世界124カ国で新型コロナによる学校閉鎖、12億人以上に影響
収束の兆しが見えない新型コロナウイルス感染拡大。世界各地では休校措置を実施する国・都市が急増中だ。
米ニューヨーク市では、3月16日に公立学校が閉鎖。同市の公立学校は約11万人が通う同国最大の学区。23日からオンライン学習が導入された。デブラシオ・ニューヨーク市長は、4月20日の再開を目指すものの、状況次第では今年度終了の6月末までの閉鎖もあり得るとの考えを示している。
現在ニューヨークは感染者が急速拡大する地域。3月22日には前日比4,812人増加し、累計数は1万5,000人を超えた。
同じく感染者が急増する欧州でも学校閉鎖に踏み切る国が相次いでいる。死者数が中国を抜き世界最多となったイタリアでは3月に入り全国での休校措置が開始された。
また英ガーディアン紙のまとめによると、3月16日時、点欧州での休校措置はほぼ全域で実施されていることが判明。英国も20日から無期限の休校措置に踏み切った。
この流れは世界的に加速。UNESCOの3月23日時点のデータによると、休校措置を実施している国の数は124カ国、影響を受ける学生数は12億5,400万人以上に上るという。
学習が進まないだけでなく、共通試験の実施ができないなど、混乱を呼んでいる。英国では、毎年夏に実施される中等教育修了一般資格(GCSE)の実施を9月に先送りする案や2021年まで延期すべきとの議論が飛び交っている。
オンライン学習シフト、デジタルツール・フル活用する次世代教育の可能性
いくつかの国では3月末など閉鎖期限を設けているものの、事態の収束見込みがつかず、学校閉鎖の長期化は免れない状況。学習進捗を止めないためにオンライン学習へのシフトが模索され始めている。
米国や欧州では、Google ClassroomやBlackboradなどのオンライン学習プラットフォームへの関心が高まっている。
オンライン学習と一言にいっても様々なスタイルが考えられる。最もシンプルで普及しているのは、予め録画された動画を視聴し、その後小テストを受け、理解度を確認するというもの。Khan AcademyやUdemyなどがこのスタイルだ。一方、教師がリアルタイムに授業を配信するというものもあるだろう。
様々なスタイルがあり、学校や教師はそれぞれの状況に応じたやり方を試行錯誤することが求められる。
Google ClassroomなどGoogleツールを活用するプロジェクトベースの学習スタイルは次世代の学習と呼べるかもしれない。社会人になって多用するGoogle ツール。学生のうちから慣れておくのは非常に有益といえる。
具体的にどのようにツール群を活用し、学習を進めるのか、Googleが2019年3月にテックイベントSXSW EDUで披露した一例は、次世代教育のあり方を示すもの。
この事例では、まず教師が海洋プラスチックを削減するにはどうすればよいのかという課題を設定。Google Classroomを活用し、課題マテリアルを作成し各学生に配布する。
Google DocsやGoogle Sheetを連携させ、学生が情報やデータのソースを確認したり、分析したりするマテリアルを作成することが可能だ。また、Google Earthを活用し、プラスチックごみがどのように動いているのか、実際のデータを可視化することもできる。
さらに、チャットツールのHangoutで、その分野の専門家から直接話を聞く機会を設定することも可能だ。このほか、Google ExpeditionsのVRツアーでごみ問題などの状況をバーチャル体験させることもできる。
学校や教師自身がツールに慣れるための時間が必要なため、このような次世代教育が普及するまでにもう少し時間がかかるかもしれないが、今回の世界的な学校閉鎖で、必要性や可能性を痛感した教育関係者は多いはず。上記のようなオンライン教育の普及は目前なのかもしれない。
オンライン教育普及への障壁:デジタル・デバイド
期待が寄せられるオンライン教育だが、乗り越えなければならない課題は少なくない。
その1つがネット普及に関するものだ。経済格差が拡大する米国、低所得家庭ではネット環境が整っておらず、学校閉鎖によって自宅待機を余儀なくされる子供たちの一部が教育を受けられないという事態が発生。平等な教育機会が脅かされているとして議論を呼んでいる。
米シンクタンクのブルッキングス研究所が3月20日に発表したレポートによると、同時点において米国では10万校以上が休校となり、約4,800万人の学生に影響が出ているという。この4,800万人の学生のうち、数百万人がブロードバンドにアクセスできていない可能性があるというのだ。
米国家電気通信情報管理庁(NTIA)のデータによると、全米で子供がいる世帯のうち、ブロードバンド接続していない家庭は14.1%、約310世帯に上る。少なくとも300万人以上(1,200万人との分析もある)の子供たちが、オンライン教育の恩恵を受けることができない状況。
これは米国では「Homework Gap」と呼ばれ、この数年深刻な問題として議論されている。新型コロナの影響で、同問題が先鋭化した格好だ。
このHomework Gap問題に対して、各州・都市はオンライン学習向けの通信を確保するためのモバイルホットスポットを提供するなどの措置を実施。また同問題対策で設置された基金「Homework Gap Trust Fund」が数十億ドル規模の資金を投入するとの報道もなされている。
新型コロナウイルスをきっかけに鮮明になりつつあるオンライン教育の可能性と課題。その動向から目が離せない。
文:細谷元(Livit)