいる」などの意味に使われることが多い。

また少し前までは、自撮り写真に対しても過度な加工が当たり前だったが、今は「盛りすぎはダサい」と変わってきている。「ナチュ盛り」、つまりナチュラルに盛れることがポイントとなっているのだ。

自撮り写真に対して加工アプリも使うが、誰だかわからないほど加工するわけではなく、当人らしさを残しながら加工するのがコツとなっている。

若者の間では、「Ulike(ユーライク)」「SODA(ソーダ)」「moru(モル)」などの加工アプリが人気だ。「SODA」はアプリ内でも「ナチュラル盛り」を押しているし、「moru」も「自然に盛れる」をうたっているなど、加工アプリの世界観も大きく変わってきているのだ。

10代の子はカラコンで黒目が大きすぎと思ったことはないだろうか。時代は代わり、最近はカラコンが普及したことでギャル以外にも利用が広がり、裸眼風のナチュラルカラコンが人気となっている。ほんの少し盛りたいけれど、あくまで自然にかわいくなりたいのだ。

つまり、時代は肩肘張った映えから、気をはらないナチュ盛りに移ってきているというわけだ。違和感のある不自然な盛りではなく、自然だけれどかわいい。それが今の10代の理想となっているのだ。

もともと、Instagramはファッション誌のようにきれいでかわいい自分の好きな世界観を作り上げ、楽しめる場として受け入れられてきた。その世界観自体はまだ好まれているが、自分たちの見せ方としてのトレンドはナチュラル系が流行している。

新たなトレンドの流れとして大人も抑えておくといいだろう。

文:高橋暁子